第3話 至高の打ち合い
早朝、朝ごはんを作った俺は倉庫へと向かった。
目的の場所に辿り着くとこちらに気づいたレイラが少し微笑みを浮かべたがそれを隠すように次は怪訝な表情を浮かべる。
「……今日も来たの?」
いや、さっき嬉しそうにしてたよね? この子ツンデレがすぎないか?
だがゲームでは常にクールだったのでこの冷たい反応は一、レイラファンとしてはむしろ嬉しいぐらいである。
「食べるだろ?」
「……食べる」
「ならよかった、じゃあ今日も一緒に食べるか。」
「……うん」
あれから1週間、俺たちは毎日一緒にご飯を食べるようになった。俺が自然に隣に座っても何も言わずそこにいることを許してくれる。
俺も最近は彼女との食事が1日の中の楽しみになっていた。
「今日はなに?」
「パンとリクエストのクリームシチューだ。前回より美味しくなってると思う。」
「……やった……!」
嬉しかったのか俺に聞こえないようにすごく小さな声で喜んでいた。
まぁ、聞こえてるんだけど……可愛いな。
彼女はあの日食べたシチューを随分気に入ってくれたらしく、よく作って欲しいと言われる。
美少女に照れながら上目遣いでお願いされたらもう聞くしかない。聞かないやつは人間じゃねぇ!
聴覚を強化できるようにしておいてよかったと心の底から思いつつ俺はシチューを器によそいレイラに渡す。
彼女は俺から器を受け取るとパアッと明るい笑顔でシチューをじっと見つめる。
料理に対しておい、シチューお前そこ変われと言いたくなるくらい熱い視線を注いでいた。
そしてスプーンで掬い口へ入れると幸せそうにとろんと溶けたような顔になる。
ほんと、美味しそうにたべてくれるなぁ……料理人日和につきる。
「美味しいか?」
「……! ……!」
俺の問いかけにレイラは無言でコクコクと頷く。
やばい……尊い……
ゲームでは絶対に見られないであろうレイラの表情をじっくり観察しているとそれに気づいた彼女は恥ずかしそうに顔を手で隠した。
「満足してくれたみたいでよかった」
「……ありがと、すごく美味しい」
「ん、俺も、レイラと一緒に食べれて幸せだよ。おっとそろそろ時間か。じゃあ俺はもう行くからな。」
そう告げると急に寂しそうな表情を浮かべる俺のシャツのの裾をギュッと握る。
「行くの?」
「ああ、日課だからな。これだけはサボれない。」
「そう……」
そんな寂しそうな顔をしないでくれ……それは俺に効く……
「じゃあ、一緒に行くか?」
「え? でも ———」
「父上に許可を取るから大丈夫だ。嫌なら無理にとは言わないが……」
「行く、行きたい!」
「そうか、じゃあ行こう。」
「うん!」
俺はレイラと一緒に檻をでて、外へと向かった。
◇
父上に許可を取りに行く笑顔で許可してくれた。
奴隷を思うあの人のことだから許可しないなんてことはないってわかってたけどな。まぁ、絶対に怪我をさせるなと釘を刺されたが。
「レイラ、剣を使ったことはあるか?」
「うん、あるよ私こう見えても結構強いから。」
この言葉は嘘でもハッタリでもないことは俺はよく知っている。
なんたってレイラはゲームにおいて最強キャラだったからだ。
剣術、魔法、両方の才に秀でており魔力量も高い。だがヒロインにはなっていなかった。あくまでファンの中で囁かれるヒロイン候補だった。
何故レイラがヒロインにならなかったのか、原因は俺ことアルクだ。
レイラは主人公によってアルクから救い出されるのだがときすでに遅し、レイラはアルクに悲惨な目に合わされたことによる精神的ショックで極度の男性不審に陥ってしまうのだ。
その為他のヒロインと比べて圧倒的に好感度が上がりにくく、レイラルートを目指す人は滅多にいなかった。
ちなみに俺はちゃんとレイラルートを成し遂げて見せた。レイラはヒロイン候補などではなく、しっかりとヒロインだったのだ。
(レイラが主人公に愛を伝えるシーンは本当に最高だった……)
あの時ほどの達成感はなかなか得られない。
「なら、俺と模擬戦をしてるってのはどうだ?」
「模擬戦?」
「ああ、負けを認めた方が負けだ。」
「……いいの? 私、本当に強いよ?」
「ああ、問題ない」
「……じゃあ手加減しない」
互いに5メートルほど距離を取り模造刀を構える。
さぁ、どうなるか……
「始めよう。」
開始の合図のコインを空高くヘと投げる。上空10メートルほどまで上昇したコインは勢いよく降下を始める。
そしてコインが地面についたタイミングでレイラが一気にかけ出す。
俺はまだ構えもせずレイラの出方をうかがう。
俺の間合いに入ったところでレイラはしゃがみ、俺の死角へと踏み込む。
なるほど、死角から一気に仕留める気だな。だが……
胴を狙った剣を俺はなんなくいなすとレイラは一度距離を取り呼吸を整える。
「今の反応できるなんて……すごい」
「そりゃどーも。さ、次は俺もせめるか、な!」
同時に全身へと魔力を流し、一気に間合いを詰めるレイラも全身に強化を施し、間合いを詰める。
互いの模擬刀がぶつかる。
「ふっ」
「ふふ」
俺達は互いに笑い合う。
お互いに自分のレベルについて来れる人を見つけたから。
互いの剣に自身の剣を重なるように俺たちは打ち合う。
ただひたすらに速く、鋭く、強い正確な一撃。まさにこの世の至高の打ち合い。
その打ち合いはレイラの模擬刀を俺が弾いたことによって終わった。
「負けた、完敗」
「ああ……いい勝負だった。」
「嘘、あなたまだ本気出してないでしょ? それくらいわかる。」
「すまん、失礼だったな」
今回の試合は全身の身体強化は補助程度でほとんど通常の筋力と剣術だけでやっていた。
本気で身体強化をして行えば模擬刀とはいえ恐らく彼女は重傷を負うか最悪死んでいただろう。俺は絶対にそんなことは嫌だった。
「あなたにいつか本気を出させてみせるから」
「ああ、期待してるよ」
「じゃあ、もう一回やりましょ?」
「もちろんだ。」
その後、一日中俺たちは打ち合った。
【あとがき】
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