第17話

 テレビ観終わってからの記憶が皆無。またやらかしたか…?

 寝落ちしたと悟りつつ、喉が渇いたので、お茶シバこうとテーブルに寄ると、優のスマホと思われる端末の下の紙に書かれた、『精神科』の文字が目に飛び込む。

「んだコレ」

 多分優のものかな。触らんとこう。一旦麦茶をガラスのコップに注いだ。詮索のつもりはさらさらないけど、念を入れて、プライバシーに配慮して視界から外す。

 すると、私の触ってもいないスマホの画面が発光しているのだ。コップの麦茶片手に、チラッと通知を見やると、不審な文が目についた。『さよなら』。優のアイコンだ。

 これは。

「えちょっと待ってちょっと待って」

 繋がりが読み取れない。そもそも同一人物だから『さよなら』ってな…り得るか。世間一般だとむしろ妥当か。病院の書類らしきものと、ラインのメッセージの意図とが、私達の関係にかちりと嵌まる。そしたらばどうだろう。彼の置かれ続けていた実情が浮かび上がってきたのだ。

「えっ?!」

 もの凄く優に申し訳ない。

 だって、重要な秘密を、少なくとも十数年抱えて生きてきたってことになる。誰も傷付けないように、私に心配かけないように、私が私らしく生きられるように。

 私が起きているうちに、何とかせねば。どう?どうやって?

 弟が消えるかもしれないというのに、私の脳細胞はろくに働かない。

 理解できるのは、この状況を突破しなければいけないということだけ。

 脳内でシンプルに事実をまとめると、ふと、単純極まりない解決法に思い至った。

 そうじゃん。録音しときゃいいじゃん。

 伝える内容をまとめて。情緒的になり過ぎないように。

 すぐそばの固定電話にスマホから電話を掛けて、私は声を吹き込む。

「ほら、私達は会えるんだよ」

 そう締めて、録音を止めた。

 あとは待つだけ、眠るだけ。

 アプリのタイマーに、十分後に鳴るようセットして、熟睡の一途を辿る。

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