第12話
僕は、酔っていた。ビン二本空けているんだから、当たり前だな。
姉さんからのラインに、少々ビビった。僕に似た顔が、どアップで撮られているんだもの。もしや、バレたか?ひた隠しにし続けたのに…。もしくは、探りを入れるつもりの可能性もある。
しかし、僕の長年の経験則、というか勘が、『ありえない』と判断する。そして、理屈が、いつもの如く結論より遅れてやってくる。
彼女は、今さっき、この写真を撮ったんだろう。なにせ、正に今日から放送時間が移動した、以前から僕のお気に入りである深夜番組が背景に映り込んでいる。
そもそも、彼女がビールをたんまり摂取した状態で色々思考して勘繰るのはまず不可能。
それに何より、この笑顔。見る人を幸せにする、なんてレベルでなしに、眩い。
まずい。姉さんの表情に、知らず知らずに見惚れてしまう。しかもほんのちょっとエロい。…耳が熱い。酒のせいということにしておこう。
危ない危ない。たった一枚の自撮りで、ペースを乱されてばかりだ。
そんなことより。僕の写真を送ったとして、姉さんは気付くだろうか。何年もずっと隠し通しているのだ。今までだってきっと綻びがあるし、少し察して欲しい自分もいる。
分かって欲しくない自分もいる。
アンビバレントな感情なのに、妙に同じ気持ちを指しているようにすら感じられる。
現状を維持するのは、自分を罰する為でもあるのに…。バレたら意味が無いのに…。
危うい僕らの均衡、特に姉さんの心の均衡を、傾けてみたい。彼女の頬を、ほんの一筋の涙で濡らしてみたい。
僕は、そういう人間なんだ。
最近やった擦り傷のかさぶた。右膝のそれを、べりっと剥がした。
滲んできた血を舐めつつも、顔の写真を撮って、文字入力して送った。
なんか官能的な雰囲気、だと思う。現状の何かしらがトリガーとなったのか、ふと、新しい小説のシーンのアイデアが浮かんだ。忘れないうちにノートに書き留める。そしてプロットに思いを巡らせているうちに、意識が遠ざかっていった。
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