第4話

 インターホンを鳴らすが、返事は無い。またかと思いながら解錠して、身体を玄関に滑り込ませてドアの鍵を閉めた。シューズを脱ぎ、端に揃える。慣れた手つきで、耳上辺りの両サイドにバッテンで留めてあるピンを取り、唯一トイレで着替えた際に着けたままにしていたヘッドドレスを外す。フローリングの床に座り込んだ。喉が渇いていることに思い至り、アクセ類を含めた着替えをクローゼットに返し、もこもこの部屋着に着替えて、洗面台で、さっき外したピンをプラスチックケースに仕舞い、手を洗ったのち、蛇口からコップに水を入れ、そのまま飲む。

 やっと一息つけた。

「何だかんだで、大会も疲れるわ…」

 声を発したそばから沈黙が訪れる。このアパート、防音がしっかりしているせいで、時々一人だけで存在しているような気になってくる。優は小説家で、仕事上、原則パソコン打つ以外の音は発しないし、そもそも彼は夜行性気味。案外、今なんか寝ているかもしれない。

『ただいま』

 返事は期待せずにLINEを送った。少しして、既読がついた。

『おかえり

 明日はゆっくりしてね』

 優から返信が来た。やけに早い、と思ったら、三十分経っていた。

 やはり、私は疲れているのかもしれない。お気に入りのキャラクターがサムズアップしているスタンプを送って、昼寝、いや既に十六時だと気付く。

 とりあえず寝た。

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