第3話

 行き来が電車なので、ゴスロリの服をシンプルなワンピースに、会場のトイレで着替えた。家バレは一番避けたいし。ひとまずこれで安心。動きやすいのはこっちだな。

 大会が終わって帰れるようになった瞬間、速攻で駅を目指す。ホームに来たと同時に到着した電車に、素早く乗り込む。

 吊り革に捕まり、電車の揺れに身を任せながら、緩慢に今後のこと、特に金銭面を考える。弟の優も、ヒキニートではある。ただ、本人は本人でかなり稼いでいるし、私も同じ。社会へのアクセスはあるから何ら問題ないし、正直、あと数十年は働かずに生きていける位のお金だってある。投資に回しているのも合わせるともっとだ。なぜ働いているのか、時々自分でもよく分からなくなる。

 家は丁度良い賃貸だし、お互い自炊もする。ゲームのグッズ買っても平気だ。そういえば最後に旅行に行ったのはいつだろうか。元来、仕事と趣味で既に充実している私達に、非日常の入り込む余地もない。とはいえ、誘ってみようかな。でも、どうなんだろう。優の方は会いたくないかもしれない。何でもないような内容のLINE頻繁に送ってくる姉なんてしつこいだけだと思っているかもしれない。あんなに心優しい弟なのだから、そんなのあり得ないけど、でも時々脳裏をよぎってしまう。拒絶されたら生きていけない。

 考えれば考えるほど、動画配信をする必要が無いことが浮き彫りになってくる。結局、優に相談のLINEを送った。やや長文になってしまった。感情が先行しがちな私に対し、彼は理性的で、頼れる部分も多い。恐らく、そのおかげで上手く噛み合っていて、同居も出来ているのだろう。

 …いささか感傷的になっていた。今日の夕飯を決めなければ。冷凍庫の魚を使おう。味噌汁には残った野菜詰め込んで。

 ああ、この毎日が愛おしい。誰も邪魔などしない幸せ。何があっても手放してはならないと、思うほど。

 すぐそばの、最上級の幸せ。

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