第11話 出会い5

樽のビールを売り切って、急いで新しい樽と交換してもらってから、1塁側に向かってコンコースを歩いていると、若い男性客に呼ばれた。


「ビール、ここで頼んでもいい?」

「大丈夫ですよ」

「じゃあ1杯」


ビールを注いでいると、名札を見たらしく名前を呼ばれた。


「そらちゃんって言うんだ。連絡先教えてよ」

「えーっ、それはちょっと」

「いいじゃん」


よくあるナンパ。

でも、席に座っている客じゃないから逃げづらい。


「最近スマホ変えたから番号覚えてなくて」

「じゃさ、DM交換しよ」

「DMって何ですか? 何かわかんないです」

「またぁ、いいじゃん」

「お待たせしました。ビールどうぞ」

「もう1杯買ったら教えてくれる?」

「ありがとうございました」

「ねぇ、そらちゃん!」


思ってたよりしつこい……どうやって逃げようか考えていると、そこへ知らない声が割って入った。


「嫌がってるのわかりませんか?」


さっき光輝と一緒にいた、永瀬くんだった。


「何、お前? こっちは大人同士で会話してんの。入ってくんなよ」

「仕事してる人にしつこく連絡先聞くとか、失礼ですよ」

「はぁ? こっちは買ってやってんの! 客なんだから!」


まずい……


「ブルーイーグルスの攻撃ですよ!」

「ああ?」


男の視線がマウンドに向いたので、永瀬くんに「行こう」と小声で囁いた。


「失礼しまーす」


そう言いながら、永瀬くんを引っ張って、コンコースを歩く人ごみに混ざった。

一緒に歩いていると、永瀬くんが真面目な顔をして言ってきた。


「あれって、セクハラじゃないですか」


なんだか、ちょっと前にもこの単語を聞いた気がする。


「ただの酔っ払いだから。適当に流しておけばいいだけだよ」

「やっぱり倉田さんだった」


やっぱり?

前にどこかで会った?


「看護師だと思ってました」

「まだ学生だけど……何で知ってるの? 光輝に聞いた?」

「東奈大学病院でもセクハラされてましたよね」


もしかして、わたしがセクハラされてるって手紙……

まさか……


「もしかして、手紙を書いた?」

「はい」

「あのね、あの時もわたしセクハラなんて受けてないから。さっきのこともそうだけど、そういうの余計なお世話、って言うの」

「自分をもっと大切にしてあげてください」


真面目くんだ……


「わかった、ありがとう。じゃあね」


面倒だったから適当に相槌をうってその場を去ったけれど、しばらく歩いて後ろを振り向くと、永瀬くんはまだそこに立っていた。

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