第10話 出会い4

満杯の樽を背負って、何列か階段を下って上がってを繰り返し、ちょうどネット裏にあたる列の階段を下り切ったところで、光輝を見つけた。


オープン戦は全席自由だから、普段は年間シートを持っている人しか座れない、一番前の席を確保したようだった。


「楽しんでる?」


声をかけると、光輝と仲のいい佐久間くんもわたしに気がついた。


「空さん久しぶりです。売り子のユニフォーム似合ってます!」

「ありがとう」

「光輝の英語、空さんが教えてるんですよね? こいつめちゃくちゃ成績上がったんですよ!」

「本当? 良かった」

「今度俺にも教えてください」

「いいよ」


佐久間くんの横に、初めて見る顔の子がいた。

彼が光輝の言っていた野球部の子?

目が合うと、ぺこりと頭を下げられたので、こっちも会釈する。


「空夏、こいつが野球部のエース。永瀬」

「エースは言い過ぎ」

「かっこいいね、エースだなんて。試合楽しんでね」


永瀬くんがじっとこっちを見ていたのが少し気になったけれど、光輝とわたしの関係を知らなくて、訝しく思ったのかもしれない。



階段を上がりながら、呼ばれるとビールを売って、上り切ったら隣の列を下りる。何列か繰り返す頃には、そんなこともすっかり忘れていた。

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