第12話 真面目な子
バイトが終わった後、更衣室で着替えながら、桜華に永瀬くんのことを話すと笑われた。
「セクハラね! かわいいこと言うなぁ。高校生だっけ?」
「高2」
「わたしなんて、今日来てた夫婦の奥さんの方に『キャバクラ行くより球場で売り子からビール買ってくれてた方が安心だから』って言われたよ? 売り子って、何位置?」
「まぁ、女の子と話せても触ったりはできないからね」
そうは言っても、たまに触ってくる人や、ナンパ目的で球場に来る人たちもいる。
度を越えてる場合は、林さんに言えば、そんな人は球場から追い出してくれる。
でもめったにあることじゃない。
基本的に野球を見るために球場に来ている、野球好きな人ばかり。
飲みすぎてはめを外す人はいても、飲ませてるのはこっちだし。
「空夏、駅まで送ろうか?」
「いいよ。彼氏の車でしょ?」
「いいって。空夏なら絶対OKって言うから」
「ありがとう。でも、1人で大丈夫だよ」
野球が延長に入ったせいで、観客より先に帰ることになった。
従業員出入り口で桜華と別れ、いつもは駅まで大勢の観客と混じって帰るところを、1人で駅に向かう。
球場から駅に続く道は街灯があるから夜でも明るい。
途中、大通りを一本外れたコンビニに寄ったところで、まさかの永瀬くんに会ってしまった。
バッチリ目があったから、仕方なく話しかけた。
「1人? 光輝たちは?」
「延長になったから早めに球場出て、さっき別れました。オレん家この近くなんで」
「そうなんだ。じゃあね」
「駅まで送ります」
えっ?
「いいよ。慣れてるから」
「いえ、もう暗いですから。女の人1人だと危ないです」
どんだけ真面目なの……
結局、駅まで送ってもらうことになって、2人で歩いたけれど、話が弾まない。
野球部と聞いていたから野球の話をしてみても、「はい」とか「まぁ」とかしか返事が返ってこない。
光輝が夢中になっているアプリのゲームの話をふってみても、「ゲームしないんで」の一言で終わってしまった。
自分のことを、誰とでも話せる方だと思っていたけれど、この子はどこか話しにくい。
同じ高2でも、光輝と仲のいい佐久間くんとは普通に会話できるのに。
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