第5話 日常3
JRを降りた後、ひとりで家に向かって歩いていると、前方に見慣れた後ろ姿を見つけた。
それで、追いかけて行って声をかけた。
「光輝!」
名前を呼ばれて、ブレザーの制服を着た男の子が振り向いた。
「なんだ、空夏か」
「自転車は?」
「朝、雨降ってたから」
「わたしが家出る時は降ってなかったのに。塾の帰り?」
「空夏は……飲んでるだろ?」
「まぁ、もう、20歳超えてますから」
「今日で実習終わりだったっけ? 明日、バイト行く?」
「行くよ」
「明日、佐久間達とオープン戦見に行くから」
「佐久間くん達?」
「佐久間と同じ中学だったやつ。今は崇北高校で、野球部のエースだって」
「崇北って、野球の強豪校だよね? そこのエースって、すごい子なんだ。で、勉強はいいの? 春には高3でしょ?」
「息抜きも必要だって」
いとこの光輝は中学の時、信号無視で横断歩道に突っ込んできた車に轢かれてひどい怪我を負った。飲酒運転だった。
日常生活に支障が出ないくらいには回復したけれど、走れなくなった光輝は、野球選手になる夢を諦めなければならなくなった。
それでも光輝は変わらず野球が好きで、球場にもよく足を運ぶ。
そして今は、将来スポーツに携わる仕事に就きたいと言って、そのための大学に進むことを目標としていた。
「高校生ばっかりかぁ……ビール売れないじゃん」
「20歳超えてても球場のビールは買わないよ。高いから」
「言えてる」
光輝は事故のせいで、よく見ないとわからないけれど、歩き方がぎこちない。
どうしてこの世界はこんなにも理不尽なことで満ちているんだろう。
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