第31話

「あんの、野蛮人!逃げやがりましたわ!!」


若干口調がまずいことになりかけているが、それも無理もない。だって、下着を覗かれた挙げ句、なんか変な感想もおまけで付いてきたのだ。

怒らないほうがおかしい。


「お嬢様。こんなものが落ちています」

「何よ!」


『 背景、まちがえた 拝啓

 これをあなたが見ているということはきっと、あっしの貞操の危機が迫ったときでありましょう。

明日の午後二時にバツバツ教室にて、魔王の如く待っておりまする御座候     けい具』


「·······」

「どうなさいますか、お嬢様」


一度スーッと大きく息を吐いて·····


「バツバツ教室ってどこですの·······」




ーーーーー



ふむ、全く来ない。

今は午後の二時ちょうどくらいだろうか、ここは第二会議室でせっかく話すだけのために予約して取ったのに。後、ちゃんと会議室って書いたよね!?あれ、もしかしたら教室って書いたかも?


「もう、帰ってしまいたい」


ああ、こうしてると、小学生の時のかくれんぼでおいてかれたときのことを思い出すな。

あ、やばい。精神ダメージが、


「や······やっと、見つけましたわよ······」

「おお!遅かったじゃないか、マイブラザ—」

「—拘束ぅぅ!」


それと同時に昨日のボディーガードさんが突進してきた。



「さあ、昨日と同じですわね?」

「そうだね、離してよ」

「嫌ですわ」


「そんなことより、わたくしの物を奪うとはいい度胸していますわね」

「いや、誤解つってんだろ。善意を汲み取らないと後々大変だぞ?」

「後とはなんですの」

「お前が謝るとき」

「ないですわ」

「·········」


なんか話が平行線だな?なんか落とし前をつけたいところなんだが、頑固すぎるこのお嬢


「なんで、そんなに警戒するんだ。理由がどうあれ声かけただけだぞ」

「わたくし、男性恐怖症なので、敏感なんですわ」

「······ボディーガードの人は男なのに?」

「彼は男色家ですわ。その点、一応信用はできます」

「おい待てっ!今さらっと重要な単語が聞こえたぞ!え、なに?俺本当に貞操の危機だったの!?」


その後も授業をほったらかして弁明に明け暮れた。ていうか、夕方だ。なんとかして、この十六年間で培ってきた語彙力で言いくるめたり、粘ったりした。


「む、た、たしかにそういう説もあります。でずが、私の意見は変わりません!」

「くっ、なかなかどうしてそんなに折れないんだ」


さすがに腹が減ってきた頃合いだ。もう、さっさと帰りたい。


「·····お嬢様。もうしばらくするとご会食のお時間ですが」

「え、もうそんな時間なの?むむ、今日はこのくらいにしておきます。が、明日も覚悟なさい!」


な、なんとか逃げ切ったのか?



「もう、余計な労力を使いましたわ」

「お疲れ様です」

「まったくですわ」

「······ですが、長い間男性とお話されて大丈夫でしたか?」

「え?あれ、たしかにこんな長い間喋ったのはいつ以来かしら?」

「覚えていないほど、久しいということですか」

「ん、まあきっと尋問に夢中だったのでしょう。それより、あいつの正体を暴くために趣旨を変えるわ」

「というと·····?」

「あいつが本性を出すまで監視ですわっ!」

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