第27話

目の前で自分のモノを抑えながら悶えている男が一人。これはなかなか地獄絵図。


「うーん。ごめんねなんか?」

「フーッ········フーッ·····」

「だめだ聞いてない」

「俺はぁ、元自衛隊で·······体力自慢だったがこうも情けないとわなぁ」

「?それはバカ正直すぎるだけじゃ·····パンチのことも鵜呑みにしてたし」

「ハッ、なにが明鏡止水だよ」

「明鏡止水は明鏡止水だよ?。そんじゃ」


さすがもう一回急所にアタックするのは可哀想だったので、すこーしの間酸素の供給を絶って気絶させた。首トンすると体使えなくなっちゃうしね、それはそれで可哀想。

ていうか、そもそもこれ八つ当たりだし。このマッチョ関係ないし。だが、俺の大事な大事な本を投げた舎弟をつけたのが悪い


(誰も見てないよな?)


急に不安になってくる。誰かが家の窓からこちらを見ていなかっただろうか?辺りは暗くてよく見えないし、きっと周りの人たちも見えてないだろう。

もし見られてたら俺が犯人扱い?それは嫌だ!!


(早く、救急車と警察呼んで帰ろ)


その時は相当焦っていたのか、本を無下にされてしまっていて心に余裕がなかった。

通報もして、少しの時間が経ってサイレンなどの音が聞こえてきたところでさっさと立ち去ることにした。


(まあ、あんまり良いことではないけどね)





ーーーーーーーーー



「通報で言われていたところはココかっ!?」

「はい、指定された住所もあっています」


程なくしてパトカーから中年男性とまだ若い男性が声を張り上げながら降りてきた。


「チっ、このあたりはよく見えんな。」

「あっ!長谷部さん。あそこに男の人が二人います」

「ムッ、きっとそいつ等が言われていた奴らだろう。とりあえず拘束しろ」

「ハッ」


それから男二人を拘束した後、またとあることがおきた。


「長谷部さん!こちらに中高生と見られる女の子を発見しました!」

「なに、わかった。今向かう」


呼ばれたところに行くと小さくうずくまっている女の子がいた。きっとものすごく怖い思いをしたのだろう


「大丈夫かい、お嬢さん?何があった話せるか?」


その後も問いかけを続けてみたものの、断片的なことしか話してはくれなかった。だが、この男たちに襲われたのは事実だろう。だが、ここで疑問なのがなぜ少女がうずくまっているのにこの男たちも倒れ伏しているのだろうか


「悪いが、事情聴取もしなくちゃいけなくてね、ほんの少しの間一緒に来てくれるかい」

「わ·····かりま、した」

「ありがとう。助かるよ」


なるべく優しく丁重にしなくていけないな。

その後にパトカーに少女を乗せていると部下が話しかけてくる。


「長谷部さん。事件現場にこんなものが」

「なんだこれは?ブレスレットか?男たちのものか」

「わかりませんが、状況から男たちのものでしょう」

「そうか。すまんが、お嬢さん。これに見覚えはあるかい」


長谷部が提示したものを見た瞬間目を見開く。それは自分の知っている限り2人しか身に付けていない。だが、そのうち一方は足が不自由で、あの大柄の男と戦えたのかと問われれば、違う。

つまり、一人しかいないのだ。

そうなってくると、話が変わってくる。

大事。その言葉を頭の中で反芻する。

だめだ、思わず口が綻びそうになる。

いつから、こんなにチョロくなってしまったのだろうか。


「いいえっ、わかりません」


はっきりとした声で頰を火照らせながら言った





ーーーーーーーーーー



昨日は本を読む予定だったのにアイツラに邪魔された。許すマジ

まあいいや、とりあえず食堂で飯を—


「おいおい、あそこに橘さんと知らん男が座ってるっ」

「え、熱愛か?戦争だろ、そいつ誰だ」


うるさいなぁ。ホントに人が悲壮に暮れているっていうのに。でも、ちょっと気になるからチラッ


「·········」


目線の先には橘さんと翼が楽しそうに話している

その光景を見て、俺は危うく定食を落とすとこだった。

大願成就とはこの事を言うのだろう。

ふたりとも、笑い合っていたり、話し合っていたり、そこにはなんの壁もない。

時に橘さんが照れたり、落ち込んだりしている。

こうも、感情豊かになるものだろうか

いやぁ、本の件は水に流して、今の幸せを享受しよう。ああ、苦労が報われたよ。


幸せの気持ちで一杯だったからかもう放課後になってしまったので、昨日のリベンジということでまた本を買いに行こうと思う。

それから、支度をしていると——


「あの、坂本くんちょっといいかしら······」

「ん?橘さん。いいですよ、なんですか」


いかんいかん敬語になってしまった。ていうか、もう俺関わる必要ないですか?わかんないですけど。


(なんで、そんな堅苦しいのよ)


橘は胸中で少しムッとしながら当初の目的を遂行するために気に入らないが、人気のないところに連れて行く。


「私、あなたにお礼を言おうと思って····」

「お礼?」

「·····しらばっくれるの?」


少し怒気のはらんだ声で尋ねる。


(大事って言ってくれたくせに)


「そういえば、昼に食堂で翼と話してたよな?どんなこと話してたんだ」


ドキッと胸が高まる。自分でも心拍数が上がっていることに気づくくらい。

言えない、あなたのこと知りたくて、色々聞いていて一喜一憂してたなんて。


「ね、ねぇあなたはどんな時に戦いたいと思う?」

「たたかう?」


また抽象的な発言が飛んできた。バトル漫画じゃあるまいし、橘さんのことだし勉強のことだろうか?

そうなると

勉強をするのは成績のため、成績は大学に進学したり、就職したりするときも勿論使う。他の場面にも様々なことに使う。大切。

つまり、勉強=成績=大切なこと

それから途中のものを端折ると勉強=大切なこと

となる。


つまり、······


「まあ、大切なもののために戦う····かな?」

「·········そ、そっ!」


突然俺に背中を向ける。答えミスったか?

たしかに大切なものも抽象的なものでもっと具体的なもので答えたほうがよかっただろうか


「ありがとっ」

「?」

「聞きたい答えが聞けたわ。それじゃ、私もう帰るからっ!!」

「⁇」


一応答えは合っていたらしい。でも、声も上ずっていたし、顔も下を向いていてどんな表情しているかわからないからこれでよかったのか分からない。


「考えてても、········仕方ないか?」

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