第71話 クラスメイト達

 月曜日。

 私はいつものように自分の席へと座る。

 クラスメイトはまだ文化祭の熱に浮かれているようで、だらしなく机に座ったり、制服の着こなしがゆるかったりと気が抜けていた。

 そんな光景に、私の口元は自然と緩む。

 朝だっていうのに、祭りの終わった後のような雰囲気が漂っている。

 こういう雰囲気はいいな、って私は思う。


「ねね、日並! 彼ピ来たよ!」

「ラブラブ過ぎて憧れるわー」


 しかし突然、水を差されたかのようにクラスの友達に声を掛けられた。


 また始まった。

 私は呆れと諦めの混じったため息をついた。


 周りからは黄色い歓声があがり、クラス内がソワソワとし始めた。

 これは夏休みが明けてからのこのクラスの恒例行事だった。


「日並、おはよう」

「……おはよう」


 前の扉から顔を覗かせて私に声を掛けたのは彼、夏輝くんだった。


 彼は夏休み前とは随分変わった。

 もう本当に、見てわかるくらい。

 と言うか自分でも変わったって言ってたし。


 夏休み前はパッと見、常にぼんやりとしているような表情で冴えない感じ(友達談)だったのが、夏休みが明けてからはその表情がキリリとしてて、誰に対しても気軽に会話をするようになり、雰囲気が明るくなった。

 その変わりっぷりに夏休み明けの初登校日、彼のクラスは随分と騒ぎになったらしい。

 辰也が疲れた様子で愚痴っていた。


 まぁ、毎朝律義にこうして私のクラスに来て挨拶するくらいだし、誰の目から見ても彼は変わったように見えてるんだと思う。

 そのせいでほぼ毎日クラスメイトから囃し立てられているけど、彼の気持ちは嬉しいし、悪い気はしなかった。

 クラスメイトにはいい加減静かにして欲しいけどね。


「また部活で」


 彼はそう言って、私にヒラヒラと手を振りながら廊下へと姿を消す。

 顔が熱くなるのを感じながら、私もクラスメイトにバレないように彼が見えなくなるまで小さく手を振り返していた。


「ねぇ、奈々果。いつも手振ってるの気づかれてないとでも思ってたの?」

「バレてるよ」

「げっ」

「ねーねー、どこまで行ったの!?」


 後ろで様子を見ていたらしい友達に囲まれる。

 馴れ初めとか、デートのこととか何回か話したような内容を聞かれる。

 でも、まぁ、うん。

 やっぱり悪い気はしない。



「お前、辰也の幼馴染寝取ったって噂ほんとだったの?」

「言い方ってモンがあるだろ」


 日並への朝の挨拶を終えて教室に入ると、クラスメイトにそんなことを聞かれた。

 それにしても酷い言い草である。


 でもまぁ、そう思われても仕方ないのかもしれない。

 辰也と日並は結構仲が良いし、俺も最初は好き合っているのかと思っていた。

 俺は一応、俺と辰也の名誉のために説明をすることにした。


「辰也のお婆さんの家行った時に聞いた話なんだけど、幼馴染ってだけで周りから囃し立てられてお互い結構嫌だったらしい」

「へぇ?」

「それで恋愛的に見えなかったみたいだから、辰也が言うには気にしてないって」

「ホントかよ」

「辰也が来たら直接聞いてくれ」

「そうするわ」

「……さっきと同じ質問の仕方はやめろよ?」


 立ち去ろうとしたクラスメイトに一応釘を刺す。

 辰也がアレを聞いたら多分怒る。俺の方に気を使って。

 頼むから変なトラブルは起こすなよ、と静かに祈った。


 しかしそれにしてもだ。

 夏休みが明けてからクラスメイトからの質問攻めが本当に酷い。

 まず始めに夏休み中に校内で日並のケツを追い回していた話題から始まり、彼女と付き合い始めたことに続き、そして俺自身のことを聞かれたりといっぱいいっぱいだった。


 別にいいだろそんなこと、と思ってしまうほどだ。

 さて、俺はそれほどまでに変わったのだろうか。


「あれ? 青原今日日直じゃね?」

「あ、そうだった。ありがとう」


 まぁ、でも。

 こうして気軽に話しかけてくれるクラスメイトが増えたのは、単純に嬉しく思う。

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