第66話 部長へのお土産

「部長ー、ただいまもどりましたー」

「部長、約束のお土産です」

「おっ、ありがとね。二人共」


 旅行後始めての活動日のことだ。

 部室に入ってすぐに、俺と日並は部長にお土産を手渡した。

 俺と日並で一つずつ用意して、二つとも一緒の袋に入れていた。


「どれどれ中身は……おぉ、ご当地限定特有の変なお菓子……いいね」

「それは俺からです」

「いい選択だ。ありがとう」


 部長は袋をゴソゴソと漁って、中身を少し出した。

 大きい方が俺からで、小さい方が日並からだ。


「じゃあヒナちゃんからのは……お、ペン」

「こっちも例にもれず、ご当地限定です」

「いいね、うん。ありがとう。大切に使わせてもらうよ」


 部長はお土産に嬉しそうに目を細めると、お土産を袋に戻した。

 喜んでもらえたのなら、何よりだ。


「旅行の方はどうだった?」

「楽しかったです!」


 元気に答える日並。


「野菜の収穫手伝ったり、夏祭り行ったり、水族館に行ったり……」


 日並が語る旅行の出来事に、部長は満足そうにウンウンと頷く。

 そして一通り聞き終わると部長は不意にこちらを見た。


「君も、旅行はどうだった?」

「楽しかったですよ」


 俺がそう答えると、部長は少し驚いたような顔をした。


「なんか、悠然としてるね」

「まぁ、いろいろあったんで」

「いろいろ、ね」


 部長は、なにか含みを持たせた様子で俺の言葉を繰り返した。


「それで、他に報告は?」と、俺と日並に目を向ける部長。


 その質問は……もしかして、気付かれているのだろうか?

 俺と日並はお互いに目を合わせた。


「えーっと、その」

「うん」

「部長、気付いてますよね?」

「なにがだい?」

「大体、気付いてないとさっきの言葉は出てこないです」

「ふむ、なるほど」


 部長は「でも本人の口から聞きたいじゃない?」と誤魔化すように笑った。

 やっぱり俺達の関係に変化があったことに気が付いていたようだった。


「まぁ、はい」

「付き合うことに……なりました」


 顔を赤らめて言う日並に、部長は「うむ、よろしい」と深く頷いた。


「まずは、おめでとう」

「ありがとうございます……?」

「今後の君たちの文芸部での扱いですが」

「はい?」

「イチャイチャするな、とは言いません」

「あ、はい」

「でも、部活動との分別は付けてくださいね?」

「……わかりました」


 そうは言われたが結局、部長に結構な頻度で注意される現状であるのは、いうまでもないだろう。



 部長に注意されて、改めて原稿用紙へと向き合う。

 相変わらず、小説を書こうとすると何かに足や腕を掴まれたような感覚になる。


 そうだな。

 結局のところ、全てが全て解決したというわけではないのだ。


 俺の中に渦巻く罪悪感は、未だ消えることなく残っている。

 小説を書く権利などお前にはないのだと、叫び続けている。

 

 だけどまぁ、そんなに叫ぶなよ、と自分のペンを握る手に力を籠める。

 お前達をどうにかする手段はもう、見当が付いてる。

 だからまずは、書かせてくれ。

 書かせてくれよ、と言い聞かせる。


「別に否定したいわけじゃないんだ」 


 誰にも聞こえないように、ポツリと呟く。

 叫びが、静かになる。


 それでいい。

 さぁ、最後の仕上げをしよう。


 握ったペンはさらさらと原稿用紙の上を走った。

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