第3話 生臭い夜
「なんだあんたら?」
ふてぶてしく、男は眼前に現れた珍客を、腫れぼったい瞼から覗く目で睨める。――おお、生きている人間を見るのは、いつ以来だったか。肌は脂でテカっていて、血が通っている。ちゃんとした餌をもらえているようだな。
たしか生の人間と最後に会ったのは、自称勇者とかいう4人組だった。城に乗り込んできたところを手厚くもてなして、夕食になってもらったのが懐かしい。
薄汚れた制服をまとったこの男は監獄の看守だろう。男の左手はすでに、剣の柄に添えられている。賭け事に興じていたらしき後ろの仲間たちも、こちらを警戒している様子だ。
「私はここから北東にある城からやってきた、グアストロというものだ。夜分遅くに邪魔をしてすまないが、監獄を案内してほしい」
「初耳だな。約束は?」
「していない」
――ワハハハ!
看守は笑い出す。つられて後ろの連中も笑った。
「失礼。約束はないのでは、たとえ王様であってもお通しできませんな。今夜はお引き取り願いましょうか」
いやに恭しい男の顔は、嘲りの感情で歪んでいる。後ろにある監獄の雰囲気に、負けず劣らずの陰湿な奴らだ。
私は懐に手を忍ばせる。それを見て、看守は剣を鞘から引き抜く。
「待たまえ、君たちに土産を持ってきたのを思い出した」
手に握ったそれを差し出す。金色のコインがじゃら、と音を立てて、鈍く燈火に光る。男は1枚を掴むと、眼前にかざす。
「これはこれは……。約束があるのなら、先におっしゃっていただかないと」
「案内を頼めるかい?」
「ええ、勿論ですとも」
看守が合図をすると、門が開かれる。風に乗って、熟成した人間の悪臭が吹き抜ける。塀の内に入ると監獄の全体像が見えた。これは人間の管理にそのまま使えそうだ。
……我ながら今夜は冴えているな。呑気に前を歩く看守たちをよそに、腹の中で笑う。今夜は味わい深い夜になりそうだ。
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