第2話 人間たちはどこに?
「久しぶりの外出だが、なんというかこう……みすぼらしくなったなあ」
屍人(アンデッド)の従者たちを引き連れて、城下を巡る。跨る馬もまた遺体を拝借し、加工したものだ。アンデッドなので痩躯となってしまうことは否めないが、格好はつくので良しとしている。馬はいつの時代も貴重品だ、有しているだけでも身分が違ってくる。
さて、かれこれ数時間は城を中心に、一帯を巡ってみたのだが、人っ子一人いやしない。あるのは打ち捨てられた住居や畑ばかり。
「人間がいないのでは話にならない。誰か行方を知っている者はおらぬか?」
従者たちは顔を見合わせて、ウーウーと唸っている。執事も連れてきたのだが、虚空を見つめている。
「……ちょっと待て、普段はどこから人間を調達していたんだ?」
――ここから半日ほど歩いたところにある山奥にございます。なんでも、そこは流刑地として使われているそうな。
「それを早く言わんか」
――聞かれなかったものですから。
「全く……そこへ案内してくれ」
かしこまりましたといい、執事が先頭を歩く。馬に揺られながら、小高い丘に建つ我が根城を見上げる。生い茂る木々に囲まれた古城は、栄枯盛衰の象徴とも言える。私が流れ着いたときには、城主も家来も去って久しかったようで、カビや樹の根が侵食していた。その時点で、築城から数百年は経っていた。人ならざるもの根城としては申し分ない。
木々の間を黙々と進んでいく。生活に使われていたであろう小径は、伸び切った雑草が覆ってしまっている。従者たちは草木に体をこすりつけながら前進している。
「お前たち、先に立って草を切れ」
ウー、と低く唸った後、腰の剣を引き抜いて、草を薙ぎはじめる。剣といっても、手入れするものがいないから錆が目立つ。それを危うげな手つきで古いものだから、見ていてヒヤヒヤする。
「やれやれ……」
やがて日が落ち、夜になる。グールの体質で便利なところは夜目が利くことだ。昼間とほとんど変わらずに、視界が通る。しかし、それは他の魔物も同じことで、夜が危険なことにも変わりはない。
半日の距離を移動して、目的地に到着する。
――ここが流刑地にございます。
執事が指差す先は、森の奥地に建てられた監獄であった。監獄にはポツポツと松明が灯っており、高い塀で囲われている。
「辺鄙なところに建てたものだな。しかし、どこから罪人を運ぶのだ? このような山奥では、手間だろう?」
そういうと、またしても執事が指で指し示す。その方向を見ると、遠くに何やら人工物がある。近くに行ってみると、それは簡素な港であった。なるほど、船で罪人どもを運ぶのか。
「では、行くとしよう」
馬を手繰り、監獄の門へと向かう。まずは、ここの人間たちの味を確かめてみようではないか。
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