第2話  三男は功労者か?

つい5分前までは、家に帰りたかった。

なぜなら、初めての合コンで緊張していたから。


でも今は期待に満ち溢れている。

だって、もしかしたら 今日の合コンの相手は『超』がつくイケメンかもしれないから♡


「よし、入ろう」

親友でもあり、この合コンの幹事でもある

夏帆かほが言う。

わたしは、もう1人の親友 茉莉まつりと顔を見合わせて「うん」と頷く

その時...


「ふぁ..ふぁっ...へあっくしょーんうあぁ″ぁ″」

っと特大のが出てしまった。


「ちょっとぉ〜」


夏帆かほが眉間に皺を寄せて言う。

「あのさ、前からずっと思ってたけど、そのどうにかなんないの?」


「あ....ごめん、アレルギー体質で、何だかよく分からない物に反応しちゃうんだよね」


「そうじゃなくてね、くしゃみが出るのは仕

方ないけどね...その、なんつーか...」


口篭る夏帆に続けてもう1人の親友 茉莉まつりがその後を続ける

「もうちょっと優しいくしゃみは出来ないのかな? 亜美あみはさ、顔は可愛いのに、くしゃみがなんだよ。」


おじさん....

ふと、記憶が蘇る


そーいえば、あの時...

図書館で、『オッサンみてぇ..』って聞こえた。

あれは、わたしに対してだったのかな...


「亜美!」

「あ?」

「あ?じゃなくて、そのくしゃみ、これから封印してちょうだい! そんなんじゃ出来る彼氏も出来ないから!」

「はい。分かりました」


わたしだって、この合コン、なんとしてでも成功させたい!そして!!


リングピアスのおしゃれイケメンと

サラサラヘアのハイセンス イケメン

何としてでも、最低でもお友達にならなきゃ!!

だって....

今日を逃したら、2度と会えない気がする!!


そうして、わたしは決戦のお店へと入って行った。




   ——————————————



お店の中は、今流行りの曲が流れていた。

コンクリートの打ちっぱなしの壁に、所々 木材が張られていて、観葉植物なんかもオシャレに飾られていた。

さらに照明が良い雰囲気を演出していて

なんてゆーか、『洗練』されたお店だった。


やっぱり、イケメンはお店選びから違うなぁ..と感心してしまった。


店内をぐるりと見渡すと、奥から「こっちこっち」の手の合図が見えた。


席に行くと男の人が3人座っていた。

こっちはわたしと、夏帆、茉莉の3人だから

ちょうど3:3という事になる。


まずは、自己紹介が始まった。



「あっ、どーもー。万端ばんたん医大で『放射線技師』やってる、山田 一男やまだかずおです。

いやぁ、夏帆ちゃんのお友達みんな可愛くてビックリしちゃったよ〜 なんだよ〜、こんな可愛い子と 友達なんだったら、もっと早くに紹介してくれよぉ〜」


(........あれ?)


「あ、ボクも同じく放射線科で働いている、

田中 二郎たなかじろうです。あっ、心配しないで、いきなりお待ち帰りとかしないから。あっはっは、なんちゃって〜」


(え、えーっと....)


「なんだオレか?俺はなぁ....この一帯をる男だ。その界隈からはブラック ボーイって呼ばれてるぜ、ヨロシク」

「何カッコつけてんだよ〜三男みつお〜。お前、板金屋のせがれだろ〜」

三男みつおってよぶんじゃねー! 俺はブラック ボーイだ」

「はいはいはいはい。あ、女の子たち ごめんね、三男はねオレの近所に住んでて、昔っから良く遊んでたんだ。」

(は、はぁぁぁ...)

「そ、そうなんですね...」


(あのイケメンは....どこ?泣)


合コンの相手は、全く違う人たちだった。

目の前には、ブロッコリーみたいなモジャモジャ頭の人と

大きな可愛い目どころか、鳥並みに小さい目の人と

黒の皮パンに、黒のライダースジャケットを羽織って、黒のレザーのキャップを被った男がいた。


てっきり、イケメンたちと合コンできると思い込んでいたわたしは、落胆の色を隠せなかった。

そうなると、さっきのイケメン君たちはどこに行ったのか気になり始めた。

このお店に入ったんじゃなかったんだろうか..


お店の中を見回してみると、少し離れた所に

そのイケメンたちがいた。

同じテーブルには、オシャレで可愛い女の子達がいた。

彼らも合コンなんだろうか、それとも友だち?

もしかしたら彼女かもしれない。

美男美女でとってもお似合いだ


—— そっか...そもそも、わたしには不釣り合いだ。


一旦落とした視線を上げると、ピアスのイケメンと目が合った。

慌てて視線を外すとブラックボーイ...三男がこっちを見ていた。

「アミちゃん」

そう呼ばれて、何故か背筋がゾッっとする

「な...なんでしょうか」

「かわいいじゃん」

再びゾワゾワっとする

「いえ、わたしなんか...全然ですよ」

「モテるだろ?」

「モテません。」

「しつこい男が居たらさ、俺にいいな。オレが始末してやっからよ」

「.....あ、大丈夫です。そーゆー事ないんで」

「オレさ....強いんだよね。ケンカ」


あー、ヤダ。「男らしさ」とか「強さ」を勘違いしてるヤツ。


「あの、わたし平和主義なんで...ケンカはちょっと.....」

「こないだもさ、ヤー公ふたりをボッコボコにしてやったんだぜ。」

「へー、そーなんですか。」

「そういえば、アミちゃんって、ナースな 目指してんだって?」

「んーーーー.....でも、途中で方向転換するかもしれません」

「もしオレがさ、ケンカして怪我したら、アミちゃんに介抱してもらおっかな」

「あのですね、ケンカで怪我した場合は、警察に相談して下さい」

「あっはっは、じゃ宜しくな!」


人の話 聞いてる!?


人間、見た目じゃないのは分かってる。

分かってるけど、いくらなんでも酷くないですか?夏帆さん...


「俺さ」

まだ続くんかい...

「アミちゃんが嫌っていうなら...オレ、他の女なんて、切るぜ」

「あ、わたしの事はお構いなく。彼女といつまでも仲良くしてて下さい」

「.......かーわいい。照れんなって」

「照れてません」

「携帯の番号、交換しようぜ。あと、インスタとかやってる?」

「あ、今日、スマホ持ってきてないんで....」

「じゃあ、とりあえず、アミちゃんの番号教えてくんない?」

「あーー、自分の番号覚えてなくて...」

「あっそ、じゃあ、そこにいる友達に聞くわ」

「あ..個人情報保護法に引っかかるんで、やめた方が...」

「照れんなって」

だから照れてないって!!!

嫌がってんの分かんないかな〜(涙)

「アミちゃん」

「.....斉木さいきです。」

「オレ、今フリーだぜ」


三男がしつこい。

どうやら、ロックオンされたらしい。

はぁ、こんなはずじゃなかったのに...


なんとなく、無意識的に

イケメン君達の方を見てみる。

(あーあ、もちろん性格がいいのが1番だけど、どうせならカッコいい方がいいよなぁ...あの人たちみたいに)


すると、ピアスの彼が、こっちを向いた。

目が会うのはこれで3回目だ。

でもわたしはまたしても、視線をそらせてしまう。


目の前では、相変わらず三男が何かを喋っている。


「あ、あのっ....ちょっと、おトイレに」

「おう、オレも行くぜ」

「あ、じゃあお先にどうぞ」

「一緒に行かねーの?」

「1人で行きます!!!」


誰か助けて....(涙)



    —————————————

 

あの場が辛くなって思わずトイレに逃げ込んでしまった。


「三男がしつこい...」


特に必要もないけど、お化粧直しをしたり、髪を整えたり、時間稼ぎをする。

でも、それも時間の問題だ。

大きなため息をついて、席に戻る決意をする。

最悪、具合が悪いとか何とかいって、先に帰ろう。



トイレを出て廊下にでると、そこには三男がいた。

「げっ!!」

っと、思わず声が出そうになる。


三男はゆっくりと、わたしの方へ近付いてきて、その顔をわたしの耳元にまで近付けた。

咄嗟に身を縮める。


「2人で、抜ける?」


三男のまさかの提案に、背筋が凍る。


「いや...みんなの所に戻らないと...」

声にならない声で反論する。


「いいじゃん、オレ、アミちゃんの事気に入ったし」


「あの...わたしは、まだ、ちょっと..」


どうにか隙を見て、ここから逃げようとしたけど、三男に腕を掴まれてしまった。


「違う店に行く?それとも、カラオケに行く?あそこなら、2人っきりになれる」


三男は「ニヤ」っと笑って

わたしの腕を引張る。

「ちょっと、離して、やめて下さいっ!!」

なんとか、腕を振り払おうとするけど、三男の力が強くて、振り解けなかった。


(大きな声をだそうか...誰かに助けてもらおうか...でも、それで三男が逆上したら...!!)


怖くて助けを呼ぶ声さえ出なかった。

連れて行かれまいと、反抗すればするほど、三男の力は強くなる。


(わたし、どうなっちゃうの!?)


その時だった。


「やめなよ。彼女、嫌がってんじゃん。」


どこからか、男の人の声がした。

助けてもらうなら今がチャンスだと思って

声のする方を必死で探した。


そこには、ピアスのイケメンがいた。


彼が続けて言った。

「おにーさん。聞こえないの?黒装束のアンタだよ。アンタに言ってんの」


「あ?誰だ?お前」

三男が反応する。さっきまでのニヤニヤ顔と違って、鋭い目で睨み返した。


「オレ?誰だっていいじゃん、別に。」

彼は怯むことなく言葉を返す。

「彼女、困ってんじゃん。すっげイヤそうだよ、分かんねーの?」

その言葉に三男がわたしの顔を見る。

わたしはどんな顔をしていたんだろうか

でも、笑っていない事は確かだ。

「テメェには関係ねーだろっ!! 怪我したくなかったら引っ込んでろ!!」


そういえば、三男はケンカが強いって自分で言ってた。

ケンカになって、彼に大怪我させたらどうしよう。たちまち不安が増えた。

でも、わたしの心配を他所にピアスの彼は、表情を変えなかった。

それどころか 余裕たっぷりに見える。


「怪我したくなかったら....か、」

「おー、そーだよ!! 」

「怪我するのはアンタじゃん?」

「........なんだと テメェ...」


ピアスの彼が、こっちに来る。

そして、三男の腕を掴んで言う。


「離してやれよ。怖がってんだろ」

さっきまでと違って、今度はドスの効いた声だった。


それに三男が応える。

「テメェ..いい気になりやがって!!」


三男がピアスの彼に殴りかかった。

でも、そ彼は、ひょいっと身を交わす。

自分の拳をかわされたのが面白くない三男は、もう一度狙いを定めて殴りかかる。

それでも、彼には当たらない。


「おい、当たってねーよ」

不敵にピアスの彼が笑う。


「こぉんのやろー、ふざけやがってぇ...!!」


三男の顔は真っ赤だ、相当怒っているらしい。

ブチ切れさせたら、何をするか分からない


と、その時


「ケンカは外でやれ!!!」


男の人の声がした。

そっちの方をみると、素晴しくガタイのいい男の人が現れた。

思わずギョッとしてしまう。


「店の中でケンカは困るんだよっ!! やるなら外でやれや !! じゃなきゃお前ら今日から出禁だぜ」


お店の人のようだった。


「あ、すんません。ケンカじゃないっす」


ピアスの彼が、いたって普通の声で...いや、笑顔で答える。

この状況において、何でこんなに余裕でいられるんだろう。

一方の三男はというと、ガタイのいい店員に恐れをなして、それでも「チッ」と悪態をついて

何処かへ行ってしまった。


そして、4回目

ピアスの彼と目が合う。

彼は小さく笑ったような気がした。

今度は目を離せなかった。


——もしかして、わたしの事...助けてくれた?


そうだとしたら、何で?



    ————————————


ピアスの彼は、お店の人と何かを話していた。

でも、わたしにはその内容が全く入ってこない。

すっかり放心状態で、お店の人が去ると

とうとう 身体の力が抜けて、その場に座り込んでしまった。


「大丈夫?」


優しい声。

顔を上げると、ピアスの彼が、わたしの顔を覗き混んでいた。

凄くキレイな顔だった。

くっきりとした二重。大きな目の中には大きな黒い瞳がキラキラしていた。

普通なら、舞い上がってしまいそうな状況だけど、今のわたしには、なにも考えられず

ただ、ただ、ずっと彼の顔を見ていた。


「そんなに見られると、さすがに恥ずいな」


そう言って彼は笑った。

そして、再び「大丈夫」と、聞いてくる。

わたしは首を縦に振って「大丈夫」と返す。


そして彼は、動けないでいるわたしの隣にしゃがんで、ずっと一緒に居てくれた。


     ————————


わたしは何とか落ち着きを取り戻し

彼に改めてお礼を言った。

「あの....ありがとうございました..」

「うん。もう大丈夫?」

「はい...なんとか...」


「災難だったね..」

「...はい..あの..本当に助かりました」


「なんか、しつこかっただろ?アイツ。君ずっと困ってる顔してたし。」


見られてた....?


「良かったよ、君のこと、ずっと見てて」



———君のこと、ずっと見てて


彼は今、間違いなくそう言った


わたしの事をずっと見ていた?

だから、あんなに何回も目が合っていたの?

でも、なんで?


わたしの中で、何かが弾けた。


一度は期待したけど、見事に打ち砕かれた何かが、また沸々と湧き上がってきた。


さっきまでの恐怖はどこへ行ったのか

今度は顔がみるみるうちに真っ赤になる。

耳が熱い!!


——— わたし...もしかして、惚れられちゃった!?


彼はニコっと笑って

「どっかで見た事あるんだよなぁって、ずっと思ってて。思い出したんだ。あぁ、あの子だって」


思い出した?わたしの事を?

わたしは、この人の事 知らない。


「あの...初めて、お会いしますよね?」

と、訊ねる。


「ねぇ、今日はの?」

「.......? 何をですか?」

「楽しみにしてたんだけど」

「.....え?何をですか?」

「何をって...ほら..あのっ..」

彼は何か思い出し笑いをしたようで、口を大きくあけて、後ろに仰け反った。

「あの、みたいなヤツだよ」

(まさか....!!!)


その時、茉莉まつりに言われた事を思いだす。

『亜美はクシャミがおじさんなんだから』


あの日、図書館で聞こえた『オッサンみてぇ』という言葉は、やっぱりわたしに向けられたものなんだ。と、いうことは....


「もしかして、ジョン!?」



「あれ?オレの事 知ってたの?学校に居たっけ?君...まぁいいや。で、今日は出ないの?オッサンくしゃみ♫」


ピアスイケメンもとい、「失礼発言男」は

お腹を抱えて爆笑していた。


「笑わないでよぉぉ〜!!!!」

「あははははははは...あ〜思い出しただけでも、面白え」


さっきとは違う意味で顔が熱くなった。

ジョンという男は、相変わらず人の顔見ては笑っている。


「帰ります」

あまらにもムカついて、思いっきり低い声で言ってやった。

「くっくっくっくっ...お、おう。なんか、元気になったみたいじゃん。もう大丈夫だな」


最後の言葉にドキっとする。

もしかして、わたしを元気づける為にやってくれたのかな?


「今度、男に絡まれたら、こより作って、くしゃみしてやんなよ...くっ...」


やっぱり、ただのムカつく野郎だった。


「帰ります」

もう一度言うと

「また、会おうな」

そう言って、ジョンは行ってしまった。


また会おう



その言葉がくすぐったかった。




—続く—

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