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とこちゃん

第1話  くしゃみはラッキーアイテムか?

今日もいつもと変わらない一日が始まる。

家を出て空を見上げる。雲ひとつない空が

目の前に広がっている。

わたしにとって、この景色を見れる事は当たり前の事ではない。

「今日もいい天気だなぁ」

 あのね.....空が凄くキレイだよ。


 ——— 見てますか?



   —————————————



わたしの生まれ育ったこの街はどこにでもあるような普通の田舎町だ。 

大きめのショッピングモールもあるけれど、そこから車で南へ5分も走れば、広い水田と、高い山が目の前に広がる。

 夏の夜は「カエルの大合唱」が子守歌代わり と言えば、どれくらい田舎なのか分かってもらえると思う。

友だちは、この街を「田舎過ぎて嫌!」って言っているけど、わたしは、この街が好き。


そんなこの街に20年前。

とんでもない出来事が起きた。

この風景に似つかわしくない巨大な建物が誕生した。

 山のなだらかな場所を削って、田んぼを埋め立て、地下2回、地上12回建ての大きな建造物を造った。

 それが『万端ばんたん医科大学病院』だ


 当時、地域の人々は猛反対して、連日反対デモが起きていたらしい。

 今となっては、この街のシンボルになっているけど...


 この万端医科大学病院は

 最新の医療提供はもちろんの事、救急救命センターも設置されていて、毎日救急車が近くを通る。


 そして、このデッカい病院。それだけでなく、未来の医師や看護師、臨床検査技師、作業療法士などの育成にも力を入れていて、各分野の大学、専門学校なんかも合わせて敷地内に作られている。


実は私、斉木さいき亜実あみ

その一員だ。

未来のナースを目指して、この敷地内にある

『万端医科大学看護専門学校』に通っている。

 この春で2年生になった。

 そろそろ臨床実習が始まるから

 毎日、戦々恐々としている。



 ある日のお昼休み、わたしは親友の

 夏帆かほ茉莉まつりと食堂でランチをとっていた。



「ねぇ、ねぇ、亜実あみも行くよね?合コン」


 突然、夏帆かほに誘われて、「うーん、、」と悩む。

 隣で茉莉まつりが「お願いだから、一緒に行こ〜(泣)」とすがる。


 とはいっても....

 彼氏は欲しいけど、合コンなんて行った事ないし。ましてや、知らない男子と喋るのは苦手だから、ぶっちゃけ行きたくない。

 歯切れの悪いわたしに、夏帆かほがたまらず言う。

「もーー!亜美!彼氏ほしいって言ってたじゃん。いい?王子様は待ってたって来ないんだよ」

「別に王子様でなくてもいいもん。その辺の普通の男子でもいい」

「そーいう事じゃないっ!!! 王子様でも農民でも、自分から探しに行かなきゃ彼氏なんて出来ないってこと !!」

これはYESと言うまで永遠と続きそうだ。

まぁ、今までかれこれ10回くらい断ってきたし、これ以上 断り続けるのも、夏帆に悪いか..

「分かったよ、行けばいいん.....」

 と、最後まで言わないウチに

 夏帆と茉莉は「よっしゃ!」と言って、スマホを出して凄い勢いで、操作する。

「てか、わたし好みの男子でお願い」

亜美あみの好みが分からないんだけど」

 わたし達は笑いあった。

「ねぇ、イケメン来る?」

「さぁ、それは分からないけど(笑) 大丈夫だよ、医大の人連れてくるってさ。だから安心して♫」

 一体なにが安心なのかは分からないけど

 合コンは三日後の土曜日に決まった。


  

 ———————————————




 今は5月。

 夕方5時を過ぎても、外が明るいのが嬉しい。

 今日の授業の終了を知らせるチャイムが鳴って、生徒達が騒々しくなる。

 夏帆かほが遊びに誘ってくれたけど

 わたしは先に課題を済ませたいと言って

 断った。

「相変わらず勤勉だねぇ」

「これじゃ、彼氏もできなくて当然だわ」

そう言われて苦笑いしながら手を振った。



 ふたりと別れたわたしは、お気に入りの場所へ向かう。

 医大の中にある図書館だ。


 課題が出ると、わたしは家ではなく大抵ここで、課題をやる事にしている。

 建物の中に入ると、本の匂いがしてくる。

 背の高い本棚にびっしりと立てかけられている本の その様を見るのが好き。

 さりげなく流れてくるセンスのいいBGMのお陰で、無理に静かにしなくてもいい。

 わたしが、ホッっとできる場所。

 わたしはここで、ゆっくり本を読んだり勉強するのが好き。


 図書館に入った私は、まっしぐらに いつもの席に向かう。

 そこの場所は奥まった所にあって、普段はあまり人が居ないから 人目を気にせずゆっくりしていられる。

 わたしの特等席になっている。


 だけど、今日は違った。珍しく先客がいる。


 男の人だった。

 残念な気持ちになる。

 でも仕方ない。

 わたし専用の場所じゃないし

 誰がどこに居ようと、その人の自由だ。



 その男の人は、オレンジのニット帽を深く被って、丸メガネを掛けていた。更に黒いマスクをしているからどんな顔かは分からない。

 でも、まだ若そうだ。

 わたしと同じくらいかな


 その人は分厚い本を一生懸命読んでいる。


 わたしは、その人の姿を見て、一瞬躊躇する。

 この広くはない空間に知らない男の人と一緒にいる事は、わたしにとってはハードルが高い。

(しかも、2人ってのがね.....他にまだ人がいればまだマシなんだど...)

 いっそ、他の場所へ行こうかと考える。


 だけど————


 躊躇ってる一瞬の隙に、その人が顔を上げた。目が合った。


 その瞬間————

 足元から頭まで、凄いスピードで鳥肌がたった。

 全身が硬直する。

 その人から目が離せない。

 そして、わたしの心の中を、黒いモヤモヤとしたものが渦巻いた。

 動悸がして、全身の血の気が引いていく。

 額に、手のひらに、じっとりと汗をかく。

 軽い目眩がする。

(何.....いきなり、どうしちゃったの?)


 ふと、その男の人にじぃっと見られている事に気付く。

 大きな丸い目で、わたしの事を凝視していた。


(なに?怖い、、、)



 時間にして、10秒くらいだろうか

 いきなり身体が楽になった。


「何突っ立ってんの?」


 その声ではっと我にかえる。


「あっ.....えぇっと...」



 その時...

「へっ...へっ...へぇぇっきしょぉぉーーいっ!うぁー!!」


 急に鼻がムズムズして『くしゃみ』が出てしまった。

 自分でも予想外のデカいくしゃみに、今度は耳まで真っ赤になる

(やだ、恥ずかしい/////)


 今すぐに この場所から逃げたい。


 目の前にいる男の人の反応が気になって、恥ずかしいながらも、チラッと見てみた。

 その人は、頭を両手で抱えていた。

 微動だにしない。


 もう、さすがに、この場所にはいられない。恥ずかし過ぎる。

 そして、その場から離れようとした時

 どこからともなく声が聞こえた。


「ジョン!行くぞ〜」


 男の人の声だった。


 すると、目の前の男の人が、頭を下げたまま


「おー、今行く〜」と答えて

 やっぱり、下を向いたまま机の上の物を片付けた。


(? この人、ジョンっていう名前なの? 犬みたいな名前....それとも外国人かな?留学生...とか?)


 そして その人は、わたしの横を通り過ぎる時

「.....ぶっ...くぅっ...」

 と、変な声を出して去っていった。


 少し離れた所で、ジョンと呼ばれた人の話し声がが聞こえた。

「ジョン、どうした?変な顔して...」

「いや......くっ..だって.....おっ..オッサンみたいで......」


(オッサン? オッサンみたいって言った?)


 その日は

『ジョン』

『オッサン』


 この2つの言葉が頭から離れなかった。





   ————————————



「ただいま〜」

「亜美、おかえり〜」

 家に帰ってきた。

「あ〜疲れた〜 ママ、今日のごはん何?」


 万端ばんたん医大から、わたしの家までは、自転車で10分くらいの場所にある。


「あ、亜美〜そういえば、来週からアパートの契約者さんと一緒に住むから〜」

 ママが唐突に言う。


「........は?なに?なんで!? どーゆー事?」


「貸してる部屋の床が抜けちゃったのよ〜。もう、せっかく工事終わったばっかりだって言うのに〜」

「床が抜けた !? だからって、何でウチに来るの !?」

「何でって...だって、そんな所に住めないでしょ?いくら何でも〜」

「だからって....あ!他の部屋に住んでもらえば!?」

「どこも、満室」

「そ、そんなぁ....」

ただ、ただ、呆然とする


 わたしのママはアパートをひとつ持っている。いわゆる、不動産ってやつ。

 元々はおじいちゃんとおばあちゃんがやっていた民宿だったんだけど、2人が亡くなってしまった事と、近くに万端医大が出来た事もあって、民宿をリフォームして、学生専用のアパートを作ったのだ。

 最近は、若者向けのオシャレな物件が沢山出来てきたから、ウチもイマドキらしく、ハイセンスなアパートにリフォームしたってワケ。

 そして先月、工事が終わったのだけれど、ある一室の床に突然大きな穴が空いたと...


「まぁ、ちょうど、お兄ちゃんの部屋空いてるし、直すのには数日で済むっていってるから...ね、お願い」

「はぁぁぁぁ.......もーーーーー」

 気持ちは分かる...分かるけど...やっぱり、家にいきなり知らない人が来るなんて...

「てか、ママ! 女だよね!? まさか男は入れないよね!!」

「......大きな目の可愛い子よ♡うさちゃんみたいな♡」

(美人か...それはそれで嫌だな...)

「で....いつから?」

「今度の日曜日から♡」

 日曜って...まだ先じゃん...じゃあ それまで何処にいるんだ..とツッコミたくなったけど

 もう決まった事のようだから、それ以上は言わない事にした。




    —————————————





 合コン当日。

 集合時間は18時半に「万端医大通り」の噴水の前。

 昔はこの辺は田んぼだったけど、医大が出来てから、そこに勤めてる人だったり、患者さんだったり、人の通りが多くなった事で、田んぼを埋め立てて、今では沢山の店が出来た。



 待ち合わせの場所に5分前について、かれこれ10分くらい経つけれど....

 待ち人が来ない。

(言い出しっぺ2人が遅れるってどーゆー事!?)

 わたしはスマホを何度もチェックする。

 遅れるの一言のメッセージも何もない。


 時間潰しに、ゲームしてみたり、YouTubeを見たりしてみたけど、どうにも落ち着かない。

 わたしはスマホを片付けて、行き交う人々を観察し始めた。


しばらくすると、目の前に

イケメン2人がいる事に気付いた。

あまりのかっこよさに、ついつい見惚れてしまう。


1人目は、オーバーサイズの黒のセットアップを着ていた。

ジャケットの中のTシャツとスニーカーを白で揃えてあって、清潔感が漂う。

そして、両耳に小さなリングピアスをしていた。

髪の毛は黒で、短くキレイに整えられてある。

良くみると、目が大っきくて丸くて

とてもキレイな目をしていた。


 もう1人は、薄茶色のサラサラなヘアで、そこに真っ先に目が行く。

 それだけでもイケメン度は高いのに、よくみると彫刻のようなキレイな顔立ちをしていた。そして、何よりスタイルがいい。

そのスタイルの良さを際立たせていたのが彼の服装で、大柄で派手なシャツを黒のテーパードのパンツにinさせて、黒のベルトでしっかり留めている。

とても洗練されていて、モデルのようだ


(何あの2人...芸能人みたい...かっこい〜♡)


通り過ぎる人たちは皆んな、彼ら2人の事を振り返って見ていた。


あまりにも じぃ〜っと見ていたら、セットアップの人を目が合ったしまった。


(やばっ...見ていたのバレた!?)


恥ずかしくなって、咄嗟に違う方を見た。

無意味にキョロキョロしてみせて、「人を待ってます」アピールをしてみる。


1、2分くらいたってから

彼らが居た所をそっと見てみると

2人の姿は無かった。

ホッともしたけど、ちょっと残念な気持ちもある。


(どこに行ったんだろう...また、会えるかな..)


 そんな事を考えていたら

 夏帆と茉莉がやっと来た。


亜美あみ遅れてごめん!!」

「ほんとだよ〜。もう帰ろうかと思った」

「まぁまぁ」

 何がまぁまぁだ...頬を膨らませて怒ってますよアピールをする

「男子達、今お店の中に入ったってLINE来たよ」

「え?」

「ほら、そこのお店だよ」

 夏帆が「ここだよ」と、指をさしながら、歩いていく。

 そこは、さっきのイケメン達が立っていた所だった。

「ここって...え?今お店に入ったんだよね」

「うん、そう言ってたよ」


 もしかして...もしかして、今日の合コンの相手って....

「さっきの、イケメン!?」


 夏帆と茉莉がキョトンとした顔でわたしの事を見ている。

でも、わたしはそんな事にも気付かずにひとりで、鼻の穴を大きく広げて興奮していた。


 今日の合コン


 来て正解だったかも!!!

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