2-2・雲外鏡出現~火災避難~鏡の中

―2年B組―


 紅葉のアホ毛がピクンと反応して、妖怪出現の前触れを感知!


(ヤバっ!直ぐ近くに出現する。この妖気は、昨日やっつけたウンガイキョー?)


 妖幻ファイターとして対応しなければならないけど、今は授業中なので対応が出来ない。紅葉は、気持ちばかりが焦って、イライラと貧乏揺すりをして、授業そっちのけで、妖怪の索敵を続ける。


ドッカア~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ンッ!!!!!!

 爆発音が響いて安普請の校舎がビリビリと震え、非常ベルがけたたましく鳴り響いた!亜美を含めた女生徒の大半が悲鳴を上げ、教師が「落ち着いて」と宥める!


『1階トイレ付近で、火災が発生しました!!

 指示に従って、落ち着いて避難しましょうっ!!』


 皆は「訓練じゃなくてマジだ!!」と察した。大半の生徒達は落ち着き、且つ、素早く、避難をするために教室から廊下に出る。だが、整然と出来たのは廊下に整列をするまでだった。中庭に面した窓から、1階の火災の煙が見えて、生徒達が怯える。 火元とされてるトイレは校舎の西側なので、東側の階段が避難をする生徒と教師で密集してしまった。あちこちで「危ねえっ!」「押すなバカ!」「落ち着きなさい!」って声がする。




―1階男子トイレ―


 雲外鏡に取り込まれた新斗はビビっていた。確かに「憂さ晴らしをしたい」と思ったが、「自分をバカにする連中を、死なない程度に痛めつける」「数学教師に恥をかかせる」「グラウンドと体育館を滅茶苦茶にして、暫く体育が出来ないようにする」って程度の事だった。

 それがいきなりトイレを大破&炎上。妖怪を火元とした黒い炎は、瞬く間に校舎内に広がっていく。しかも雲外鏡は、生徒や教師どころか目に留まった人間全てを片っ端から虐殺する気である。友達が皆無とか誰からも相手にされてないとか色々と気に食わない事は山積みだけれど、皆殺しにしようとは思ってない。


≪ゲッヒャッヒャッヒャッ・・・・・・燃エロ!!≫

(ちょっ!?やりすぎだっつ~のっ!!止まれよ!!)

≪五月蠅イ・・・・黙ッテロ、依リ代≫

(うっ!?・・・・・・・・くっ・・・・・・わあああっ・・・)


 昨夜より強い恨みの念で蘇った雲外鏡は、新斗の言葉に耳など貸さず、逆に身体と意識を完全に乗っ取ってしまう。雲外鏡が腹に力を込めると、核となってる新斗の精神は、強制的に眠らされて深い闇へと堕ちていった。




―2年C組―


 クラスメイト達が悲鳴を上げながら廊下へ出て行く様を、美穂は冷めた目で眺めていた。どうやら、「血の匂いがする直前の、平常が壊れようとしている緊張感」は正解。お出ましになったらしい。美穂の勘は‘人間とは別の何か’が現れた事を感じていた。周りに対して、心の壁を作って、他の奴等と距離を置いてるのは事実。友達と呼べる生徒は皆無である。だからって「犠牲者が出ようが自分には関係無い」なんて思えるほど、冷酷非情な性格はしていない。

 立ち上がり、ポケットに手を突っ込んでカードケースを掴み、窓の方へ体を向ける。


「桐藤さん、何してんの!?早く避難なさいっ!!」

「・・・・・・・・・・・ちっ」


 扉の脇に立って生徒達を避難誘導していた英語教師が、美穂に向かって叫んでいる。


「さすがに、ここじゃダメか。」


 美穂は、落ち着いて機会を待つ事にして、とりあえず、促されるまま廊下に出た。

 2年生はA~Fの6クラスで、廊下の東側から順にA、B、C、D、E、Fと教室が並んでいる。火元は1階の西側にあるトイレだから、皆は東側の階段へ向かってる。D組は体育で校庭に出払ってたので、C組の後ろにはE組とF組が続く。階段の辺りで自然に詰まり、進まなくて苛々した生徒達が怒鳴りだした。教師が懸命に宥めるが、簡単には収まらない。

 騒ぎのドサクサに紛れ、美穂は皆の目を盗んで向きを変え、EF組の生徒を掻き分けて女子トイレにダッシュ!無事に到着し、洗面台の前でジャケットの内ポケットから‘羽の生えた女神’の紋章が描かれたカードケース=サマナーホルダを出して鏡に向ける!すると、鏡が光を発して美穂を照らし、美穂を映していた鏡が乳白色に変化!美穂は、鳥が舞うようなポーズを決める!


「変身っ!!」


 掛け声と共に、鏡の中に飛び込んだ!直後に、黒いアンダースーツと、白鳥を模した純白のマスク&西洋甲冑に覆われた軽騎士(ソシアルナイト)が、鏡の中から飛び出してくる!異獣サマナーネメシス登場!廊下にまだ気配があると察した後、再び鏡の中に飛び込む!

 そこは、あらゆる物が左右反転をした鏡の世界=インバージョンワールド。廊下を滑空するように駆け、手頃な扉を蹴り飛ばして教室に飛び込んで窓から飛び出す!マントを広げてフワリと校庭に着地し、再び駆けて昇降口へ向かった。




―2階の階段周辺―


 非常ベルが鳴り響いて避難を呼びかける校内放送が繰り返される中、亜美は不安そうに周りを眺めて異変に気付いた。一緒に避難をしていたはずの紅葉の姿が無い。


「クレハ!?」


 紅葉は‘興味’が服を着て歩いているような人間性だ。まさか、1階西側のトイレに、火災を見に行ったのか?亜美は、人の流れを掻き分けるようにして紅葉を探す。

 一方、東側階段は、全校生徒が殺到して、悲鳴や怒号が飛び交いパニック状態だ。


「いやああああっ!!」 「消防まだかよっ!?」

「落ち着いて行動しなさいっ!!私語は慎む事っ!!」

「いてえっ!!足踏むなっ!!」 「窓から飛び降りた方が早くね!?」 


 教師達の声は、怒声に掻き消されて届かない。


「みんなっ、自分勝手すぎる!!慌てちゃダメだよ!」


 避難中の真奈は、生徒玄関~1階が詰まっていて、踊り場から先に進めない状況に焦りを感じていた。どうにか状況を打破したくて皆を注意するが、誰も聞く耳を持たない。


「静かにっ!!皆、落ち着いてっ!!

 押し合わないで、避難訓練通りに行動しなさいっ!!」


 堪りかねた葛城麻由が一喝する。その途端、少なくとも2年生のフロアだけは嘘みたいに悲鳴と怒号が止んだ。麻由は、動きを止めた同級生達を掻き分け、階段と1階の合流点まで進んで、1年A組→2年A組→1年B組と優先順位を決め、生徒玄関の混雑状況を確認しながら、避難の指図を始める。真っ先に逃げず、「生徒の避難が終わるまでは、ここを動かない」的な麻由の態度が、皆を冷静にさせる。


「どなたでも良いので、上の階に行って、

 3年生に押したり割り込まないように伝えて下さい!」

「はいっ!私が行くね!」


 麻由の指示に対して、真奈と、その他数人の2Aクラスメイトが呼応する。


「熊谷さん、皆さん、お願いします!

 3年生にも冷静に対応できる先輩方は居ますから、

 状況を把握していただいて指揮をお願いして下さい!」


 さすが生徒会長の麻由。教師以上の指導力とカリスマ性で、パニックを押さえ込んだ。




-西側階段-


 2階~3階の踊り場に紅葉の姿がある。アホ毛がピクンピクンと反応して、妖怪が近くで出現している事を、紅葉に告げている。皆、東側階段から避難しているので、西側階段には、ひとけが全く無い。


 紅葉は、再度、周りに誰も居ないことを確認してから、スマホ画面に指を滑らせて画面に『ベルト』と書き込んだ。

 紅葉の腰がピンク色に発光。それが実体化して【和船ベルト】になる。同時に【紅】と書かれたメダルがYスマホの画面に浮かんで実体化して真上に飛んだ。落ちてきた紅メダルを受け止め、ベルトの帆の部分に嵌めこむ。


「げ~んそうっ!!」


☆ぽわ~ん キラキラ きらきらりぃ~ん☆ 

 背景がピンク色になり、虹が現れ、お星さまが飛び交い、派手なエフェクトが発生。紅葉の全身が眩しい光を発して、クマとかウサギとかゾウとかネコとか、ぬいぐるみの動物達が現れ、色とりどりの紙吹雪を撒き散らし、それが渦のように舞いながら紅葉の全身を包み込んだ。中から、メインカラーがピンクで【(中世日本の鎧武者+女忍者)÷2】のプロテクターとマスクで覆われた異形の戦士が出現!Yスマホを左手甲のホルダーに収納!妖幻ファイターゲンジに変身完了!


「とぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~っ!!!!」


 妖怪が発生している1階の西側トイレに向かって、勢い良く階段を駆け下り始めた!・・・が、2階に降りた途端に、紅葉を探しに来た亜美と鉢合わせをする!


「んぁっ?アミっ!?」

「・・・えっ?」

「こっち(西側)ゎ昨日のヨーカイがいて危険だから、

 アミゎあっち(東側)に逃げてっ!」

「あぁ・・・う、うん。」


 ゲンジは、自分が変身してるって自覚があるのだろうか?普通に、亜美に声を掛けてから、1階に向かって階段を駆け下りていく。

 一方の亜美は「気をつけてね」と呟いてから、何事もなかったみたいに東側階段に戻って、避難の行列に混ざるのであった。




-1階-


 本能のまま暴れ狂う雲外鏡は1階の廊下へ飛び出し、腹の鏡に景色を映した。鏡の中の廊下が炎に包まれた次の瞬間、現実世界の廊下に黒い炎が上がる!校舎東側で避難中の集団を発見!「獲物を見付けた」と言わんばかりに駆け寄ろうとする!・・・が、階段を駆け下りてきたゲンジが、問答無用でドロップキックを叩き込んだ!


≪グゲゲッ!!?≫


 弾き飛ばされた雲外鏡が廊下を転がる!「何事か?」と周囲を眺めて、昨日のヤツ(ゲンジ)を認識すると、「コイツとは戦いたくない」と言わんばかりに、慌てて、身近な窓ガラスの中に飛び込んで姿を消した!


「んぁっ!待て、こんにゃろう!」


 後を追ってゲンジも窓ガラスに飛び込む!しかし、鏡の向こう側の世界に消えた雲外鏡とは違って、ゲンジは、窓ガラスを突き破って、中庭に飛び出してしまった!


≪ゲッヒャッヒャッ!!鏡ノ中マデハ追ッテ来ラレマイ!アバヨッ!≫

「んぁぁっっ!ズルいっっ!!」


 ゲンジが、消えた雲外鏡の気配を探る!ヤツは間違いなく近くに居る!周辺の窓ガラスの中から漏れてくる妖気をハッキリと感じる!ゲンジを振り切った妖怪が、生徒達が避難中の生徒玄関に向かって移動する気配を感じる!だけど、雲外鏡の姿は何処にも無い!鏡の中に入れるなんて聞いてない!妖怪の気配を追っていけば、避難中の生徒達にゲンジの姿を晒してしまう!しかも、肝心の雲外鏡を捉えることが出来ない!自分が「学校を損壊させた怪しいヤツ」と認識されてしまう!ゲンジは動揺をする!




-インバージョンワールド(鏡の中の世界)-


 ひとけの無い鏡の中の世界で、異獣サマナーネメシスが、雲外鏡の進路を塞ぐようにして、廊下に立っていた!


「へぇ・・・アイツ、鏡の中には入れないんだ?」

≪グゲゲッ!!?≫

「昨日、見た時、あたしとはだいぶ形が違うと思ったけど、

 違う種類の戦士ってこと・・・かな?

 それにオマエも・・・あたしが成敗しているモンスターとは、だいぶ違うな。

 こりゃ~、コイツを倒しても、報酬にはありつけないのかな?」

≪グゲッ!?ナンダ オマエハ!?≫

「ん?アタシ?

 とりあえず、学校をメチャクチャにしたオマエに腹を立ててるヤツ・・・かな。」


 警戒して身構える雲外鏡!一方のネメシスは、レイピアを装備して構える!雲外鏡が見る限り、ゲンジとは違って、ネメシスからは、妖気を全く感じられないので「コイツは、ゲンジよりも弱い」と判断する!数秒間の睨み合いの後、雲外鏡が、ネメシスに突進を開始!

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