2-3・ゲンジ&ネメシスvs雲外鏡

-数分後・現実世界の中庭-


 ゲンジが焦りながら見えなくなった雲外鏡の妖気を追っていたら、突然、窓ガラスから、雲外鏡が転がり出してきた!続けて、雲外鏡を追って、白い騎士が姿を現す!


「・・・んぁっ!?2匹に増えた!?ヤベーじゃん!」


 雲外鏡が援軍を連れてきたのか!?狸と白騎士、何奴から倒すべき!?見廻したゲンジは、あとから出現した白騎士がボスキャラと判断!Yスマホ画面に指で‘なぎなた’と書いて、武器=巴薙刀を召喚して握りしめ、ネメシスに向かって突進を開始する!


「ナメクジヨーカイっ!!」

「はぁ?ナメクジぃ~!?アタシのどこがナメクジだっ!」

「問答無用~っ!ォマェも悪ぃ妖怪だなっ!!

 タヌキと一緒に成敗してくれる~っ!!」

「状況を良く見て落ち着けバカっ!!あたしが妖怪に見えるかっ!!」


 ネメシスとしては闘う理由など無いのだが、頭に血が昇ったゲンジが突っかかって来たので仕方が無い。やむなく迎撃の体勢になる。

 型もへったくれもなく基本も成ってないがパワーだけはある巴薙刀の一撃を、ネメシスは易々と見切ってレイピアを振るった!ゲンジの巴薙刀とネメシスのレイピアの刃がぶつかって小気味よい音が響く!


「何だオマエ、ド素人か!?」


 ネメシスは、力任せに押し込んでくるゲンジの薙刀を、軽く弾いて受け流す!ゲンジは再度突っ掛かってくるが、ネメシスは、レイピアを振るって軽く牽制をしてから飛び上がった!そして、姿勢を崩して蹌踉けたゲンジの頭上で、月面宙返りを決めながら、脳天をレイピアの刀身で叩く!ハナっから体勢を崩していたゲンジは、前のめりに転倒をした!


「ぃってぇ~~~・・・・なかなかの手練れ!!さてゎ四天王の1人かっ!?」

「何の四天王だよっ!?」


 武器での勝負は、ネメシスの圧勝!武器スキルの基礎力が違いすぎた!だが、ゲンジの闘志に衰えはない!・・・というか、埋めようのないスキル差に気付いていない。


「ァタシゎ妖幻ファイターゲンジだっ!!名を名乗れナメクジ魔神っ!!」

「勝手に変な名前つけんなチビっ!!

 あたしはネメシス!異獣サマナーネメシスだっ!!

 てゆ~か、ナメクジ言うな!!

 あたしのモチーフは白鳥だっ!!見て解らんかっ!!」

「ぇぇぇぇ~~~~~~?どぅ見たってナメクジぢゃん~~~~~?」

「・・・・このクソガキ・・・・・度胸だけは褒めてやんよっ!!

 土下座でゴメンナサイか、意地張って痛い目見るか、好きな方選べっ!!」


 すっかり蚊帳の外に放置されていた雲外鏡が、2人を腹の鏡に映して放火攻撃を発動させた!ゲンジとネメシスの身体が黒い炎に包まれる!ネメシスは堪らず転げ回ってしまったが、ゲンジはケロッとして突っ立ってる。


「あ~~~~~ちちちちちっ!!!オマエは何で平気なんだよっ!?」

「これ、妖気の炎だね。ぁんなザコの攻撃なんて、全然へっちゃらだょ~。」


 ゲンジは呑気に説明するなり「フンっ!」と気合いを入れた。本人としては軽く気合いを発しただけだが、妖力の絶対値が雲外鏡とは桁違い。たちまち炎を消してしまい、巴薙刀をへっぴり腰で振り回しながら「今日こそ決着だぁ~!!」と立ち向かっていく。


「ちょっ、待ってよっ!!

 簡単に消せるなら、あたしの火も、どうにかしてくれっ!!」

「ぇ、何?もしかして、自分で消せなぃのぉ~?」

「消せればオマエになんて頼んでない!だいたい、妖気の炎って何だよっ!?」


 妖気の炎とは、妖気、または、思念を燃料にして燃える炎。酸素や温度を必要とせずに燃える為、消化器や水で消すことは不可能。


「そっかぁ~・・・妖気の火も知らないんだぁ~?」

「自分だけ知ってるからって偉そうにすんな!」

「ん~~~・・・・・ちょっと待ってね。」


 ゲンジはYスマホに指を滑らせて『うちわ』と書き込む。光を発し、檜扇を召喚。「消火モード!!」と叫びながらネメシスに向かって一扇ぎしたら、妖気を帯びた風圧が、ネメシスの全身を包んでいた炎を苦も無く吹き飛ばして消火した。

 全体的に黒ずんじゃったが、致命的なダメージは受けてない。妖怪に翻弄されたのと、ちんちくりんに助けられてプライド傷ついたのとで、ネメシスは怒りのオーラを発散させて立ち上がり、雲外鏡を睨み付ける!


「あったま来たっ!!ブッ潰す!!」

「ぁれ?仲間ぢゃなかったんだ?」

「ったりめ~だボケっ!!・・・・オマエとは、ちょっと休戦っ!!」


 ネメシスは、腰に下げたホルダーからカードを抜き取って窓ガラスにかざし、歪んだ鏡面に手を突っ込んで、薙刀型の武器=ネメシスハルバードを引っ張り出して身構え、ゲンジと並んで雲外鏡と対峙する。


「すっげー!窓から武器が出てきた!ネメシス、すっげー!

 なんで、窓に手を突っ込んだのに、窓が割れないの!?

 ど~やって、窓を割らないで、窓から武器を出すの!?も~1回やって!」

「説明はあとだ!先ずは、あのバケモン倒すぞっ!!」

「ケチッ!妖気の火を消したげたのに、そっちの手品は秘密なんだ?」

「ゴチャゴチャとうるせーぞ、タラズ!

 先ずはタヌキ退治を優先させろと言ってんだよ!」

「しかたないなぁ~!ぃっくょぉ~~~~~っ!!!」

≪ゲゲッ、ゲッ!!小癪ナッ!!≫


 ネメシスとしては、妖気の炎とやらが厄介だ。あれを浴びたら、小煩いチビに助けてもらわなきゃならないのが気に障る。

 ゲンジは、妖力だけは圧倒的だが戦闘や戦術がド素人だ。それに雲外鏡は、ゲンジでは追えない鏡の中に逃げることが出来る。倒す為には、雲外鏡と同じように、鏡の中には入れるネメシスの力を借りなきゃならない。

 早い話、どっちか1人でじゃ勝てない相手なのだ。「ここは協力するべきだ」と、互いに察した。それぞれ巴薙刀とネメシスハルバードを構えて対峙する。・・・が、冷静さを取り戻したネメシスは、大事な事に気がついた。


「やべっ!!火が消えてなかった!!」


 廊下や昇降口は相変わらず延焼している。ふと階段の方へ目を向けたら、炎の所為で逃げられない生徒と教師が右往左往していた。


「そこのピンク・・・え~と、ゲンジだっけ?」

「何っ!?」

「あたしが、奴を食い止めるっ!!アンタは、火を全部消してくれっ!!」

「ぇぇ~~~~~~っ?

 さてゎ自分だけ、カッコぃぃシーン独り占めにする気だなっ!?」

「アホっ!!これじゃ皆が逃げれねえだろがっ!!

 オメーしか、あの火を消せないじゃんよっ!!」

「ぁ、そぅだった!!」


 言われて気がついたゲンジは、「うんうん」と何度も頷く。


「この辺よか昇降口が先だっ!!避難路を作れっ!!」

「ぅんっ!!ワカッタ!!」


 頷いたゲンジは踵を返し、昇降口へ駆けてった。それを阻止しようとする雲外鏡の前に、ネメシスが手に立ち塞がる。


≪ゲゲゲッ!!ドケ小娘ッ!!≫

「行きたきゃ、力ずくで通りなっ!!」

≪ゲゲゲゲ~ッ!!生意気ッ!!≫


 雲外鏡は鋭い爪を構えて、見た目の予想に反したスピードで突進をしてきた!


「なにっ!?」


 ネメシスはギリギリで回避!雲外鏡は着地と同時に振り返って、再び突進をしてきた!だが、今度は、雲外鏡のスピードに対応したネメシスが、雲外鏡の腹にハルバードの切っ先を叩き込む!


「最初は想定外のスピードに焦ったけど、2度目は無~よ!」

≪ゲゲッ!?≫


 ネメシスはハルバードで斬りかかる!雲外鏡は中庭から廊下に退避して、追ってくるネメシスに向けて、酒徳利の蓋を開けた!危機を察知したネメシスは、素早く徳利の口が向けられた方向から飛び退く!次の瞬間、徳利から溢れた液体が、廊下に撒き散らされ、跳ねた飛沫の数滴が肩のプロテクターに付着!小さく「ジュッ」って音が聴こえ、見ると小さな穴が空いていた!廊下の床は、5センチ程度の陥没をしている!


「酸性か?いや・・・酸程度で、プロテクターに穴が空くことはない。

 その溶解液も、妖気とか言うので作られてるってことか?」

≪ゲッゲッゲッゲッゲッ!!溶ケテ消エロ!!≫

「見た目も態度もふざけてるクセに、色々と厄介な武器を持っていやがる!」


 今度は、酒徳利を滅茶苦茶に振り回しながら溶解液を振り撒いた!壁・床・天井・非常ベル・柱etc.触れた物が全て溶ける!ネメシスは、「フットワークを利用した一撃離脱の戦法」が得意だが、ただでさえ廊下は狭い上に、あちこち凸凹になって走りにくい!まんまと、雲外鏡の戦いやすいエリアに誘い込まれてしまった!




-一般棟・1階-


 ゲンジが消火活動を開始した。檜扇で、炎を扇いで鎮火をさせていく。しかし、延焼が広範囲すぎて、送風程度では、いつまで経っても鎮火が出来ない。ゲンジは床にドッカリと腰を降ろして、しばし思考した後、何やら思い付いてYスマホを取り出して、指で画面をなぞり始めた。

 途端に画面から、モクモクと煙が上がって、天井でモコモコと変形。幼稚園児がクレヨンで描いたような‘笑顔の雲’が現れた。それが意志を持って動き出し、炎を自動感知して妖気の雨を四方八方に降らせ、妖炎の消火を開始する。


「ん~~~・・・火がいっぱいすぎて、まだ足りないかな?

 もうチョット、雲ちゃんを作っとこうかな。」


 Yスマホは、紅葉(ゲンジ)がイメージできる物なら、なんでも具現化することが出来る。機械などの、中の構造がイメージできない場合は、駆動系の無い外見だけの具現化になってしまうのだが、薙刀や‘水蒸気が凝縮された雲’であれば、イメージは容易なのだ。ただし、思い付くまま無尽蔵に具現化が出来るわけではなく、紅葉(ゲンジ)の妖力を燃料にして発生させるため、出現させる物が大きくて複雑なほど、紅葉(ゲンジ)の妖力は消耗してしまう。

 妖炎は妖気の雨に当たってたちまちに消えていくが、延焼が広範囲すぎる。全てを鎮火するには、もうしばらくは時間と妖力が必要になるだろう。ゲンジは、一連の活動で大幅に妖力を減らしてしまったが、それでもまだ、戦うだけの余力は残っている。・・・というか、早く‘地味な消火活動’を終わらせて戦いに行きたくてウズウズしている。




-1階西側の渡り廊下-


 ネメシスの耳に、校舎内から喧騒の声が聞こえなくなった。あらかた、避難が終わったようだ。窓越しに校舎のあちこちに見えていた炎が消えていくのが解る。ゲンジが確実に消火活動を行っているようだ。

 あとは、目の前に居る狸の妖怪を討伐するだけなのだが、それが問題で、狭い廊下では、ネメシスは思う存分に戦えない。溶解液を放出する徳利が邪魔で、迂闊に近付くことも出来ない。自分が追われている立場なら、広くて戦いやすい場所に雲外鏡を誘き寄せるのだが、立場が逆で、ネメシスが足止めしなければ、妖怪は、生徒達が避難をしたグラウンドに飛び出してしまうだろう。


「校舎が半壊するのは避けたかったけど・・・やるしかないか!

 いつまでも、お見合いしてるわけにはいかない!」


 ネメシスは、腰のホルダからカードを引き抜いて、身近な窓ガラスに向ける!そして、身構えて仕掛けようとしたその時!・・・背後で凄まじい奇声が聞こえたので、身の危険を感じて咄嗟に横っ飛びして回避!


「とえぇぇぇっっっっっっっ!!!」

「ひえええええっ!?」


 飛び蹴りの体勢で全身をオーラに包んだゲンジが、超スピードで突っ込んできた!雲外鏡の顔面に、強烈なキックが炸裂!狸の妖怪は、悲鳴を上げながら、廊下の端まで吹っ飛ばされた!


「ょっしゃ~!」


 奇襲が成功して、ガッツポーズで嬉しそうに飛び跳ねるゲンジの後頭部に、肩を怒らせて近付いてきたネメシスの掌が炸裂!


「ぃってぇ~~~~~~~~~っ・・・・何すんのょっ!?」

「あたしを殺す気かドアホっ!!」

「避けたから、結果ォーラィぢゃんっ!!」

「そ~ゆ~問題じゃないっ!!当たったらどうすんだって話をしてんだっ!!」

「軌道修正くらぃできるもんっ!!」

「知らんわっ!!ビックリするじゃんよっ!!」

「なら次からは知ってるからダイジョブだね!」

「オマエなぁ・・・・って、やべえ!バケモンが逃げるぞ!!」


 雲外鏡が立ち上がり、校舎西側の階段を昇って行く。


「ぁっ!待てぇ~~~~~~~~~っ!!!!」

「無駄にタフな奴めっ!」


 ゲンジとネメシスが追いかける!雲外鏡は、だいぶ消耗をしたらしく、戦闘開始直後ほどの素早さが無い!2階で追い付かれた雲外鏡は、ヤケクソで鋭い爪の一撃を繰り出す!ゲンジは右、ネメシスは左に回避をして、素早く雲外鏡の懐に飛び込み、同時にキック!雲外鏡は、教室内を転がって、どうにか体勢を立て直し、慌てて窓に駆け寄っていく!


「マズい!突き破って外へ逃げられたら厄介だぞ!」


 窓の向こう側には、生徒達が避難をしたグラウンドがある!・・・と思ったら、雲外鏡は全身から妖気を発して、窓の中へ吸い込まれるように消えてしまった!ゲンジが慌てて窓に駆け寄って覗き込む!


「げっ!また、鏡のあっち側に行っちゃったっ!?ヤバい、逃げられたっ!?

 んにゃ、違う!まだ、近くに居るよっ!」


 雲外鏡の殺気を感じるから、仕掛けてくるつもりなのは解るけど、姿が見えない!身構えたゲンジの背後、教室と廊下の境の壁にある小窓から、雲外鏡が飛び出して爪を振るう!


「ひゃぁぁぁっ!?」


 ゲンジの背中に一撃が叩き込まれて火花が散る!大したダメージではないので、体勢を崩すが直ぐに身構える!雲外鏡は、既に別の窓から再び【鏡の中の世界】へ逃げ込んでしまう!そしてまた、ゲンジの背後の窓から飛び出して一撃を叩き込む!反撃しようにも動きが読めないし、読めたところで窓の中に入られたら成す術なし!ゲンジの身体に、2つ3つと傷が刻まれていく!


「ぃてててぇ~~~・・・・ムカ付く!」

「へぇ・・・やっぱ、オマエって、あたしとは違う種類なんだな。」

「んへ?なんのこと?」

「オマエ、インバージョンワールドには入れないんだろ?」

「いんばじょん?何それ?」

「インバージョンワールド・・・聞いたことも無いんだな。

 現実世界とは、全てが左右反転をした鏡の世界だ。」


 ネメシスが窓ガラスを指さしたのを見て、ゲンジは思い出した。初遭遇の時、ネメシスは窓の中から出現をした。


「あたしに任せなっ!オマエは、その辺で適当に待ってろ!」

「ぁっ!?ちょっとっ!?」


 説明は後回しで、ネメシスはインバージョンワールドへ飛び込む。

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