1-4・バイト先の亜美~ゲンジの戦闘~紅葉の母
-ファミレスDOCOS(亜美がバイトしてる店)の駐車場-
「きゃぁっ!!」
バイトを終えて店から出てきたばかりの平山亜美が、青ざめた表情で震えながら2~3歩後退り、腰を抜かして地面に尻もちをつく。眼前には、小太りの狸が立っており、あきらかに、「自分に害を及ぼす」って雰囲気で亜美を見つめている。雲外鏡は、嬉しそうな目で、ヨダレを垂らしながら、逃げ道の無い弱者をなぶって楽しむかのように、ゆっくりと亜美に近付く。
《ゲッゲッゲッゲッゲ・・・さっきの奴らよりも美味そうだな》
ファミレス店内からは死角になる為、店の客達は、駐車場で起きている事には気付いていない。しかし、ただ一人だけ「只ならぬ事」と把握して、見えにくい死角から、外の状況を観察する少女がいた。桐藤美穂である。
近所で、ドリンクバーのあるこの店は、美穂にとっては、一人で時間を潰せる馴染みの店だ。以前から、同学年の生徒(亜美)がバイトをしていたのは知っていたが、特に興味も無く、優等生と仲良くする気も無かったので、注文と会計以外の会話をした事は無かった。 だが、今は、「無関係」とスルーをして良い時ではなさそうだ。巨大狸の殺意が、あきらかに同校の生徒に向けられている。
血の匂いがする直前の、平常が壊れようとしている緊張感は、何度も経験をしている。今が、その時ということも解る。このまま放置をすれば、バイト帰りの少女は、狸の化け物に殺される。
「やれやれ・・・面倒くさいけど、
目の前で知ってるヤツが襲われちゃ気分悪い。なんとかしなきゃかな。」
ただの少女に、凶悪な妖怪を撃退する事が出来るのか?と言われれば、それは不可能。しかし、彼女はただの少女ではない。その眼は、巨大狸と渡り合える自信に満ちている。
ポケットの中からカードケースを取り出し、真横の窓ガラスに向けて念じる。他の客達には感知できないが、その窓ガラスだけが乳白色に濁って、翼が雄々しく広げた白鳥型のモンスターが映り、美穂の‘次の指示’を待つ。美穂が「いけ!」と念じかけたその時!
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっ!!!アミぃぃぃっっっっっ!!!」
【(中世日本の鎧武者+女忍者)÷2】みたいな格好をした変なヤツが、奇声を上げながら突進をしてきて、巨大狸に体当たりをした!妖幻ファイターゲンジの登場だ!
☆マシン綺羅綺羅☆だと、チョット間に合いそうに無かったので、途中からは走ってきた。ゲンジが念じて妖力を注げば、☆マシン綺羅綺羅☆は、時速100キロでも、音速でも、光速でも走れるのだが、バイクに乗るからには、法定速度の30km/hは守らなければならない。そんなわけで、☆マシン綺羅綺羅☆は、近所の鎮守の森公園に乗り捨てて、残り2~3キロくらいは、全速力で突っ走ってきたのだ。要は原チャで法定速度を守るより自分で走った方が早い。
店内で身構えていた美穂は、咄嗟に、窓ガラスに映っている白鳥型モンスターに「待て」と指示を出して状況を見守る。自分以外にも「この状況を打破できる者がいる」とは思っていなかった。しかし、「自分にそれが出来る」ように、「他にも同じような存在」がいても不思議ではないと判断をした。
「とりあえず、アイツ(亜美)を殺しに来たのではなさそうだ。」
ゲンジに体当たりをされて尻もちをつく雲外鏡!亜美を守るようにして雲外鏡の前に立つゲンジ!呆けた表情でゲンジと雲外鏡を見つめる亜美!
「ダイジョブだった、アミ?危なかったねぇ!怪我ゎ無ぃ?立てるょねぇ?」
何故、目の前の異形(ゲンジ)が自分の名前を知っているのか?フレンドリーに声をかけてくるのか?ってか、その口調で、正体を隠す気あるの?等々、冷静に考えれば違和感だらけなのだが、さすがに被害者になりかけた今の亜美に、気付く余裕は無い。
「あ・・・ぁぁ・・・・・は、はい・・・あ、ありがとうございます」
対峙するゲンジと雲外鏡!美味しそうな食事の妨害をされた雲外鏡は、怒りを露わにしてゲンジに飛びかかる!ゲンジは雲外鏡の突進を回避しつつ、拳を2発ほど叩き込んだ!雲外鏡は殴られた腹を押さえて数歩後退するが、直ぐに体勢を立て直して身構えた!
「さすがにパンチぢゃ倒せないかっ!」
ゲンジが、左手甲に収納されたYスマフォの画面に、指で『刀』と書くと、ゲンジの手に薙刀(巴薙刀)が出現!武器を頭上で振り回して、奇声を上げながら雲外鏡に突進をする!
「とぇぇっっ!!やぁっっ!!」
威勢はあるが、まるで腰が据わっておらず、足がおぼつかなくて、武器を振り回しているのか武器に振り回されているのか微妙で、とても可愛い・・・と言うか無様!
まっすぐに振り下ろせずに、遠心力に負けて切っ先が横になってしのぎが当たったり、反対側の石突がぶつかったりして、雲外鏡には大してダメージが無い。
「あ~~!使いにくいっ!やっぱ、パンチでイイやっ!!」
ちょっとイライラしてきたので、巴薙刀を投げ捨てて、徒手空拳でぶん殴る。
《ゲッゲッゲッゲッゲ!》
細身のゲンジと、肥満気味の雲外鏡の殴り合い。単純な体格差で考えれば、雲外鏡の方がパワーが有るのだが、ゲンジの鋭い拳を喰らって、徐々にダメージが蓄積されていく。
雲外鏡の攻撃も、何発かはゲンジにヒットするが、ゲンジは全くダメージを受けていない。雲外鏡からしてみれば、「変な格好をした人間如き」が自分と互角以上に戦っているのが考えられない。
《コイツ、何者だ?》
雲外鏡の腹に埋め込まれた手鏡には‘正体を映し出す’効果がある。ヒーローショーの正義の味方や、テーマパークの人気キャラを鏡に映せば中に入っている人間が映る。やけにゴッツい女の人を映せばオッサンが見えるときもある。この鏡を前にして、正体を隠し続ける事は不可能。
《暴いてやる!》
雲外鏡は腹の鏡に妖力を溜めて、ゲンジを映した。鏡に映ったゲンジは、全身にモヤモヤとした霧状の物(=妖力の鎧)を纏っている。外観が妖力で編まれたプロテクターという事は、わざわざ鏡に映さなくても解る。問題はその内側だ。鏡に妖力を集中させて、鏡の中のゲンジの妖力の鎧を剥ぎ取ろうとする。
《ゲッゲッゲッゲッゲ・・・妖力の中が見えない?》
だが、ゲンジが纏っている妖力が強すぎて、いくら鏡に妖力を送っても正体が映らない。その事実から解る事は、雲外鏡の妖力よりも、ゲンジの妖力の方が強いという事だ。ゲンジの真価は全く把握できない事を意味している。
《ゲッゲッゲッゲッゲ・・・バカな!オマエ・・・一体何者?》
妖力の絶対値で完敗だ。ゲンジが戦いに慣れていないから互角っぽく戦えたが、単純な妖力値だけで考えれば、会った直後に瞬殺をされても「当たり前」と言い切れるほどの差なのだ。たまたま負けずに済んだだけで、勝つ事は絶対に不可能。どう頑張っても、ゲンジの防御力を貫けない。
雲外鏡は、ゲンジに背を向けて、大慌てで河川敷方面に向かって逃走をする!
「ありゃ?逃げるの??・・・なんでぇ?」
妖怪の突然の逃走を見て、呆気に取られたまま見送ってしまうゲンジ。しかし、怯えている亜美を見て、直ぐに気持ちを切り替える。親友を危ない目に遭わせようとした妖怪を生かしておくワケにはいかない。
Yスマフォの画面に指を滑らせて『神鳥変化』と書き込んでから、掌を正面に向ける!妖力の球がゲンジの正面で広がって八卦先天図を形成した!八卦先天図に向かって突進をする!八卦先天図を突き抜けたゲンジは、神々しい光の鳥に変化!大きな翼を広げて飛び立ち、あっという間に、堤防斜面あたりを逃走中の雲外鏡に追いついた!
「ひっさぁぁ~~つ!!ウルティマバスターッッッッッッッ!!!!!!!!!」
光の鳥が雲外鏡に体当たりをして弾き飛ばした!直撃を受けた雲外鏡は、空中に投げ出される!
《ゲッゲッゲッゲ・・・うぎゃぁぁぁっっっっっっっっっっっっっっっ!!!》
ファミレス駐車場では、亜美が「何が起きているのか理解できない」表情のままで、堤防上空で飛び上がった光る鳥と狸を眺めている。
「一体・・・なんなの?」
「アンタ、優高の2年生だろ?ちょっとヤバかったみたいだけど、怪我は無いか?
良く解らないけど、面白い物を見せてもらったよ。」
いつの間にか隣には美穂が立っていた。亜美と同じように堤防上空の光の鳥を眺めている。亜美は、美穂を見て「そう言えばお客さんで来ていたんだっけ」と思い出した。今朝の学校では威嚇されたし、元々あまり好きなタイプではないが、怖い思いをしたあとの所為なのか、知り合いの顔を見て少し安心をする。
「う、うん・・・大丈夫です。」
一方、体当たりで宙高く吹っ飛ばされた雲外鏡は、肉体を維持できなくなって黒い霧に変化をして、山頭野川に落ちていった。
「ヨーカイゎ倒せたし、アミゎ守れたから、今日ゎ100点満点だねっ!」
ゲンジがファミレス駐車場に戻ったら、亜美が待っていてくれた。隣には、2年C組の桐藤美穂が居る。亜美は、恩人のゲンジの姿を見て駆け寄ってきて、礼を言って頭を下げる。
「ん?い~のい~の!ァタシ、正義の味方だからねぇ!
そんなのよりも、早く帰って早く寝て、明日ゎ遅刻しなぃょ~にしなきゃねぇ!」
「そ、そう・・・ですね。
あの・・・よろしければ、お名前を教えてもらえますか?」
「んぇ?解んないの?ァタシだよ!
くれ・・・・・・・・・あっ!違った!正体は謎です!」
「あぁ・・・そうなんですか。」
美穂は、その場から動こうとはせず、声をかける事も無く、興味深そうにゲンジを見つめている。
ゲンジとしては、「人知れず妖怪の脅威から人々を護る文架市の守護神」なのに、同校の生徒2人に見られているってのは少し気まずい。うっかりと、源川紅葉しか知らない事を喋って、隠していた正体がバレてしまうのは避けたい。
戦いが終わって親友の危険が去った以上、変なウッカリや詮索をされてボロが出る前に立ち去るべきだろう。
「んぢゃ、アミ、また明日っ!いつもの公園のところでねぇ!
キリフジさんも、また明日ねぇ!
明日ゎお金をいっぱい持ってきちゃダメだよぉ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、はい・・・こ、公園ですね。」
「・・・りょ、了解。気を付けるよ。」
ゲンジは、亜美と美穂に、決めポーズ的な‘ピースサインの敬礼’をして、☆マシン綺羅綺羅☆に跨がり、颯爽とその場から去って・・・と思ったら、☆マシン綺羅綺羅☆は、家の近くの公園前に置いてきてしまった。
「ごめん、ァミ!今日ここまで自転車で来てる?
もぅ帰るんだょねぇ?公園まで2ケツしてょ!」
「あ・・・あぁ・・・はい、それくらいなら良いですけど・・・。」
「ァリガトッ!」
こうして、亜美の自転車の荷台にゲンジが跨がって、家が別の方角の美穂に見送られて帰路につくのであった。ホントなら、ゴツゴツした重い変身を解いて、身軽に成ってから2人乗りをしたいんだけど、亜美に正体がバレてしまうので、バイバイをするまでは変身を解く事は出来ない。文架市の守護神って立場も、なかなか辛いのだ。
※自転車の2人乗りは道路交通法違反です。
―鎮守の森公園―
ずっと無言で首を傾げっぱな亜美の自転車に乗せてもらい、ゲンジは鎮守の森公園まで戻った。☆マシン綺羅綺羅☆に跨ろうとしたら、放置して離れてた間に元の自転車に戻っていたので「ぁりゃ?」と言いながら自転車に跨って念を込める。
亜美にも見覚えのある色と形の自転車だ。何時だったか、学校に遅刻ギリギリで、毎度の如く土手を駆け降りて、スリップして壮絶に転び、その時に前カゴやフレームに付いたキズが残っている。てゆーか、泥除けの反射板の下に、優麗高の校章をプリントしたステッカーが貼ってあり、記された管理番号には見覚えがある。
でも、本人が「正体は謎」と言うのだから、亜美は「ここは気がついてないフリしとこう」と判断した。 しばらく眺めていると、再び妖力を受けた自転車が輝いてから☆マシン綺羅綺羅☆に変形する。
「ぢゃ、アミ、ぉゃすみっ!!また明日ねっ!!」
「あ、はい・・・・ありがとうございました。」
もう一度、マスクの下で満面の笑みを浮かべながら、正体バレないのが不思議な台詞を吐き、引きつった笑みで手を振り返す亜美に見送られて、自宅マンションへ帰って行くのであった。
-サンハイツ広院-
ゲンジは、自転車を駐輪場に止めた後、人目と足音に注意しながら自室の真下まで歩き、ベランダを見上げて高さを確認してからジャンプ。妖気を推進力として、軽々と5階まで飛び上がり、ベランダ到着をしたところで変身解除して紅葉に戻る。
隣の両親の寝室をチラと見たら、カーテンの隙間から灯りが漏れていたので、物音を立てぬよう細心の注意を払いながらサッシを開けて自室に入った。
「ふぇぇ~~~~、疲れたっ。」
スエットに着替えてベッドに倒れ込む。「このまま寝てしまおうか?」と考えたが、空腹には勝てず、起き上がってベッドの下に隠しておいた箱を引っ張り出した。箱の中には、チョコレート、せんべい、バウムクーヘン等々、様々な菓子がある。
「ん~~~・・・どれを食べよっかな?寝る前だから控え目にしないと・・・。」
戦闘は、スポーツで同じくらい動くよりも体力を消耗して、空腹になってしまう。明確な理由は解らないけど、多分、妖力を発しているからなのだろう。キッチンに行ってご飯を3人前くらい食べたいが、ママに見付かって怒られちゃうので、お菓子で我慢する。
菓子袋を5つほど空にした紅葉は、「まだ物足りない」と思いつつ、疲れた身体に鞭打って洗面所へ向かい、手洗いとうがいと歯磨きをしてから部屋へ戻り、スマホを片手にベッドへ潜り込んでからLED照明をリモコンで薄明りに変える。
やりかけの宿題については、もちろん忘れており、明日の朝、亜美にノートを借りて丸写しをすることになる。でも、妖怪の所為なんだから仕方が無い。
-両親の寝室―
紅葉の母親・源川有紀が、籐製の椅子で寛いだ姿勢で窓の外を眺めていた。
「やれやれ、まだ未熟ね・・・・
物音ばっかりに注意したって、あんなに気配を振り撒いてちゃバレバレだわ。
戦い方も、てんでなってないし。もっと妖力のコントロールを身に付けなきゃね。
雲外鏡を、ちゃんと倒してないけど、あの子ったら気がついてないみたい。
さて、どうしたモノかしら?」
呟きながら空いた方の手に握ってた中折れタイプのガラケーに目を向ける。紅葉が所持するYスマホの1世代前の変身ツール【Yケータイ】だ。
紅葉的には「妖幻ファイターゲンジとして戦っている事は、親には秘密」だが、とっくにバレている。むしろ有紀の方が、自分の過去を紅葉に隠してる。源川有紀は先代の妖幻ファイターなのだ。
先輩として、そして母として。紅葉が妖幻ファイターとして戦ってるのは複雑な気分だ。今はなんとかなってるけど、きっと辛い事も否応なく体験するであろう。あの紅葉が耐えられるのか?心配で仕方ないけど、あえて手助けはしない。ゲンジの力は、教わる物ではない。経験する事により、自分で掴み取るのだ。
-河川敷-
ずぶ濡れになった尾名新斗が、岸に辿り着いて、フラフラとした足取りで河川敷を歩き空を見上げる。その眼は憎しみに満ち、手には鏡が握られており、新斗の周囲には、僅かだが黒い霧(妖気)がかかっている。
妖怪に憑依されている間の記憶は、断片的に残っている。大いなる力を得て、双子のクズに積年の恨みを晴らし、同校女子を襲ったところまでは良かった。だが、絶対的な力を目の当たりにして、完全敗北をした。
「頭の悪い妖怪め!
いくら戦闘力に差があったって、もっと、知恵を使って戦えば、勝てるはずだ!
鏡をもっと上手に使って・・・長所をフル活用して・・・
僕なら・・・それが出来るはずだ!」
新斗の放つドス黒い気が、鏡に吸い込まれていく。妖怪はまだ倒されていない。ダメージを受けて沈静化をしただけなのだ。
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