第2話 役職《ロール》は体を表すか?

第2-1話 SANチェックはないが学力チェックはある

 神のアナウンスがあってから早一ヶ月、政府の対応は思ったより早く、また、柔軟であった。

 図らずもベータプレイヤーが確定してしまった俺達は探索者高校への入学願書を持って職員室を訪れていた。


「四人とも探索者高校へ進学で良いんだな。鷺宮さぎみや霜月しもつきはわかるが、十月とつき綿貫わたぬきもか……探索者は危険があるけど大丈夫か?」

 職員室の片隅で進路相談担当の先生が受け取った書類を前に心配そうにしている。

 ベータプレイヤーの登録はキャンセルできることがわかっているし、既に登録した者でも探索者高校に入学しなかった場合はキャンセル扱いになるとの通知も出ていた。

 つまりは無理して探索者高校へと行く必要はないのである。


 国立彼津野かづの探索者養成高等学校、世界改変アップデートに伴いベータプレイヤーへ登録した者は同高校への所属義務が生じる。

 これは、ベータプレイヤーが来年度の時点で15から17歳、つまりは高校生から選ばれているための特例処理である。


「あ、はい、コイツらだけだと色々と心配ですし、実質高校入試なしで費用の心配もないとなれば行かない理由がありません」

「私もベータプレイヤーは特待生扱いとのことなので……それに、やっぱりダンジョンのことは気になります」


 世界中にアナウンスされた神の声だが、ベータプレイヤーの選出は実際にはかなり狭い地域のみで行われていた。

 彼津野かづの市、つまりは、俺達のいるこの地方都市を中心としていたのだ。


「……まあ、保護者の了解も取れているのであれば、先生としてはあんまりあれこれ言うことはできないしな。それに、同じ中学からまとまって進学してもらうと少しは安心するよ」


「他にうちから探索者高校への進学希望者は何人ぐらいいるんですか?」


推薦組ベータプレイヤーは十名弱ってところだな。先日の事件を受けて半数は辞退した……事件の事は当然知ってるよな?」


「もちろん知ってますよ。いまだにテレビもネットもその話題ばっかりじゃないですか」


 一般人のダンジョン侵入事件。絶賛建設中の探索者高校に対し、併設されるダンジョンは既に神の手により用意されていた。

 そのダンジョンに警備を掻い潜って凸した配信者がいたのだ。


「持ち込んでた特殊警棒の攻撃も全くダメージ与えられてませんでしたもんね」

「結局あれってどうしてなのかカイくん知ってる?」


「正式なベータプレイヤーじゃないと攻撃が通らないって話になってたはずだろ」


 正確には魔力を纏っているモンスターには同じく魔力を纏っている『役職ロール』持ちのベータプレイヤーの攻撃しか通らないとのことらしい。

 そのため、銃火器等の近代兵器ではモンスターを倒すことはできない。


「ちゃんと知ってるなら構わん。推薦入試の試験日は追って連絡が来るはずだ。ベータプレイヤーなら入学は確定とはいえクラス分け用に学力試験はあるらしいからちゃんと勉強しとけよ」


 無事に入学願書を出し終えたことで一足先に高校受験の重圧からは解放された。いや、一人だけ重圧がのしかかっているのがいた。


「カイくん、ねぇ、カイくん……勉強手伝ってくれるよね……」


 元々運動推薦の話があった朔良さくらの目が死んでいる。


「サクラっちも普段から勉強してれば大丈夫なはずなのに、まあ、出来なくてもかいと同じクラスじゃなくなるだけだからいいじゃん」

「ソウマくん、それが問題なの! クラスが違ったら誰に宿題見せて貰えばいいの!」


 同じ脳筋系でも蒼真そうまは大抵のことはそつなくこなし、成績も割と上位だ。


「さ、朔良さん、私も勉強手伝いますから一緒に頑張りましょう?」

「う、うぅ、御夜みよちゃ~ん、やっぱり持つべきものは友達だよ~」


 なお、入学願書にパーティ希望の場合の記入欄があったことを朔良以外は知っている。



 ◆ ◇ ◆



「なあ、ワンコ、『INT』の値は『知力』とか『かしこさ』に影響した方が良かったかな?」

 冬休み中には朔良のための勉強会を何度かやることになった。

 もっとも、教師役3人に対して生徒が1人のため、割と緩めの勉強会であり、ワンコもしれっと混じっておやつを頬張っていた。

 ワンコに関しては図書室の一件の後に俺の頭の上が気に入ってそのまま居着いてしまった扱いになっている。

 ごまかす必要性が減って幸いではあるが何だか解せない。なお、ワンコが見えるかは任意に変えられるらしく、流石は神の眷属といったところだ。


「かしこさは何を持って賢いとか頭が良いとするかが難しいからって数値化はあきらめたやつぱう。それに、ステータスは能力の数値化であって、数値を上げれば能力があがるものでもないぱう」

 ステータスの『INT』は魔法攻撃力を表す。なお、『MP』の使用量でも威力は変わり個人差もある。


「だよなー。せいぜい影響しても記憶力とかかな、いや、それでも上がれば割とメリットが……」


「調べた限りでは『INT』と『知力』はそれなりの相関はありそうぱう。それに、ステータスを得た時点で一般人よりは知力、体力を含めて向上しているはずぱう」


 探索者高校を開設するにあたって、教師側もステータスが必要となり、特例的に政府関係者もベータプレイヤーとなっている。

 その過程でベータプレイヤーの能力についても調査が行われ、ダンジョンの中での一般人以上の能力の向上と、ダンジョン以外でも幾らかの能力の向上が確認された。

 そのため、ベータプレイヤー、つまりは探索者高校生の一般的なスポーツ関連競技への参加が制限される事となった。蒼真や朔良が通常の高校へ行くのを諦めたのもこの制限に理由がある。

 もっとも、どちらもダンジョンに入る気満々であるため悲壮感等はまったくない。


「それで、基本能力値としては7種類で決定ぱう?」


*『STR』:筋力、物理攻撃力

*『VIT』:体力、物理防御力

*『INT』:知力、魔法攻撃力

*『MND』:精神力、魔法防御力

*『AGI』:敏捷性

*『DEX』:器用さ

*『LUK』:運


「まあ、ややこしくしないのと数値化しやすい意味では今のとこ7種類かな。そして、『INT』の説明的には『知力』とした方がスッキリするのがどうしたものか……」

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