第1-5話 ダンジョン is ラビリンス

「ちょっ、眩しい!」


 再びいきなりの白い光の充満に目を閉じる。


「もう大丈夫ぱう。本来はボクが着いていくことはないんだけど、今回は特別ぱう。ただし、ボクは戦闘の役に立たないので気をつけてね」


 そう言ってワンコが俺の頭の上に張り付く。


「おい、なんで俺の頭の上なんだ?!」

「あ、いいなー。ワンちゃん私のところに来ない?」


「重くはないはずぱう。なんだか落ち着く良い高さぱう。それに、サクラは前衛だから乗ってるとあぶないぱう」


 諦めて周りを見渡すと最初に居た図書室っぽいが入ってきた扉は見当たらない。

 それに、全体的にスケール感がおかしい。天井までの高さが倍くらいにはなっているし、本棚も合わせて巨大になっている。

 そして、部屋の奥には階下へと続くであろう階段があった。


「なんかデカくね? まあ、竹刀振り回すには丁度いいけど」

 そう言って蒼真そうまは背負っていた竹刀袋から木刀を取り出した。


「木刀って持ってきて良いんだっけ?」

「何事も備えあれば憂いなしって言うだろ。取り出さなきゃバレないんだよ」


 朔良さくらも包帯だかバンテージだかを手に巻いている。


「えーと、綿貫わたぬきさんは何か武器になりそうな物持ってたりする?」

 武闘派な二人は頼もしいが俺としてはモンスターとの戦闘は御免被りたい。


「いえ、元の図書室だったら掃除道具入れとかあったんですけど、それもなくなってるみたいで……」


「ふむ、ところでワンコ、このシナリオとやらを終わらせたら図書室から出れるとして、どうやったら終わりになるんだ?」

 皆に見えないシナリオ情報にクリア条件として図書室から脱出するとは書いてあるが、それを伝えることはできない。

 また、ワンコの方が追加情報を持っていると思われる。


「実に簡単ぱう。下の階に下りて無事にダンジョンコアまでたどり着き、コアを破壊すればクリアぱう」


「ん? 無事にって途中に危険な事があるのか?」

 一見簡単そうだが『無事に』と言ったのを聞き逃さない。


「一応、モンスターがいるぱう。多分戦わなくてもなんとかなるのでスルー推奨ぱう」


「よっしゃモンスター! 刀のサビにしてやるぜぇっ……ぐはっ」


 馬鹿なことを叫び出した蒼真の頭にカバンを落とす。


「い、ま、スルー推奨って言っただろう。モンスターに見つからないように行くし、見つかったら逃げるぞ。朔良もだからな」


「はい……」

 やる気満々そうだった朔良もそっと目を逸らした。


「準備はいいぱうか?」


 若干呆れたような声が頭の上からする。


「それじゃあ、気を付けて進もうか。先頭は蒼真、次が俺と綿貫さん、朔良が一番後ろで警戒をお願いするよ」


 簡単な隊列を組んで下へと降りる階段を進む。

 頭上の電気も明るく付いておりダンジョンと知らなければ大きな校舎の一角だと思ったことだろう。


「去年LED照明に取り替えてたから昔のホラー映画みたいに蛍光灯が点滅するような演出が足りないよな」

「ちょっ、カイくんホラー映画とか言い出さないで。私、ゾンビとか苦手なんだから……」


「え、意外。朔良さんなら笑顔で蹴散らしそうなのに」


 朔良のやつ綿貫さんにもそんな風に思われてるのか。


「あのね、御夜みよちゃん……」

 朔良が綿貫さんの両肩に手を掛け、じっと目を見つめて言った。


「ゾンビは殴ったら手が汚れそうじゃない……」


「あ、はい、ソウダネ……ウン、ソウダヨネ」


「サクラっち、遊んでないで下の階に着いたよ」


 サクサクと階段を下りた先は『図書室』のプレートが掲げられたドアだった。


「あれ? 実はこっちが本物の図書室だった?」

「いや、ダンジョンになった時点で本物も偽物もないだろう。で、開けるけど心構えと準備は良いか?」

 ドアの両側に分かれて待機する。


「オッケー、いつでも切れるぜ」

「私もオッケーだよ」


「あ、私も大丈夫です」


 無言で合図を送り、ゆっくりとドアを開ける。


「はぁっ?!」

「えぇぇっ」


 思わず声を上げた口を自分の手で塞ぐ。


 図書室の中には青く広がる空と巨大な本棚からなる地面、いや、道があった。


「なあ、かい。僕はダンジョン、いや、ファンタジーを舐めていたかもしれない」

「同感だな。なあ、ワンコ、ここはダンジョンの中で良いんだよな、それとも異世界だったりする?」

 頭の上に居座っているであろうワンコに思わず訊く。


「ここはダンジョン、フィールド型と呼ばれるダンジョンぱう。そして、向こうに見えているのがダンジョンコアぱう」


 ワンコが指のない手で指差す先には一段高くなった祭壇のような場所とそこに光を放って浮いている黒い球体が見えた。


「ところで、ここって本棚の迷路? 落ちたら無事では済みそうにないんだけど?」

 朔良が道の端から下を覗き込んでいる。道のように見えたのは巨大な本棚の上部であり、俺達は本棚の上に乗っていた。

 下までは十メートル以上はありそうで、元々図書室のあった四階ぐらいの高さはありそうだ。


「これって僕達が小さくなったってこと?」


「いえ、そんなことはないと思います。その証拠にあそこに見えているモンスター……」


 綿貫さんが指差す方向を見ると巨大な1つめのモンスターがうろついているのが見える。


「……あれは恐らくギリシャ神話でキュクロプスとかサイクロプスとか呼ばれている単眼、つまり、つまり一つ目の巨人族です。巨人族より本棚が大きいということは私達が小さくなったのではなくこの本棚が大きいと言って間違いはないと思います。それに、あっち側を見てください。あの犬、サイクロプスに比べると小さく見えますがかなり大きいですよ。頭が三つあるところを見るとこれまたギリシャ神話に出てくるケルベロスで間違いありません。ここがダンジョン、つまりは迷宮ラビリンスであることを想定すると、探せばミノタウロスも――」


「綿貫さん、ストップ、すとーっぷ。とりあえず僕らが小さくなったわけではないことは良くわかった。とりあえずは出口に向かう方法を考えよう」


 なにかのスイッチが入ったかのように喋り始める綿貫さんを蒼真が慌てて止めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る