第1-4話 振れないダイス

「ここは……ってワンコ?! なにがどうなった? 朔良さくら蒼真そうま、それに、あの娘は?」


 眩しいほどの白い光が収まって周りを見回すも朔良さくら達はおらず、見知ったワンコだけがふよふよと浮かんでいた。


「落ち着くぱう。みんな無事ではあるけど、想定外の事態ぱう」


「いや、まあ皆が無事なら良いんだが、これはお前の仕業か?」

 まあ、ワンコの仕業でなくても神関連の事態なのは間違いないだろう。


「違うといえば違うけど関係がなくもないぐらいの関係ぱう。とりあえず、他の皆もここに呼ぶけどカイはボクのこと知らんぷりしててぱう。で……」

 わんこの手が俺の額に当てられる。ふかっとして気持ちいいかも。


――『今後はこうやって心の中で会話できるようにしておくぱう』


「うぉっ! 突然頭の中から声がしたぞ。びっくりするから説明してからにしろよ」

 神のアナウンスのように頭の中に直接声が響いた。


――『いや、だから皆が来る前に説明をしてるぱう。ちなみにカイの方からも話しかけられるぱう』


『ん、あー、こうか。あーあー、聞こえるか?』


「聞こえるぱう。まあ、皆のいるところではあんまり話しかけないでくれると助かるぱう」


 どっちにしろ、俺が【調停者ルーラー】であることは制約ルールで話すことができないし、ワンコとは初見という体でいれば問題はないだろう。


「それじゃあ、皆を呼ぶぱう――」


 再び空間が白い光で満たされ、眩しさに思わず目を閉じた。



 ◆ ◇ ◆



「カイくん、ここどこ?!」


 握ったままの手がブンブンと引っ張られて目を開けた。

 先ほどと同じ図書室と同じくらいの大きさの何も無い白い部屋。


「カイ、これは女神様とか出るパターンの異世界転生に違いないぞ」


「え、嘘、なにこれ」


 相変わらず変なテンションの蒼真にオロオロしている女子生徒。


―― 『ようこそ、ベータプレイヤーの皆さん』


 頭の中にワンコの声が響く。


「おわっ、え、誰、どこ?」


―― 『姿を見せますので驚かないようにして欲しいぱう』


 目の前の何もない空間に秩序の獣わんここと犬のぬいぐるみがぽふっと現れた。


「ぱう? え、犬?! ちょっと、カイくん、あれ、かわいぃー!!」

 そのままワンコに飛びつきそうな朔良を抑える。


「あのー、ワンコさん、これはどういう状況でしょうか?」

 女子生徒がおずおずと尋ねた。ちなみに、蒼真は「女神じゃないだと……」と崩れ落ちている。


「簡単に言うと、図書室ここにベータテストのダンジョンが準備されようとしてて、そこに登録済みのベータプレイヤーが入ってきたのでベータテストが始まったぱう」


 俺と朔良は崩れ落ちている蒼真にじっとりとした視線を向けた。


「え、もしかして僕のせい?」


「もしかしなくてもお前のせいだな。それは後で説教として俺達はこれからどうなるんだ? 元の図書室に戻してもらえるのか?」

 途端に青ざめた蒼真は放置でワンコに訊いた。


「既にシナリオは始まってしまったから途中退場はできないぱう。それで申し訳ないけど、そのベータプレイヤー以外も強制的に登録扱いとなったぱう」


 まあ、そうだろう。他の皆には見えていないだろうが、俺の目の前には半透明の表示が出ていた。


:――――――――――――――――:

シナリオ:図書室ダンジョンの脱出

難易度:?

推奨人数:2~4人


クリア条件:図書室から脱出する

:――――――――――――――――:


「そ、それで、私達は何をすれば良いのでしょうか?」

 女子生徒、蒼真が『綿貫わたぬきさん』、朔良が『御夜みよちゃん』と呼んでいた綿貫わたぬき御夜みよさんが覚悟を決めたように一歩前へと出る。


「まずは役職ロールとステータスの確認をしてもらうぱう」

 どこからともなく取り出されたホワイトボードに、『役職ロール』、『ステータス』、『スキル』と書かれた。


「よっしゃ、ステータスきた! 『ステータス』! 『ステータスオープン』! あれ?」

 復活した蒼真がなにやら叫んでいる。


「ちなみに役職ロールやステータスの情報は他人に、いや、家族とか仲の良い人にも教えない方が良いプライベートな情報ぱう。昨今は個人情報保護の取り扱いにもうるさいから気をつけてぱう。それで、情報の表示は『シートオープン』ぱう」


「『シートオープン』! おおっ、出た!」

 皆の生暖かい視線も気にせずに蒼真は目の前に出たであろうステータス画面を食い入るように見始めた。


「さあ、他の皆もキャラクターシートを開いて『役職ロール』を確認してぱう。あ、変更可能でも変更したらだめぱうよ」


「『シートオープン』!」


 皆も興味津々でステータス画面を開く。


:――――――――――――――――:

名前:十月とつきかい

役職ロール:【冒険家ディーラー】▼ / 【調停者ルーラー

年齢:15

性別:男


HP : 8/ 8

MP : 7/ 7(15)


STR :5(-2) => 3

VIT :4(-2) => 2


INT :8(-2) => 6

MND :4(-2)【+1】 => 3


AGI :1(+2) => 3

DEX :2(+2) => 4

LUK :2(+4) => 6


※βバージョンのため予告なく変更される場合があります

:――――――――――――――――:


「『HP』や『MP』のステータスは長押しすれば説明が出るぱう。ちなみに『STR』なんかの初期値は0から10で平均的な値が5ぱう。けど、個人差もあるから数値を信じすぎないことが大事わん」


「この数値って変更できないんですか? 『STR』極振りとか面白そうなんだけど……」

 朔良が若干物騒な事を言い出す。


「残念ながら無理ぱう。その初期値は皆の現在の能力を表したもので、ゲームっぽいけどゲームじゃないから振り直しはできないぱう。あ、だけど『役職ロール』補正はあるから安心してぱう!」


 俺のステータスはというと思った以上に低いパラメーターになっている。補正も込みで平均値を上回っているステータスはあるが、前衛は無理そうだ。


 『STR』等の数値は六面ダイスであるサイコロを振って1引いた値、1D6ー1が2回分で表せるが、現実リアルではサイコロを降ることなく現在の能力値が表される。

 今までであれば数値では表しにくかった値も数値化されるのはある意味残酷な世界改変アップデートだ。ステータスが個人情報として秘匿されなければ差別が横行して社会が混乱するかもしれない。


「ぼっ……僕のステータス……低すぎ?」

 約1名ステータス画面を見てダメージを受けているのがいるが、残念イケメンこと蒼真のことだからLUKの値とかが低かったに違いない。


「『役職ロール』の説明に入りたいところだけど、時間もないのでダンジョンに潜りながら説明するわん――」


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