第23話 長安の休日3-2〜You Know what I mean.〜

 ホテルのレストランでモーニングサービスメニューを頼み、大人しく二人で食べていた。トースト、サラダ、オムレツ。ドリンク、ケーキ付きでおひとりさま20銭。このホテルの食事で庶民でも手が届くのはこの朝のモーニングサービスだけだ。


 ケーキは古式なカチコチの小さなケーキを任意で5つまで好きなだけ選ぶ方式。もともとは個数制限はなかったが、誰でも頼める唯一のメニューであり、ガツガツしたやつが食べ放題と勘違いしてもと取ったるとバカみたいに食ったことにより個数制限が付いた。


 実際、この小さなカチコチのケーキはずっしり密度が高く、見た目は小さいが1個でふかふかケーキの1ホール分くらいのカロリーがあり、5つも食うと後で確実に気分悪くなる。ひとつかふたつが適量なのだが、やはり5つまでと言われると5つきっちりもらわないと気が済まないのは貧乏性だからだろう。


「ここにはよく来るの?」


「いや、ここぞというときの勝負のときだけで……ある。」


 ございますと言いかけて敬語を引っ込めた関係でとてもおかしな物言いになるが、そんなことは気にならないように、陛下はポッと顔を赤らめて


「私とのデートも勝負なんだ。」


「あぁ、(生きるか死ぬかの生存を賭けた)勝負だ」


「私のために本気になってくれて嬉しい!!」


「へい……いのためでなく自分の(貞操と生存の)ためだ……。」


 もうお湯でも沸くんじゃないかと思うほど陛下は赤面させて痛くないようにしながら丙吉をバシバシ叩いきながら


「へいいだって♥。もうわたしたち夫婦めおとみたい。あなたのためは私のため。私のためはあなたのため♥」


 本当に調子が狂う。この3日間、宮殿では決して見せてくれなかった陛下の別の姿。威厳たっぷりの皇帝陛下のド派手な壊れっぷり。


「こういう古式のケーキもおいしいですわ。」


「それ自体は無味無臭の空気を含むことが食べ物に対して持つ効果というものを逆説的に教えてくれますな。」


 古い時代のレシピによるカチンコチンのケーキと今のケースの違いの最たるものは気泡の有無。フルーツソースやクリームといった高価な食材ではなく生地を空気により増量するのは、増量というセコい考えによるものではなくて、空気を含むことで柔らかい食感を実現するためにひと手間かけていると考えられる。

 普通のケーキを押しつぶしたようなカロリーメイトみたいな生地にフルーツソースがのっているここのケーキは普通のケーキとは全く別だ。


「次はどういうところ行きたい?」


 どこ行きたいではなく、どういうところ行きたいと聞くのは、どこ行きたい?だと麗阿レイアの店とダイレクトに指定されたとき詰むからだ。飽く迄も条件にあった具体的な店の選択の主導権はこっちに握らせてもらう。


「ぶらぶらラブラブしながら考えましょう」


 (汗)……ラブラブいちゃいちゃしながら次の行動決めるの?


「とりあえず、ここの勘定はオレが出すよ。」


 デートの飲食は基本男性持ちだ。その代わり店選択の主導権は譲らない。休日だというのになんで女装した上司に奢らなならんねん。


「ちょ、ちょっと、いいわよ。私だすわよ!」


「それこそ大騒ぎにな……る。オレ以外からどう見えるか考えて行動して……するんだ。」


 身バレしたら皇帝陛下御用達とか何年何月何日皇帝陛下御幸記念とか看板に書かれるぞ。そういう身分なんだから、普通のアベックがどう動くか考えて行動しないと。


―――

 来たときに通ったいかがわしい店の並ぶ通りを迂回して、陛下を刺激しない、文化的な書店街をゆく。ここなら大丈夫だろう……。


きっくん、みてみて〜!直輸入ハードゲイ書籍専門店 『ゲイもん類聚』入荷しました だって〜!見ていこうよ!」


……orz。


 気付かないふりしてすぐ横丁に入り込む。陛下もまるで金魚のフンのようについてくる。目の前にはビニールのアーケードに、大人のオモチャ・書籍自販機ありますとデカデカと書かれたあばら家が目に入る。


 ダメダメだ。なんなんだこのダンジョンみたいな街は!作者遊んでるだろ。(※作者より:全部フィクションですが「長安の休日」パートはその中でも特に虚構度高めです。)


 さらに折れて大通りと並行する裏通りを行くと今度こんど明るい家族計画コンドーム。いや、それぞれはどこにでもあるからたまたまここに集まってるってことはあるだろうが、どうしてこのタイミングで連続するかな。


 いかん、この街は動いていれば陛下を刺激する何かが現れる悪意あるダンジョンだ。(※ふたりのそういう方面への感度が高すぎるだけで普通の大都会です)


 さてどうしたものかとさらに大通りから離れる横丁に入ると、大の大人が三人がかりで一人の少年を縛り吊し上げていままさにタコ殴りにしている現場に出くわした。

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