第30 話 研修〜皇帝陛下の統治目的
「ふたりも知っての通り、朕はかつて庶民暮らしをしていた。」
丙吉はそこに送り出した張本人であるからもちろん知っている。魏相もそれなりに役人暮らしが長い上に陛下に密着してサポートする仕事なのだから聞かされていたのは想像に難くない。
「そして、正直なところ政府ってジャマだなと思っておった。」
衝撃の問題発言。国の頂点に位置する皇帝陛下がアナキスト?!いや、皇帝陛下は政府の頂点ではなく国の頂点である。天子と言い建前上の話ではあるが地上における天帝の代行者として神として崇められる対象でもある。そのお方が政府なんて要らないとバッサリ言い切ってしまった。
「しかし、こうして政府を任される立場に祭り上げられてしまい、非常に不本意である。」
不本意なんですか……。じゃあ陛下が本当にやりたい事とは何だろう?……一つだけおぞましいもの(「
「あのような政府であれば遅かれ早かれ打倒されるのが妥当だ。政府が打倒されたとき看板である皇帝は見せしめのために最も残忍でかつ恥ずかしい姿を見せつける形で処刑されるだろう。それを避けるために、あるものは仕方ないからこの謎の優越感に浸ってる変な人達の集まりからなる組織をこの国に暮らす生活者の皆様にご奉仕させることで、政府の存在意義を明確化させる事を考えた。これが朕の治世の原点である。」
流石は皇帝陛下。先進的なお考えだ。でも役所を謎の優越感に浸ってる変な人達の集まりとはひどい言いようだ。
「専売は政府利益を目的とするものではなく、人が生きるのに絶対に必要な物資に対する版図内全域にわたるユニバーサルアクセスを保証するための制度であり、品目は多くしつつもそこから誤差の範囲を超える利益を取ってはならない。ただし輸送網の構築と維持に掛かる費用もまた原価に含む。」
陛下の治世になってから政府専売の塩と穀物とタバコと燃料が安くなったがそれもまた一貫だったのだろう。しかし陛下の治世で社会が100年分は進歩し、ここに新たに郵便、通信、定期便の交通機関といったこれまでなかった新たな生活必需サービスが登場した。これらもまた専売でユニバーサルアクセスを確保する必要のあるものだ。
「高祖の法三章の理念に基づき、複雑怪奇化して互いに矛盾した条文を含む法は誰もがすぐに覚えられていつでもパッと参照出来るレベルにまで整理されなくてはならない。立ちションひとつで職を失うようなことは絶対にあってはならない。」
煙に巻くためとしか思えない複雑怪奇な法体系は、それこそ霍一族がやりたい放題するときに都合が良い条文取り出してきて、なければその場で作って適用して、聞いたこともないルール持ち出して法律で定められてるとか言ってパワハラしてきたよな。
「税は安ければ安いほど良い。政府の行う介入はひとつひとつそれぞれはほとんどの住民にとってどちらでも良い事であるが、どちらでもいいと思っている人にも税として費用負担してもらってる。お代をいただく以上はそれ以上のベネフィットが関心を持たないのに負担だけさせられている国民にも、もたらされなくてはならない。」
受益者負担の原則が叫ばれて久しいが、現実に他所の国では税金を巻き上げて誰も必要としてない薬やクーポン、カードといった御用商人に横流しするといった事は全世界的に横行している。
本来ならその費用は税金からではなくその取引で利益を得る製薬会社、クーポン、カード業者が支出するべきものであって税金から出すものであってはならない。
そんなことをやってるカネがあるくらいなら政府は税金を安くしろということだ。
「しかしこれだけの官僚組織が既にある以上、彼らの食い扶持は確保しなくてはならない。大規模解雇したならば失業者として無敵の人が街に溢れそれが社会不安の要因になるからだ。」
えっと……。用意していただいた官舎がものすごい無駄だとかいうツッコミはダメですか?
「まぁ、ざっとこんな感じの職場だ。きっくん……もとい、丙吉殿の活躍を期待している。」
これだけ散々話広げておいてまぁざっとでこんな感じで誤魔化すな!!
「その現状に対しての陛下のビジョンみたいなものはないのでしょうか」
「それをこれからともに作っていくのではないか?この仕事は指示待ちではならない。しかしやり過ぎてもならない絶妙なバランス感覚が求められる。魏相どのは少しモーレツ気味で民が疲弊してしまっている。」
なにはともあれ、陛下の真横で今日は仕事をサボってゲーセンへとかはもう出来るとは思えない(やるけど)
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