第17話 今日も仕事を終えて風俗へ
前回何か恐ろしいものを見たというのに性懲りもなくまた
店内に入ると今日は許広漢が先に来て席にふんぞり返って女を侍らせてる。いつ見てもまるでヤクザだよなこの人。ふと侍らせてる女を見ると、このヤクザみたいなオヤジの面影がある。
「こ…(皇后陛下!)…!………こんばんわ」
跪いて皇后陛下と言いかけて、それはだめだと頭を下げるまでにとどめて「こんばんわ」でごまかす。
「いいのよ、死んだことになってるけど今の皇太子殿下の生母というのは変わらないし。でも私の赤ちゃんもっと抱きたかったな〜」
「この店内は、外界とは別の時空なので、世俗は干渉することが出来ないわよ。安心して皇后とでもなんとでも呼んであげて大丈夫よ」
「俺にもうちょいと甲斐性があればなぁ」
「おとうさん、それは言わない約束でしょ。」
いや、それは病弱なおとうさんを看病するやはり貧相な娘がやるやり取りで、オラオラ系のヤクザまがいのオヤジと皇后陛下のやり取りじゃないから。
「もうちょいと甲斐性があったらどうしてたんですか?」
「政府転覆して政府に攫われていた孫を取り戻して娘に育てさせる。」
やっぱりヤクザだわ。
「陛下はともかく有能なんだが、人情ってもんを理解しないんだよな。理想の政府を指導する理想の君主とはかくあるべきの理想を追求するあまり、道家の理想君主像である独り者でなくてはならないを地で行こうとしてるし、本人だけでなくうちの孫にまで強制しようとしてるし。君主の前に人間じゃないんかね?」
「外戚の影響ってじわじわと国全体を蝕みますからな。あれだけクソ田舎の領域だけデカい匈奴が、我々に力で圧倒されなかったのは、外戚のやりたい放題を未然に防ぐことで民たちが
「オレ、政府利権なんかに興味ねぇよ。孫のかわいい顔が見たいんだよ。」
「参内すればいつでも皇太子殿下としてそこにおわすだろう?死んだわけでもあるまい。」
「違うんだよ!そういうのじゃねぇ。そもそも用もなく参内出来ないだろ。仕事じゃなくて、一緒にごはん食べておいしいねって言い合う家族としての孫がここにいてほしいんだよ。」
と娘さんと自分との間の微妙な隙間を指さした。
「いや、孫をキャバクラに連れて行くジジイあかんやろ。」
既に娘さん(死んだことになっている皇后陛下)をキャバクラに同伴させてる。孫もここに連ねるつもりだろ。だめだってそれ。
「オメェじゃねえんだから、いきなりキャバクラデビューさせたりしねえよ。きちんと順を追ってだな……」
「でも、現に娘さん連れてきてるやん。それに、いきなり連れて来ないで順を追ってったって一緒にお出かけ始めて一ヶ月しないうちにここに連れてくるやろ」
「お前さんに娘の元気な姿見せたくて確実に会えそうな場所としてここに来ただけだ。おめえの好みに合わせてここに来たんであってオレの趣味で来たんじゃないぜ。それにここは全然いかがわしくないだろ?ただ飲食店ついてる銭湯だろ?」
オレのせいかい?!
許広漢の娘さんの名前は許平君という。皇帝陛下との間に皇太子殿下をもうけているのだが、入内したわけではなく、皇帝陛下が民間におられた頃の縁談で結婚し子どもを作り育児でバタバタしている間に、あれよあれよと夫が皇帝に祭り上げられてしまい、赤ちゃんは皇太子ということで官僚組織で養育することになり彼女から奪われてしまった。産後に可愛い盛りの赤ん坊を奪われて許平君は自身が皇后になったということを受け入れる暇もなく、ただただひたすら困惑した。曰く「ちょっと待って!ちょ〜最悪なんですけど〜。チョベリバぢゃね?」とのこと。
何が何だか理由が分からなかっただけでなく、転がり込んだ皇后という地位の意味もわからなかったので敵を作らぬように息を潜めて生きてきたが霍光の奥方から露骨に殺意向けられたことに気付き死んだことにして本人の意志により宮殿をズラかった(広漢の言い分と微妙に食い違う)。
夫は霍光には逆らえないヘタレだったので流れ的に死別ということにして離婚したのも同然になった。その後ヘゲモニー獲得に向けて勝負の一手に使われた大義名分が、霍光の奥方たちが彼女の食事に毒を盛ったという罪状。これを使ってしまった以上、よりを戻すことは絶対に不可能。皇后を殺したという罪で霍一族郎党処刑したのに、皇后が生きていたらおかしい訳で。
「それなりに苦悶があっただろうな。ここでやらなきゃ霍一族を潰せない限界のタイミングでつい切り札として使って戻れない一線を越えたわけだ。」
匈奴のやり方を取り入れたというのはオヤジさんをなだめすかす方便……いや、違う。許にとってそのストーリーは紛れもない真実なのだ。事実が複合的に存在し観測者によって起きている事象から観測される事実が異なり、人の数だけある真実のうち彼にとっての真実。
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