第16話 陛下の過去〜幼少時代

 出所後はおじさんたちに連れられて張賀さんって人を頼りに華の都長安へ。噂に聞いていた大都会は思ってたのと違った。城門と城壁は隅々までフリュネとか言う風俗嬢が修理費出しましたとひたすら広告が打たれており、城門としての機能は言うことはないが、街全体が遊郭みたいに思われかねない。五年前の戦乱で破壊されたらしい。

――

「城壁を壊して侵攻したのは陛下のお祖父様でございます。」

「知ってる。」

「またその武装蜂起の同志の一部は捕らえられて、私が看守を務めてた刑務所へ送られてきて、陛下がおじさんと呼んでる人々となりました。」

「だね。」

「事情を詳細に知らない人々からしたら帰ってきた狼藉者一味と思われてたはずです。」

「道理で周囲に来るのは許広漢みたいなちょいワルオヤジばっかりだと思った。」

「陛下、許広漢どのはちょいワルどころではなくてヤクザです。」

「一応、義理の父なんだが……。」

―――

 張賀さんは後宮の管理部門である掖庭のえらい人だった。後宮の主人公はお妃様だけど、お妃様たちの本分(子どもは知らないでよろしい)以外の一切合切の雑用を一手に引き受ける組織なんだって。その張賀さんと合うために、業後になる夜が来るまでお屋敷でおじさんたちと張賀さんを待った。

―――

「大事なこととぼけて全部すっぽかしてますね」

「朕が言う必要ある?」

「知らない読者さんもいますが?」

「それは作者が地の文で説明すればよかろう。丙吉と朕にとっては常識なので語る必要はない。」


はい。掖庭の役人ってのは宦官がなる仕事。張賀はその部門長。宦官がなる仕事である理由もその扱いも推して察するべし。以上

―――

 おじさんたちは張賀さんとは顔見知りのようだった。

 「おう、上がるぜ」とだけ声をかけて、誰もいない留守中のお屋敷の奥に問答無用でずかずかと、まるでここが自宅で、そうするのが当たり前かのように入ってゆき、冷蔵庫からビールを取り出してまっ昼間から飲み会だった。

―――

「陛下も人のこと言えませぬな」

「朕ではない。おじさんたちだ」

「おじさんたちの王子様であらせられた陛下なら止められたのでは?」

―――

 張賀さんが帰ってきたときには僕たちは完全に出来上がっていた。

この屋敷の主人、張賀さんは開いた口が塞がらないと言った顔をしてる。

 少しして状況をようやく掴んだらしく、


「💢てめえら、何してやがる!」


ぐでんぐでんに出来上がってるおじさんたちはガハハガハハ笑いながら


「オレたちゃ塀ン中から先日出てきたばっかりだ。こう言えばわかるよな? 今日の酒代くらいコイツが育った頃に何万倍にもして返してくれるぜ!ホラよ!」


 といい、おじさんたちは三人がかりで僕を張賀さんに突き出した。

 張賀さんは僕の顔を見るなり怒りを急に引っ込めてうやうやしく跪いた。


「………殿下!ご無事であらせましたか!」


―――

「まぁ、そうなりますわな。」


 いや、普通親しき仲にも礼儀ありってやつで知り合いの家であっても黙って上がって冷蔵庫荒らさんやろ。しかし丙吉は自身もなので、彼らの行動が手に取るように分かる。


「そういう人間関係だったのをこのとき知りました。」


「不渡確定の手形がまさかの満額どころかプレミア付きとは」

「あのときおじさんたちが冷蔵庫荒らしでなければ張賀さんも債権を取り戻す事にそんなに必死にならず、僕もここに到達してないかもしれませんね」


「それはありません。張賀は何はなくとも陛下が来たなら持てる全てを捧げていたでしょう。彼は陛下のお祖父様に寵愛されていた身。その日々を取り戻すためだけに男の誇り、いや男である証しすらかなぐり捨てて生きてたような男です。いや、生きてきたようなじゃなくて、生きた男です。」


「知ってました。」


――

 登場人物が出揃ったところで、定時になったので、残業前の食事休憩で陛下に付き従い食堂へと移動する。こんなホワイトな職場見たことない。三人の間では血こそ繋がらないが家族みたいなもんでほぼタメグチとなっていたが、この人間関係の外において陛下はこの国の皇帝であり最上位のVIP。おつきの者たちや護衛が三人の周りにつくのはまるで何かのパレードのようで圧巻だ。

 そして山のように出てくるうまそうな宮廷料理、いやうまそうなだけではなくて見映えに負けず実際に美味い。しかし、他の人の目がある場所なので言葉遣いには注意が必要だ。さっきまで俺お前だったのが、臣下と皇帝陛下という関係を演じなくてはならないのは少し窮屈だし、変な言葉遣いになる。


「これは公共事業のひとつだ。日頃から場数をこなしてないと、いざというとき外国使節をもてなせない。普段から最高の料理とは何かを失業の懸念することなく研究させるためにも料理人を囲っている」

 容器、見た目のみならず素材、その調理方法、出す順序まで全てに意味が込められている。もともと陛下はこういうのがお好きな方ではないが、宮廷料理人は陛下のお食事を用意することが仕事ではなくて、主に外交要員として使節をもてなす料理を創り出す役割であり、その必要性を理解しているからそうさせているということだ。だから陛下個人を題材に媚びた意味づけをしてきたら容赦ない。外国使節を感動させ交渉を有利に進めるための戦略兵器であり料理に意味を持たせて読み解けるように出すというスキルを平時から訓練させるためにやらせているに過ぎない。料理で表現するために外国要人のプライベートの情報収集部隊まであるという。


「実際のところ秋刀魚は魚河岸のそれよりも目黒のが美味い。」


目黒でサンマは捕れませんが……。

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