推薦理由(遡及)

第10話 皇位継承の立役者

 皇位争奪戦というのはいわば流血を伴う喧嘩神輿のようなもんで、皇室に縁のある者を誰か神輿に担いで各々の正統性を主張し、交渉あるいは武力により中央政府におけるヘゲモニーを獲得する競争である。文明社会となった現代でも基本的に変わらない。先進国では巧妙に隠されているが、後進国やかつての先進国が後進国に没落した場合に現代でも観察される現象である。原則としてその功労者は中央政府でのヘゲモニーを利用して政府運営で発生する利権を仲間内で独占するので、順当に皇位争奪戦が行われて皇位継承が行われた場合歴史上にたった一例の例外もなく愚帝の悪政となる。中興の名君と呼ばれる君主はたいてい脛に疵を持ってる。この物語のツレである前漢の宣帝は後者である。なお、本人のチート級頭脳で対抗してギリギリ名君扱いされることもあるがマルクス・アウレリウス・アントニヌスは誠に残念ながら結局戦争利権屋に押し切られたので前者である。


 宣帝の場合は二段階革命を仕込んだ。いったん現存秩序の打倒のために霍光の軍閥を利用し、その後利権を気持ちよく与え油断させたところをパクリといただく、霍光は同志だったが身内に甘くドラ息子どもが悪い事ばかりしてたので、まるでペテンに掛けるような真似をしてこれを粉砕し親政を敷いた。どこまでも食えない、やり手で強かな奴でもあるのだ。煙と放射能浴びて成長するモンスターは丙吉だけではなく、丙吉の留置場に潜伏していた劉病已のステルス家臣団もそうだった。知らぬは役所をサボって遊び呆けてた丙吉のみ。


「実は、ひとつ卿に謝らなくてはならないことがある。」


皇帝陛下が赤子のときに保護したことに対する褒美の詳細を決定したあと、仕切り直したように口を開く。


「まだ卿は気付いていないと思うが朕は一度だけ卿をペテンに掛けた。しかしこれは必要なことだったので、なかったと思いたいのだが損失があったならまた同様に過去に遡って精算させてもらう。日を改めることも出来るが、積もる話もあるから長くなる。時間が許す限りで良いので出来れば付き合ってもらいたい。」


「陛下の詔とあらば他の何にも優先して臨まねばなりますまい。どこまで体力が保つかわかりませぬが頑張らせていただきます。」


「役所は定時で切り上げて風俗に行きたいのではないか?」


 あまりにしつこく役所をサボって遊びに行ってた話ばかりしてきてたのでもう完全に陛下にネタにされている。


「疲れて退庁したくなったらその時申し上げるようにします。」


「疲れたら眠れよ、僕の胸にもたれて両腕に抱かれて」


「丁重に辞退いたします。」


「でも疲れて退庁したらその足で風俗行くんだろw」


ギクッ!鋭い。しかし隠したところで陛下直属の隠密は国の最高精鋭。いわば素人がスパイ相手に渡り合うというやるだけ無駄なことだ。隠し事など初めから出来るわけがない。無駄な抵抗はやめて正直に答えよう。


「慣れぬ宮廷に招かれ、精神的に極度に緊張しておりますゆえ、リラックスして気分をリセットして◯ックスすることは明日の精気を養う上でも必要なことでございます。」


「要するに行くんかいw」


「陛下に虚偽を奏ずる事は重罪となります。何に関しても事実か真実のみを申し上げる次第でございます。」


「確かにそうだが、ここで風俗行く理由を堂々と雄弁に物語ることができる程肝が据わってるのは天下広しといえども卿くらいだぞ。そういうことなら大丈夫だ定時で上がれ。朕がここにいる原点は卿が生命を繋いでくれたことなのだから、どんな事実があってもいついかなる時であっても命ある限り卿の味方であり続ける事を約束する。では定時まで説明を進めさせてもらおう。」


「ハハァ、ありがたき幸せ。」


「そこは、にんまり笑って『チョロいぜ』とでも言ってくれないとこの光景を傍から見たものが誤解するではないかw」


「陛下がお嫌いな儒家の得意技でございます。ものは言い様です。」


「霍光将軍の軍閥で、担ぐための皇族を紹介しろキャンペーンを張ってたのは覚えておるな?」


「はい。職場ポスター貼りをしてましたから。そのような募集ポスターも貼り出しました。」


「そこに僕が現れ、そして担がれて即位したことは知らないようだな?」


「ええ。私は臨時職員でしたから。上の方で何かコソコソしてるのは知ってましたが、関わっても碌な事がないと思ってましたから。」


「そこで、それとなしに私の存在を仄めかすのに使わせてもらった。」


「えええ?!いつの間に?」


「元皇太子、いや私の祖父の側近たちの諜報能力を甘く見てもらっては困る。それとなく周囲から耳に入れて、まるで自分が知ってる情報のように話させたのさ。」


 職場仲間との休憩時間の世間話として、武帝直系の子孫が民間にいるらしいぜという噂話をしたことはあった。しかしその人物がまさか自分の元職場の囚人だったとは夢にも思わなかったし、それを吹き込んだのが王子様を傅いていた模範囚たちの手先だったとも知らなかった。全部あの囚人学校出身者が張り巡らした陰謀だった。陸軍中野学校かよ。


「だから、先程までの話に上乗せする形で、卿が朕を推薦した。それにふさわしい地位を少し前に得て、それが今も続いた前提で俸禄を精算し、来月から丞相に着任してもらう。」

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