第8話 今日も役所をサボって風俗へ

 冤罪である可能性が高いと一応は中央政府公認の推定無罪による留置が決定し、既に発行されていた処刑の指示書は全て一旦保留となった。しかし推定無罪なだけで大量に発行された有罪判決を全て洗い出して無罪にする事務作業に時間が掛かり、すぐさま解放というわけにはいかなかった。

 既に収容人数の上限の三倍の囚人を留置してる丙吉の職場は既に推定無罪扱いになったがやることもない囚人たちが労役ではなく自らの生活の場を切り盛りするために自発的に働いていた。それに無罪となったとしても、逮捕されたときに没収された私財、強制中断された取引で失った信用など、無罪放免されてももとの生活が戻るわけではない。それにもともと貴族だった囚人たちにも既に代わりが挿げられている地位を渡すこともできない。それらの地位は別の者によって埋められており、それを解任してもとの人に戻すなどと言おうものなら、既得権益を得てる後釜が流血沙汰も辞さない猛抵抗をするだろう。貴族であっても一度ブタ箱に行ったら出る時は庶民だ。

 無罪放免になるのがいつになるかわからないので、成人してない囚人には生活にすぐに役立つ実学を中心に教育を施す事にした。若いうちに形成しておかなくてはならない基礎となる学ぶ姿勢と、食べ物の捕り方見分け方作り方、道具の構造と製作と使用。言うなれば異世界転生スローライフを、詰め込み教育でスローでなく、猶予なしですぐその場から始めるための教育だ。そこには丙吉の十八番である儒学の出番は無い。また囚人の大人たちの多くは中央で嫉妬され讒言で貶められてここに来た者も多く、道家、法家については受験勉強付け焼き刃の丙吉よりもよほど優れた教師たちが居る。ということで囚人更生教育は儒学でしか使い物にならない丙吉は身を引いて実学については何倍も詳しい囚人たちに任せて、今日も役所をサボって遊郭キャバクラ麗阿レイアたそに逢いに行く


―――

「今日も役所をサボってにはもう慣れて何も感じなくなったが、今度は金遣い荒くなったな。」


「麗阿が居たのは安全安心低価格で健全な店ですよ。飲み食い付けてパチンコより安いし一切お触りなしで、女の子が人生相談乗ってくれるだけですよ。」


「外国勢力によるハニートラップの線はないのか?脇が甘くないか?」


「私のような木っ端役人が何知ってるんですか。情報源として何の価値もないですよ。」


 どこの世界に皇帝とサシでタメグチで話せる木っ端役人がいるのだ?そして来月からは丞相へと内定している。


「ここをどこだと心得てる?」


 ここは麒麟閣、大漢帝国の皇帝陛下がおわす宮廷の中心だが、ここに来たのは今日が初めてである。


「今日以降知る情報を20年前の自分の脳に転送できるなら国家機密とかそういうんじゃなくてスポーツ年鑑を読んでギャンブルに賭けるときの自分の脳に送り込みますよ。」


「囚人教育で朕の儒者嫌いが刷り込まれたのかもしれないな。」


「儒学は実学ではないですからね。衣食足りて礼節を知ると言いまして、礼節などが衣食に劣後するのは仕方のないことです。」


「そして、だから卿が朕の顔を覚えてなかったのだな。」


「運営ルール作るところまでが私めの仕事ですから。それが正常に回っているならやることはありません。居なくても同じと思われるかもしれませんが必要なことなのです。ルールを定めるものが居ないなら知識は命取りとなります。」


「ところで、遊郭で花魁と何を話していたのだ?」


「日によってさまざまですね。何回行ったかも数え切れないからその時々何を話したかなんて覚えてませんよ。基本的にプライベートの話で、仕事の話は持ち込みませんよ。」


「給与は充分に払うから、それで身請けするなりなんなりして内部の者として抱え込め。フリーの遊女を経由して機密がダダ漏れになるのはまずい。」


「さすが陛下も男心というものをわかっておられますなw」


「卿を来月から丞相にすることが内定しておる。他意はない。国家機密を日常的に扱う仕事だからだ。」


「ダダ漏れは論外としても、普段からどうでもいい情報を流しておいて、唐突に変調をかけて敵を混乱させるという使い方もございます。はじめから接点が無いとその作戦を繰り出すことができなくなります。」

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