第7話 (ショートブレイク2)午後のお茶

 偉大で力強く美しい真善美を体現していた存在でなくてはならない、幼少の砌に朕を危害から逃し保護してくれた、感謝してもしきれないカッコいい英雄と女傑。霍光同志とともに現存秩序を打倒し、ヘゲモニー闘争で霍光同志のドラ息子どもを粉砕した二段階革命を経てようやく自分の想い一つで恩を返せる立場となり、その詳細を調べれば調べるほど彼と彼女はポンコツだった。しかもそのポンコツであった事実が本人の口から矢継ぎ早に語られる。信じ憧れていたものがガラクタで出来たハリボテだよ〜んと自己申告してくる。こんなこと聞きたくなかった。聞かなければよかった。

 流石に衝撃受けていることが隠しきれずに顔に出てしまったようで、ミスする前にもう一度休憩しましょうとそのポンコツたちに言われる始末。情けない。丙吉たちの言う事は絶対的に正しい。間違った決断で取り返しがつかないことをするくらいなら一休みして慎重さを取り戻すべきだ。

 使用人に命じお茶とお菓子を出させ、三人だけにしてくれと人払いをする。


「さすが宮殿のお茶は香りが違いますね」


「このお菓子おいしい〜!役得役得!」


 欲望に終日忠実な相変わらずポンコツなこと言って、朕の心の中にあったそなたら自身の理想の姿を徹底的に完膚なきまでにぶち壊してくる。


「もう、やめてくれ……。これ以上幻滅させないでくれ」陛下が涙ぐむ。


 流石に陛下に泣かれてしまったのには丙吉もびっくりしてしまい、声をかけずにはいられなかった。


「陛下、いかがなされましたか?」


「卿は、いつもそうなのか?」


「いつもこうですが……。」


「幼少の砌に保護してくれた心優しく偉大で力強い、朕が逢いたくて逢いたくて仕方がないほど慕い憧れ焦がれた英雄丙吉は何処におるのだ。」

 そんなものはこの世のどこにも居ないと言ってしまうことは簡単だが丙吉も流石に陛下が求めている姿というものを理解し、素を出しすぎたことを後悔した。しかし素を暴露したこともまた事実として動かない過去を作ってしまった。取り繕うことはもうできない。しかし、求められている姿はわかったので、それに繋がるミッシングリンクをここまでの供述に追加して全てを完成させよう。ここまでの供述まるまる求めるものの一部にしてしまうのだ。

 陛下が精神的に丙吉わしに憧れているのならまだ間に合う。これもまた指導であるとすればよい。


「陛下はまだお若い。世の中というのは思いもしない動機で動いているものなのです。どのような動機であれ、それが自らに役立つのであればそれで良しとしなくてはなりません。こうでなくてはならないという思い込みは特に危険です。」


 自分を昔助けてくれた尊敬する人物が崇高な使命感に燃えてその行為に至ったのであってほしいというのは願望であって、たまたまであっても結果が同じであればそれでいい。いつの世においても指導者や上に立つ者に求められる度量というものだ。


「とっておきの情報をお伝えしましょう。今大秦国ローマのナウなヤングの間で大流行してる考え方に、四原因説というのがあります。対象を質料因、作用因、形相因、目的因にわけて捉えるのです。目的として陛下を保護するのに必要なのは保護をするという作用因であって別にそれが質料因が金銀宝玉で出来ていて形相因が英雄である必要はどこにもないわけです。」


「しかし、卿らはあまりに特殊だと思うぞ。その考えでいくと、質料因がガラクタで形相因がカスの集まりではないか」


「あはは、陛下はお手厳しいですな。あの頃の社会では仕方なかったんですよ。わたしたちが宝玉からなる力強く素晴らしい英雄であったなら奴等にパクリと飲み込まれていたことでしょう。常に煙と放射能浴びて成長する異常な進化を遂げた猛毒を持つモンスターだからこそまるまる飲み込まれることなく罪人扱いされていた陛下をお守りすることが出来たのです。その目的を果たすために作り出した構造が、あの留置場では誰一人処刑しない、それを実現するため収容可能人数を増やし仕事サボるというものなのです。その目的をうまく果たしたのだとご理解いただければ幸いです。」


「では、やはり朕を保護するためにあの運用を作り出したと考えてよいのだな?」


「陛下がそう思し召されるのであれば、きっとそれが真相なのでしょう。(真実は人の数だけありそれはその人にとっては紛れもなく真相なのだ。)」


 もう、これ以上陛下の大御心をボキボキに折るのはやめにしよう。他のこととの兼ね合いで矛盾が生じるならともかく、事実に反しない範囲で美談にしておこう。特に公金横領紛いの独立支援経費捻出スキームの精神的打撃は大きすぎた。


「遡って官位をくださるとのお話でしたから、こっそり運営していた労役場を公式なものとして、退所するまでの間労役者への賃金を預かる資金管理を私めの正当な役職だったということにしていただければ万事解決なんですよ。そしてこれは今の陛下ならば一筆書いてハンコ押すだけの造作もない事です」


「そのようにする。」


皇帝陛下は一皮剥けたようで自信に溢れた顔で肯定した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る