第5話 (ショートブレイク1)昼食会

 「ちょっと、いろいろと頭が混乱している。昼時も近いことだし丙吉も則も少し休もうか。」


皇帝陛下が昼休みをお命じになる。


「ハッ」


「今日は長丁場になるだろうから卿らの食事はこちらで用意している。移動しよう。」


 宮殿の渡り廊下をゆく。側近たちと護衛がズラリと三人の周囲を取り囲み建屋を移動することにも、それだけ侍らせて歩いても狭くないことにも、やはり丙吉は恐縮してしまう。なんていうところにお呼ばれしているのだと。そしてやたら距離感が近いが劉詢さまは、この偉大なる大漢帝国の皇帝陛下であらせられるのだと。

 しかも陛下は順調に世襲したのではなく、武帝の代に版図を大きくした後、かつて外国だった地域の勢力に中枢を乗っ取られて焦土と化したこの国に15年後に彗星の如く登場し、たった2年で復興を成し遂げた天才指導者である。弱冠20歳の若者のどこからそのようなバイタリティを発生させるのだろうか。


 食事の席につくと、これでもかと豪勢な宮廷料理が運ばれてくる。丙吉にとっては初めて見るものばかりだ。初見でもわかる。これはうまそうだ。


「まだ口にするでない。毒見役の確認を待ってからだ。」


皇帝陛下が待ったをかける。


「この行為は責任を毒見役に集中させ、他の人物に責任が及ばない事を確約するうけひのようなものだ。そういえばわかってくれるかな?カチコチ法家の丙吉どの。」


とてもわかりやすい。が、法家扱いとは心外だ。丙吉は儒家の故地の出身、むしろ筋金入りの儒家だ。曲学阿世のおべんちゃらなんちゃって儒家とは違う本物の儒家だ。


「法家も道家も農家も一通り修めておりますが別に法家というわけではございませんが。」


「朕は儒家を見ると虫酸が走るでの。卿が自称儒家ということは知っているが、全く不快感が無いので儒家とは思えぬのだ。それに朕の生命を守ったのは卿の法家的行動によるところがほとんどだ。これを機に法家に転身してはどうだろうか?」


「本物の儒家は、そうそう悪いものでもございません。しかし儒家を見たら偽物と思えと故郷では言われております。」


「故郷は魯の国だったな。あのにっくき孔孟を輩出したという。」


「孔子も孟子も一応地元の名士ですし、それなりに尊敬されてます。ただ、昔は世の中が未熟だったからしゃあねえなという批判的な視線でそのままではなく今様に合わせるにはこうすべきという議論が出来て初めて一人前とされてます。懐古趣味みたいな腐れおべんちゃら儒家は地元には一人もいません。」


「くされおべんちゃら儒家に利用されやすい性質をその本質として内包していたのではないかな?彼らのせいで朕も本当にひどい目に遭わされてきた。その原因は奴らの教祖たる孔孟だろう。」


「それは逆恨みです。大秦国辺境の地ガリアはブリテン島のサ厶エル・ジョンソンが言うには、愛国心はならず者の最後の拠り所とのことですが、愛国心とはならず者が利用するために作ったものとは言っておりませぬ。」


「卿はずいぶんと大秦国ローマに御執心なのだなw」


「ユーロ(ロック)聴いてれば自然と……(汗)。絹の道も、ローマに通じる大秦国道の一つに接続されています。」


 ユーロと省略される音楽には、ユーロ・ロックとユーロ・ビートの2つがあるが、どちらのリスナーも自分の聴く音楽をユーロとだけ省略するのでよく話がすれ違う。


「大秦国には危険な野心家であるハゲの女たらしが台頭して来ていると聞いている。うちが攻め込まれることはないか?」


「大秦国とうちとは国境を接しておりませぬ。ハゲの女誑しの1代で利害が衝突することもありますまい。無理な力はいずれ破綻をきたします。蒼の刃がハゲの女誑しを捉えると卦にも出ました。彼奴はその野心を完成させる前に蒼の刃に捉えられることでしょう」


「お前さんみたいな金剛石ダイヤモンドより硬い堅物が卦などという不確定な未来予測をするとは到底信じられないな。」


「直感は信じる方ですよ。私は金剛石頭ダイヤモンドヘッドじゃありません。多面的に検証しつつも直感をも許容する柔軟性を兼ね備えたフラーレン頭とでも呼んでください。」


「グラフェンの化け物のフラーレンか。ダイヤモンドよりも余計にややこしい話になったなw。ところで、大秦国の先にとんでもない美女の女王が居て、その危険な野心家であるハゲの女たらしが食っちまったそうだが…。」


「なぬ!あのハゲ!許さん!」


ハハハと皇帝陛下は笑っている。こうして楽しい昼食会は恙無く終わり、午後の部へ。

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