#4:幻想提起
とてつもなく眩しい光景だった。
その背中、声、全てが輝いていた。
憧れていた。その熱に触れたかった。
リフィは今、自分が目を開けているのか、夢を見ているのか分からなかった。
兜の隙間から見える青い景色、そして故郷の景色が渦巻くように混ざっている。頭の中で色々な情報がぐらぐらと重なって、全てが曖昧の色に染まっていく。混乱と身体にある痛みがリフィを現実と空想の間へと突き落とした。
青く白い空の中で突如、暗い闇の穴へと音もなく引きづり込まれた。
穴の中では落下して、上昇して目に見えない力に身体が四方へと引き寄せられる。真っ暗闇の只中で堪えようと必死に力んでいたのが却って自身を苦しめた。緩めようにもその力の源を思い出せない。闇に曝されて次第に自分の中心が分からなくなっていき、感じること、考えることが出来なくなっていく。
落ち着かせようと試みるが、こういう時は何をすればいいんだっけ……。
自分が何で、何処にいるのか。何をしていて、何をしようとしているのか。
自分を構成していたものが引きちぎられて闇と同じ色の欠片となり、痛みもなく無残に散っていく。
そうして最後に残ったのは、ただの意志。
それは燃え上がることのない、湿った木にこびりつく火。
冬空の下、陽の光はずうっと長い間暗い雲に遮られて、かつて森だったその場所は見渡す限り氷原となっている。
そんな中にたった一本だけ、木が立っていた。内に力を蓄えて、ただ耐え忍んでいる木がぽつんと立っている。
その木の枝先が積雪によって折られ、地面に突き刺さる。火はそれを寄る辺として凍える世界に存在していた。
周りの色に塗り潰され、赤という特徴を失った火は元の色見を取り戻そうとして木にへばりついていた。しかし、それが叶うことはない。その方法ではただ本来の力を失っていくだけであった。それを理解しながらも、その折れた木に縋って祈るように噛り付く。
そして、煙となって消えていく何でもないモノ。「いつ」などという考えが浮かぶその前に消え失せる。
不完全燃焼。
声とは違う。音としてその言葉を認識したわけではなかった。
文字を見た――そうじゃない。
煙となって、揺蕩う状態で感じたその言葉。どこで、どうやって感じ取ったのかは分からない。ただ、そう感じた時、一瞬だけ自身の色を思い出した。
せめて、意味の先で出会うことが出来ていれば……。
――そうだとしても。
――手が伸びていた。自身の身体はとうに失ったが、そう動いていた。
届かないもの、掴めるはずの無いものに両の手を伸ばす。すぐそこにあるように感じるが、届かない。それでも必死に手を伸ばし続けた。
「あなたの心がこちらに向いた時、私は必ずあなたの手をとるわ」
今度は音として感じ取った誰かの言葉。優しく暖かい女性の声。
その言葉は綺麗な金の糸となって火と木の周りを優しく包み込み、熱を加えて燻っていた火を再点火する。そして、その言葉に感じた懐かしさが火勢を急激に強めた。
身体の曖昧な感覚、それは浮遊感のある重み。
雲に溺れた時の症状だと気が付いた時、リフィの思考は少しずつ定まっていく。
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