第14話 クリス、対戦する
「魔王さん、お疲れ様です!」
「さすがだったぜ! 大将!」
ベンチに戻ると、浮かれ気分のクリスとクロマにで迎えられた。
「おいおい、まだ試合は終わったわけではないぞ?」
「たしかに! 次はクリスちゃんの番か!」
「うぅ……思い出させないでください」
思い出させるなといっても、演習場が整え終わったらすぐに出番が来るだろうに……。
「大丈夫だ。我との特訓を思い出せ」
「…………うぅ、思い出したら吐き気が」
「えぇ……グレイの兄貴、どんな特訓したんだよ……」
思い出したら吐き気を催すレベルだったのか……?
我が少し落ち込んでいると、クリスは、クスクスと笑す。
「ふ、ふふ、あはは! 冗談ですよ、魔王さんとの特訓、すごくいい経験でした」
「……我をからかう、か。偉くなったものだ、クリスよ?」
少し声を低くし、クリスに詰め寄ってみる。
すると、クリスは。慌てた様子で弁明を始める。
「え、あ、いや、その……調子に乗りました、はい……」
「ク、クク、フッハッハッ!」
「……え?」
我が笑い出すのを見て、呆けた顔になるクリス。
数秒もすると、我の真意に気付いたのか、怒り出す。
「も、もう! 騙しましたね!?」
「なに、先ほどのお返しだ」
「あっはっはっ! 2人とも、面白え!!」
クロマも、我たちの様子を見て限界が来たらしく、大きく口を開けて笑い出した。
クリスも、いい感じに力が抜けた笑顔になる。
「フフ、クリスよ。どうだ、緊張は取れたか?」
「え? ……言われてみれば、なんだか、肩の荷が降りた感じになりました」
「それでよい。先ほどのような、ガチガチの状態で出ても、良いパフォーマンスは出せぬ」
思い返せば、初陣に緊張する兵を、こうやって励ましてやったな……懐かしいものだ。
「さあ、もうすぐ試合も始まる。ウォーミングアップは忘れるなよ」
「はい!」
*
「ケ、ケイネスくん、ごめ――ぐぅ!?」
「……なにを、敗北しておめおめと戻ってきているんだぃ?」
殴られたコッセは、腹を押さえながらうずくまる。
チッ……Aクラスの恥晒しめ。
「私たちの完封試合だと思っていたが……まさか、この私が出ることになるとはねぇ」
「…………勝利」
「あぁ、もちろん。私が勝って、思い上がった雑魚どもに鉄槌を下してあげるよぉ」
相手は、あのクリス……私の勝利に揺るぎはないが、ただ勝つだけでは気が済まない。
「あんな低級の
衆人の中で、痛ぶってあげなくちゃねぇ……ヒャハッ。
『さあ! お待たせいたしました! 演習場の整備が終わりました!』
「おおぉぉぉ! 早く始めろぉぉ!」
「さぁさぁ! 賭けも締め切るよー!」
私が準備を終えると、ちょうど整備が終わったようで、実況の声が響いていた。
『AクラスとCクラスの、プライドと意地のぶつかり合い……試合は1勝1敗…………泣いても笑っても、この試合で、雌雄が決します!!』
観客のボルテージは、最高潮に盛り上がっている。
……まあ、こんな美味しい展開をくれたコッセは、少し許してやってもいいかもねぇ。
『ケイネスチーム、大将はもちろんこの人! Aクラスのプライドを背負い、リングに立つ男、ケイネス選手ぅぅぅぅぅ!!!』
「ケイネスっ!! Aクラスの実力を見せてやれぇぇぇ!!」
「Cクラスなんかに負けんなよっ!!」
クラスメイトたちのヤジが飛ぶ……仕方あるまい、完封試合のはずが、1勝1敗という結果を見せてしまったんだ……。
……やっぱり、コッセはあとでお仕置きだねぇ。
『続きまして、グレイチーム大将! まさか、グレイ選手が次鋒で出たことで、Cクラスの隠れたアイドルが登場だぁ! クリス選手ぅぅぅぅ!!』
「うぉぉぉ!! クリスちゃぁぁぁん!! 頑張れぇぇ!」
「クリスちゃん、Aクラスなんてぶっ飛ばしちゃえ!」
Cクラスの、無能どもの雑音が響く。
あぁ、耳障りだねぇ……、
「ぼ、ボクって、アイドルだったのかな……」
「やぁ、クリス……まさか、私の相手が君になるなんてねぇ?」
「うっ……ケイネス……」
チッ……こっちが話しかけてやってるのに、なんだぃ、その態度は?
「心優しい私からの助言だ。今のうちに棄権すれば、痛い目に遭わずに済むよぉ?」
「……」
「なぁに、どうせ君たち無能が勝てないなんて、みんな知ってることさぁ。誰も文句は言わないと思うよぉ?」
私の親切なアドバイスに、クリスは顔をうつむける。
まぁ、そうだろうねぇ……負けると分かってる試合を、受けるバカはいないさぁ。
「さて、そうと決まれば――」
「棄権は、しないよ」
「……はぁ?」
今、なんて言った?
「ボクは棄権なんてしない。ボクは……今日ここで、君を倒す!」
「なっ! ……随分と生意気な口を聞くようになったじゃないかぁ」
『それでは、両者見合って!』
私の会話を遮り、実況の声が響く。
(面白い……やはり、予定通り、この女は徹底的に痛めつけるしないようだねぇ)
『最終試合……始めっ!』
「【
試合開始の声と共に、
地面に現れたゲートの中にナイフを投げ込み、クリスの足元に転送してやる。
(ケヒッ、これで終わりだぁ)
一撃でノックアウトして、そこから痛ぶりつくしてやる。
しかし、私の予想は大きく外れてしまう。
「フッ!」
「なっ! 避けただと!?」
バカな……クリスごときが、私の技を……いや、まぐれに決まっている。
今度は、避けた先で、いい感じに近づいてくれた壁からナイフを当ててやればいい。
「ほらっ! 今度は避けれないよぉ!」
背後からの一撃……これは避けれまい。
『おぉっと! クリス選手、初撃に続き、2投目のナイフも躱したぁぁ!』
(なっ……!?)
おかしい……おかしいぞ。
1投目はともかく、2投目のナイフの時は、出る場所を見向きもしていなかった……。
「とりゃぁぁぁぁ!!」
クリスは、剣を振りかぶり、こちらに走ってくる。
よし、これなら、流石に当たるだろう。
「死ねっ!!」
3度目の正直、ナイフをゲートに投げ入れる。
――だが、クリスは走る進路を変え、地面から飛び出てきたナイフを避ける。
「セイッ!!」
「くぅっ!?」
接近してきたクリスの振り下ろしを避けるため、ゲートの中に逃げ込む。
(仕方あるまい、一度距離を取――)
「なにぃぃ!?」
『すごい! 凄いぞぉ、クリス選手! ゲートから出てきたケイネス選手を追い、怒涛の追撃だぁぁぁ!!』
眼前に迫った剣の横薙ぎをなんとか避け、後退り、距離を取る。
(なんだと言うのだ……まるで、私の移動先がわかっているみたいじゃないか!?)
私の
「凄い……魔王さんの言った通りだ」
「魔王……だと……? はっ!」
クリスの呟きで、あることに気付いた私は、客席の方を振り返る。
すると、あの自称魔王が、満足げな顔でニヤついていた。
(アイツ……まさか、私の能力の秘密に気づいたというのか!?)
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