第12話 我、応援をする
『さぁ! 皆様、お待たせいたしました!! 両チーム、準備完了したようです!!』
「うおぉぉぉぉぉ!!!!」
『実況と解説は、ワタクシ、放送部のブロードがお送りいたします!!』
会場のボルテージが上がる。
やれやれ、ここの生徒がイベント好きと言うのは、本当のようだな。すごい盛り上がりだ。
『この団体戦は、一対一の試合を3セット行い、先に2勝したチームの勝ち! という、シンプルなもの!! だが、それでいい!! 男たちの熱い激闘に、余計なものは不要だぁぁ!!』
いや、男だけじゃなくて、クリスもいるんだが……。
『まずは第一試合!! グレイチームの先鋒はこの男ぉぉぉぉぉ!!』
演習場の入り口から、勢いよく走り出す影が現れる。
その影は、勢いよく飛び上がり、見事な前宙を成功させ、右手の人差し指を天に掲げ、ポーズを決める。
『Cクラスのお調子ものぉぉぉ!! クロマ・ロックゥゥゥゥ!!』
「へへっ!! 見たか!! 俺のカッコいいとこ――え、今、お調子者って言ってた?」
『続いてはケイネスチームの先鋒!!』
クロマの疑問を無視し、実況の声が響く。
クロマが出たところの、反対側の入り口から、巨大な影がゆっくりと出てくる。
『Aクラスの中でも謎に包まれた男……その巨体に、寡黙な性格から、ある者はこう呼ぶ…………
巨大な影――ドロームはノソノソと歩き、クロマの目の前で止まる。
「…………雑魚」
「んだとテメェ!! ぶっ飛ばしてやるからな!!」
ドロームの挑発に、ヤンキーのような勢いで絡むクロマ。
やめてくれ……同じチームだと思われるのが恥ずかしくなるだろ。
『それでは、両者見合って!!』
「へへ、俺のタフさ、見せてやるぜ!!」
「…………」
会場に緊張が走る。
果たして、Cクラスの人間が、Aクラスを相手にどこまで噛み付けるのか……そんな空気だな。
(だが、よく見ているがいい。我の新生魔王軍の力……思い知るがいい)
『第一試合……始めっ!!!!』
実況の合図と共に、まずはクロマが動き出す。
「っしゃぁぁぁあ!! 先手必勝だぁぁ!!!」
「…………【
「ウギャァァァァァ!!!!?」
飛びかかったクロマが、突如、地面にめり込んでしまう。
(名称、そしてあの様子から察するに……対象の重力を操作する力か)
「んぐぐぐぐぐぐ!!!」
クロマは、襲いかかる重力に抗おうと、もがこうとするが……。
「…………【速報
「ふんぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ドロームがさらに能力を発動し、クロマは、周りの地面ごと、さらに沈んでしまう。
「う、うぉぉぉぉぉ!! ま、負ける、かぁぁぁぁ!!!」
周りがクレーター化する中でも、立ちあがろうとするクロマ。
……さすが、タフさを売りにしているだけはあるな。
「…………しつこい。【速報
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」
もはや、クレーターというよりも、大きい穴と呼べるまでに陥没した地面。
生きているのが不思議なレベルになっているが……クロマのやつ、無事なのか?
「ぅがぁぁ……も、もう、動け、な……グフッ」
『ストップ! ストォォォップ!! 審判、クロマ選手の容態を見てあげてください!!』
ここで、実況の制止が入る。
ドロームが能力を解き、審判役である生徒が急いで大穴に近づく。
「…………気絶しています! よって、勝者、ドローム選手!!」
『ここで試合終了ぉぉぉぉぉぉぉ!! 第一試合は、ドローム選手の圧勝でしたぁぁぁぁ!!!』
……まあ、仕方あるまい。
「ぅぅ……あ、あれ!? 試合は!?」
試合終了の合図と共に、気絶から目を覚ましたクロムが、辺りを見回す。
観客の反応を見て、自身の敗北を悟ったクロマは、悔しそうに地面を叩く。
「くそっ! ……あんだけ大口叩いて、負けちまったのかよ、俺」
「…………余裕」
そんなクロマの様子を見て、ドロームはつまらなそうな顔をし、入り口の方に戻っていく。
クロマも、顔を曇らせながらも、自分の足で我の元へ戻ってきた。
「……グレイの兄貴、すまねぇ! 俺、兄貴の顔に泥を……」
「よい。貴様のタフさを十全に活かせぬ相手だった。それだけだ」
「クロマくん、大丈夫? ほら、こっちに座って休もう」
クリスの誘導で、クロマはベンチに腰掛ける。
「……安心しろ、貴様の仇は、とってやる」
さて、次は第二試合か……。
*
「ドロームよ、よくやった」
「…………当然」
「ケヒヒッ! しっかし、あんだけ大口叩いといて、瞬殺かよ!! ケイネスくん、こりゃ、楽勝だね!」
取り巻き――コッセの言葉にうなづく。
「所詮はCクラスごとき、遊びにすらならないか」
「こりゃ、オイラの相手も楽勝そうだな!」
「ああ、あの自称魔王くんは大将……、君の相手は、あの出来損ないのクリスちゃんだ」
この学院に入れたのも不思議な、雑魚
「まぁ、観客もいることだ、少々盛り上げてやらないとねぇ?」
「ケケッ! 任せといてよケイネスくん! あの女の吠え面を、観衆の前で晒してやるぜ!」
そう言い、コッセは笑いだす。
まあ、気持ちは分かる。こんな、楽勝な試合で、注目を浴びれるんだ……、こんな美味しい話はない。
「さぁ、観客も待ち侘びている。行ってくるといい」
「りょーかい!」
『さぁ! お待たせいたしました! 演習場の大穴も塞がり、準備が整いました!!』
「うぉぉぉぉぉ!! Cクラス! 今度はつまんねぇ試合すんじゃねえぞぉぉ!!」
「こりゃ、大穴狙って賭けたのは間違いだったな」
観客のたちの声が響く。
まあ、あんなつまらない試合を見せられては、当然だろうねぇ。
『それでは、選手の紹介をいたします!! まずは、ケイネスチーム、次鋒!!』
コッセが、余裕しゃくしゃくと言った顔で、胸を張って歩き出す。
フフ、あいつめ、そんな顔をすると、瞬殺できなかった時に恥ずかしい思いをするぞぉ?
『小さい体で油断したら怪我するぞ!? Aクラスの弾丸! コッセ選手だぁぁぁ!!』
「うっせぇ! 小さいは余計だろ!」
「あっはっはっ!! コッセぇ! やっちまぇぇ!!」
コッセのツッコミに、クラスメイトたちが歓声を飛ばす。
アイツらも、今回の試合が楽勝なことを察しているのだろう。
『対するグレイチームの次鋒は――え、こ、これ、書き間違いじゃないのか!?』
実況の生徒が、なにやら慌てた様子になる。
なんだ? もしかして、クリスのやつめ、逃げてしまうまたのか?
『ほ、本当にいいんですね? ……ゴホン、失礼いたしました。えぇ、グレイチームの次鋒はこいつだぁぁぁ!!』
撮り直した実況の声が響く。
まあ、誰が出ようと、Aクラスである私たちの完全勝利は、間違いないねぇ。
相手側の入り口から、黒い影があらわに……な……。
「なっ!? あ、アイツはっ!?」
『突如、Cクラスに現れた編入生……なんでも、彼は『魔王』を名乗り、現在、新生魔王軍なるものを作ろうと目論んでいると言う…………』
なぜだっ!? なぜヤツが、次鋒として……!?
『グレイチームの大将が、まさかの登場だぁぁぁぁ!! 自称魔王! グレイ選手ぅぅぅぅぅ!!!』
観客席も、動揺の声が上がる。
大将であるはずのやつが、次鋒戦で出てくるなんて、誰も予想していなかったぞ……。
自称魔王は、私の視線に気付いたようで、こちらに向かって、不敵な笑みを浮かべる。
「ククク、さあ、我の力……とくとご覧あれ」
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