第11話 我、特訓をする



「ハァ……ハァ……」


「ほら、息切れしている場合か! もっとキビキビ動くのだ!!」


「ひぃぃぃ!! は、はいぃぃぃ!!」



 翌日の、放課後。

 我とクリスは、演習場で特訓をしていた。



「まだまだ! あと1000回は素振りをしてもらう!」


「ちょ、ちょっと、休憩させてください〜! も、もう、2時間は振ってますよ……」


「む……? もうそんなに経つのか……いいだろう、少し休憩だ」



 我が言うやいなや、その場に倒れるように寝転がるクリス。

 額からは汗が流れ、息も絶え絶えと言った感じだ。



「も、もう、動けません……」


「何を言っている。休憩が終われば、特訓再開だ」


「えぇ〜……今日はこの辺で終わりましょうよ」



 甘ったれたことを言う……。



「1週間で、Aクラスのやつに勝とうと言うんだ。並大抵の努力では、個能ユニークの差は覆せないのであろう?」


「それは……」


「それに、今まで剣を振るって来なかった人間が、一朝一夕で剣豪になれるわけがない。それを埋めるためにも、こうやって特訓しているのではないか」




 我がクリスに見出したもの。それは、剣士としての才能だ。


 模擬戦の時のあの動き、素早い身のこなしに、あの足運び、そして、あの【勇気ブレイブ】という力。

 遠距離で戦うよりも、近距離で剣を振るう方が、クリスに合っていると判断したのだ。




「……でも、なんでボクが剣を? 剣なんて、今まで振ったことなかったんですけど……」


「我は今まで、何度も『世界最強の剣士』と戦って来た。やつの動きは鮮明に覚えているが……クリスの動きは、やつを彷彿とさせるものがある」


「世界最強の剣士……?」



 懐かしい顔を思い浮かべ、フッ、と自嘲気味に笑う。



「やつは強い。最後には、我も敗北してしまったくらいだからな」


「え、魔王さんが? ……そんな人と近いなんて、なんだか照れますねぇ」


「バカもの。貴様は、やつの力の、足元に及ばぬどころか、まだ足元が見えぬ位置にいる」



 浮かれた顔になったところを叱責すると、いじけたような顔になるクリス。



「……まぁ、わかってましたけどね」


「だが、昨日の模擬戦と、今日の特訓を見たところ、やはり才能はありそうだ。我が見たやつの剣技……それを貴様に仕込んでやる」


「最強の剣士の剣技…………ま、できるだけやってみますよ」



 そういい、クリスは悪戯っぽい笑顔を見せる。



「よし、そうと決まれば、特訓再開ですね!」


「お? やる気になってきたじゃないか」


「見ててください、ボク、世界最強の剣士になっちゃいますよ〜」



 フッ、調子のいいやつめ。

 さて、次はどういう特訓にしようか……。






         *





「さあ! ついにこの日がやってきました! Aクラス代表、ケイネスチーム! そして、Cクラス代表、グレイチーム! クラスの意地をかけた、団体戦だぁ!!」


「うぉぉぉぉぉぉ!!!」


「はーい、どっちが勝つか予想してねー!!」



 1週間後が経ち、約束の日がやってきた。

 演習場には人が溢れ、ちょっとした祭りのようになっていた。



「……なぜ、こんなに人が集まっているのだ」


「さ、さぁ……」



 クラスの意地をかけた、と言われているが、これはあくまでケイネス一派と、我たちの戦いでしかないぞ……?

 我とクリスが動揺していると、待っていましたと言わんばかりに、クロマがやってきた。



「へへっ! どうだい、グレイの兄貴! すごい盛り上がりだろ!!」


「クロマ…………もしかして、貴様がなにかしたのか?」


「よくぞ聞いてくれた! この1週間、噂を流しに流しまくって、放送部にも声をかけ、新聞部にも声をかけ……俺の情報拡散能りょ――いだだだだだ!?」



 ベラベラと自慢話のように語るクロマの顔面を掴み、握りしめる。



「兄貴っ!! 痛い!! 俺の顔大丈夫!? 歪んでない!?」


「我は、ここまで大事にするつもりはなかったんだが?」


「ごめんって!! 謝るから離してぇぇぇぇ!!!」



 ……まあ、いいだろう。顔を握る力を緩め、解放してやる。

 解放されたクロマはしゃがみ込み、自分の顔の無事を確かめるために手鏡を見ている。



「……これは、むしろ好都合だな。我の名を知らしめる、絶好の機会だ。良い働きをしたな、クロマよ」


「で、でしょぉ!? ……あれ、じゃあ、なんで俺アイアンクローされたの?」


「それは、調子に乗った罰として受け取るがいい」



 「ええー!?」と文句を垂れているクロマを放っておき、会場を見渡す。


 客席はかなり賑わっており、制服を着た生徒たちが今か今かと、楽し見そうに待っている。

 我と同じ赤ネクタイのものが多いが、チラホラと違う色のネクタイをつけてるものもいるが…………あれは、他の学年のものか?



「せ、先輩方も、結構見にきてるんですね」


「やはりか……一年同士のいざこざを観にくるとは、随分と暇なのだな」


「ああ、この学院の連中は、みんなイベント好きだからな〜、こんな絶好の祭りは、見逃せないだろ」



 いつの間にか、復活したクロマの言葉を聞き、納得する。



(我の時代でも、こういった催しは人気を博していた……いつの世も、変わらぬものもあるのだな)


「やぁ、自称魔王くんじゃないかぁ」



 我がもの思いにふけっていると、聞き覚えのある声が聞こえる。

 振り返ると、やはり、ケイネスと取り巻きたちが立っていた。



「まさか、こんなに人が集まるなんてねぇ……私もビックリだよぉ」


「ケケッ! こんな大観衆の前で赤っ恥をかくなんて、Cクラスの考えてることは、やっぱ分かんねぇな!」


「…………愉快」



 嫌味な連中だな……、そう思いながらも、我は、ケイネスに右手を差し出す。



「……なんだぃ? それは」


「見ての通り、握手だ。色々あるとは思うが、正々堂々、いい戦いをしようではないか」


「……フン、せいぜい、観客を楽しませることだねぇ」



 我の右手を無視し、ケイネスは取り巻きを連れて去ってしまう。

 おそらく、反対側の、待機場に行ったのであろう。



「……さて、こちらも、ミーティング、というやつをしようか」


「は、はい!」


「おうよ!」



 クリスと、クロマの顔を見る。

 クリスは、少し緊張が見えるが、特訓のこともあり、自信があるように見える。

 クロマは……まあ、いつも通りだな。



「やつらは、自分を格上と思い込んでいる。その顔を、吠え面に変えてやれ」


「が、頑張ります!」


「任せとけ! 大将!」





 さあ、弱者からの反撃だ。

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