第10話 我、模擬戦をする



「よっしゃ! それじゃあ、グレイの兄貴、よろしく頼むぜ!」


「ああ、よろしく頼む」



 さて、クロマのことは全くわかっていないが、どうでるか……。



「さっそくいかせてもらうぜぇ!」



 クロマは、手にした2本のダガーを構えたまま、こちらに突っ込んでくる。



(ほう……やつも武器を使うのか)



 まあ、まずはお手並み拝見ということで、加減して撃ってみるか。



「――獄炎インフェルノ(弱火)」


「あぁぁぁぁぁ!? あっつぅぅぅぅぅぅぅ!!?」



 炎は、真っ直ぐに突っ込んできたクロマに直撃し、当の本人は悲鳴をあげて転げ回りだした。



「な、なんだ? 普通に当たった……だと?」


「あちぃぃ……けど、まだいけるぜっ!!」



 加減した炎は、地面を転げ回った時に鎮火できたらしく、立ち直ったクロマが再びダガーを振り回し突撃してくる。



「ならば――業風テンペスト(弱風)」



 今度は、風の牢の中にクロマを閉じ込める。

 もちろん、加減をして、だ。



「な、なんだこれ!?」


「さあ、お前の個能ユニーク、見せてもらおうか」


「痛っ! いだっ!! いだだだだだだだだ!?」



 風の牢の中で、クロマが切り刻まれる。

 まあ、死にはしない程度だ。模擬戦なのだから、少しは我慢してもらおう。



「いだだだ!? 痛ぇ……痛ぇけど! ど根性ぅぅぅ!!」



 切り刻まれながらも、クロマは一歩ずつ進み、こちらに近づいて来ている。



(おかしい……。かなり加減しているとはいえ、普通は歩くどころか、立ってはいられないはず……)


「そうか、それがお前の能力か?」


「へへっ! 当たりだぜ!」



 ダガーを振り上げ、勝ち誇った顔でクロマが叫ぶ。



「タフさが売りの個能ユニーク頑丈直進タフネス・ボーイ!! グレイの兄貴とはいえ、俺を簡単に倒せるとは思わねぇことだな!!」



 ダガーを我の胴に目掛けて振り下ろす。が――



「――甘いな」


「……え?」



 攻撃を避けつつ、ダガーを握る手を、上から叩きつける。

 油断したクロマがダガーを落としそうになったところを、拾い上げ、クロマの首元に刃先を突きつける。



「大方、そのタフさを活かして、ダメージを喰らいながらも攻撃を入れる……、といったところだろうが、武器がなくては何もできまい?」


「はは…………。御名答、降参です……」



 勝ち目がないことを悟ったクロマは、両手を上げ、降伏の意を示す。




          *




「いやー! グレイの兄貴って、めっちゃ強いんだな!」


「言ったであろう? 我は魔王だ、これくらいは当然だ」


「あはは……2人とも、模擬戦の後なのに元気ですね……」



 個能ユニーク実習が終わり、校舎に戻る道中、我たちは先ほどの授業について話し合っていた。



「しかし……個能ユニークとは、破格の能力を持っているものではないのか? 他のクラスメイトの様子も見たが、あまり強力なものは少ないように見えたが」


「あー、まあ……俺たち、Cクラスだからなぁ」


「……下の方のクラスだと、非戦闘スキルや、弱いスキルの人ばっかりなんですよ」



 なるほど……。たしかに、学院長もそのようなことを言っていたな。



「強くなりたいとは思わないのか?」


「それは……」


「おやぁ? これはこれは、クリスくんじゃないかぁ」



 聞き覚えのある声。

 もしやと思い、声のする方向を振り返ると――



「お前は......」


「君は……あの時の、面倒臭いやつか……」



 ――案の定、我がこの時代で初めて戦った男、ケイネスがいた。


 今回は、あの時のように1人ではなく、取り巻きのような男を2人連れていた。



「なんで君がここにいるのかなぁ? もしかして、侵入でもしきたのかい?」


「……ケイネス。魔王さんは、この学院に編入して来たんだ」


「編入……? あぁ、すると、彼が噂の……」



 こちらを値踏みするような目でジロジロと見始めるケイネス。



「そういえばケイネスよ、貴様はどのクラスなのだ?」


「おい! ケイネスくんを呼び捨てにするとは、Cクラスの分際で生意気だぞ!」


「…………無礼者」



 ケイネスの取り巻きの男たちが割って入ってくる。



「オイラたちはAクラス! 選ばれた上位の存在なんだぞ!」


「上位……? たしか、この学院の上位はSクラスではなかったか?」


「うぐっ……あ、あんなバケモノ連中と一緒にするな! 俺たちは、人間の中で最上位なんだ!」



 ……ああ、なるほど。



「自分たちより上がいて苛立っているから、下のクラスに絡んでいるというわけか」


「なっ……!!」


「…………不愉快」



 ん……? どうやら、怒らせてしまったのか?



「ああ、すまない。中途半端な連中の気持ちも、考えてやるべきだったな」


「ぐぅ!? ケ、ケイネスくん! こ、コイツひでぇよ!! 言っちゃいけないこと言ってる!!」


「…………無常」



 えぇ……なぜだ、なぜ、さらに怒っているんだ?



「魔王さん……それは流石に……」


「ぐ、グレイの兄貴、容赦ねぇ〜」


「……やっぱり、我が悪いのか?」



 ううむ……やはり、民の気持ちの全てを理解するのは、難しいものだな。


 我たちが問答を繰り返していると、痺れを切らしたケイネスが口を開く。



「……自称魔王くん、どうやら君には、私たちAクラスと、Cクラスごときにしか入れない君とでは、覆せない力量差があることをわからせる必要があるようだ」


「……ほう、あの時の戦いの続きをしようとでも言うのか?」


「あぁ…………」



 我の挑発を他所に、ケイネスは辺りを見回す。

 我もつい視線を追ってしまうと、いつの間にか、周りには野次馬の生徒たちが集まって来ていた。



「……いや、ここでやるのも無粋だ」


「む……我は、いつ始めても構わんぞ?」


「…………悪いが、私はロケーションを気にするタイプでねぇ?」



 大袈裟に肩をすくめ、ケイネスは我と、我の横にいるクリスとクロマの方へ視線を送る。



「そうだ、こういうのはどうだい?」


「なんだ?」


「私たち3人と、君たち3人で試合をするのさぁ」



 ……団体戦、ということか。



「面白い、受けてたとうじゃないか」


「おぉぉ! AクラスとCクラスで試合かぁ!?」


「いいぞいいぞぉ! やれやれぇ!!」



 野次馬たちが盛り上がる中、横の2人が慌てた様子で我に迫る。



「ちょ、ちょっと! そ、それ、ボクも含まれてます!?」


「……え、面白そうじゃん、それ!」



 クリスとクロマは、真反対の反応を示す。

 一方、相手方は好戦的な様子で、こちらに挑発を仕掛けてくる。



「へっ! オイラたちが勝って、さっきの発言を撤回させてもらうぜ! ツノ野郎!」


「…………余裕」


「それじゃあ、日時は1週間後。場所は演習場ということで……。さぁ、行くよ」



 そう言い残し、ケイネスと取り巻きたちは去っていく。

 周りの野次馬たちも、ガヤガヤとしながら解散していき、後には我たち3人がポツンと取り残されていた。



「……ど、どうするんですかぁ!! ボク、絶っっっっっっ対に負けますよ!!?」


「まあまあ、クリスちゃん! 楽しんでいこうぜ!」


「クロマくんはまだいいよ! けど、ボク、クラスの中でもほとんど勝てないんだよ!?」



 もはや、この世の終わりみたいな表情をしているクリス。

 ……我は、先ほど言いかけていた言葉の続きを語る。



「クリスよ……強くなりたくはないのか?」


「それはっ……! ……そりゃあ、強くはなりたいですよ」


「ならば、この1週間、我に預けてはみないか」


「……え?」



 我の言葉に、俯いてた顔を上げるクリス。



「先ほどの模擬戦を見て、お前の可能性を見出した」


「ぼ、ボクの……可能性……?」



 先ほどの模擬戦での動き、決して悪いものじゃなかった。

 だが、今の戦い方は、クリスには合っていないこともわかった。



「我が直々に稽古をつけてやる。そうすれば、貴様は、あの連中などより強くなれるぞ?」


「ボクが……強くなれるん、ですか……?」


「ああ……無論、我の特訓について来れるならば、だがな。どうする?」



 ……まあ、その目を見れば、答えなぞ聞く必要はないがな。



「……わかりました。ボク、魔王さんの特訓を受けてみます!」


「クク……よく言った」


「おぉ! クリスちゃん、かっけぇ!!」





 さて、1週間で、どこまで強さを身につけられるか……見ものだな。

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