第9話 我、観戦する
「それでは、
昼休みが終わり、午後の授業が始まった。
一度校舎から移動し、演習場へと着いたものの、何も説明がないまま、クラスメイトたちは各々離れ始めた。
「グレイの兄貴! 俺と組もうぜ!」
「クロマよ……すまないが、この授業は何をすればいいのだ?」
「え? ……あぁ、そういや、グレイの兄貴は個能実習は初めてだもんな」
やれやれ、と、肩をすくめながら、クロマが手招きする。
大袈裟な表現に少しイラッとしながら、クロマの後に続く。
「ほら、客席に座って、一旦見学しようぜ? グレイの兄貴」
「……さっきから気になってたんだが、その、『グレイの兄貴』というのはなんだ?」
「え、グレイの兄貴は、グレイの兄貴だろ? 俺らの大将なんだし、呼び捨てにはできねえだろ」
さも当然といった顔で、こちらを見つめるクロマ。
「いや、だとしても、我は魔王で、お前は臣下だぞ? 兄貴ではないだろう」
「じゃあ、グレイの兄貴を略して……グニキ?」
「グレイの兄貴で頼む」
そんな訳のわからない呼称をされるくらいなら、まだ兄貴呼びの方がマシだ。
「それで、この授業では一体何をするのだ?」
「ああ、何をするって言っても……まあ、文字通り、
なるほど、我の時代における、魔法訓練とほぼ同じか。
「授業が始まったら、2人1組を作って、それぞれで模擬戦をするんだ。で、先生がそれを見て、アドバイスしたり……まあ、アドバイスがないなら、自分たちで意見を出し合ったりもするから、半分自習みたいなもんだな」
「ほう、なかなか興味深いじゃないか」
「ま、最初の方は見学でいいんじゃないか? 他人の
そうか、それは都合がいい。
この時代の技能というものを見れるのは、我にとってはこの上ないチャンスだ。
「お! ほら、あそこでクリスちゃんが模擬戦やってるぜ」
「……クリスのやつ、弓を装備しているように見えるが、あれは良いのか?」
「ほら、
「……ということは、クリスの
「ああ〜……まあ、見てればわかるよ」
まあ、百聞は一見にしかずというしな、そういうことなら大人しく見ていようじゃないか。
*
「それじゃあクリスちゃん、もう初めていいのかな?」
「う、うん」
はぁ……、やっぱり、何回やっても慣れないな。
模擬戦の授業だけは苦手だ……けど、頑張らなくっちゃ、なんのために学院に来たのかわからないもんね。
「さっそく行くよ! 【|花園の守護者(ガーデン•ガーディアン)】ッ!!」
模擬戦相手……リーンさんの能力が発動する。
地面が小さく割れ、そこから何本もの
「植物さんたち! まずは足元を狙って!」
リーンさんの合図で、
ギリギリまで引き付けてから、地面を転がるように避け、そのままリーンさんの周りを円を描くように走り続ける。
(彼女の植物は一度捕まったら、抜け出すことは難しい……逃げ続けて隙をうかがわなきゃ!)
幸い、彼女の能力で生み出した植物は、あまりスピードはない。
走り続けてれば捕まることはない。
「もう! もっと早く動いてよ!!」
リーンさんも相変わらず、自身の植物の遅さには手こまねいてるようだね。
これなら、勝機はある!
植物がボクの元に届くには数秒は時間がある。
一度止まり、矢をつがえる。
(落ち着け……でも早くしないと
迫る植物に捕まってしまう映像がよぎり、焦って照準が安定しない。
こうなってしまったら、少ない時間で矢を当てることはできない……。
「落ち着け、ボク……! 【
(よし、これならいける!)
「いっけぇぇ!!」
*
「――で、見事に負けたわけか」
「アハハ……。普通に防がれた上に、捕まっちゃったよ」
「でも、ナイスファイトだったぜ! クリスちゃん!」
惨敗したクリスも、休憩として客席へ来ていた。
「そういえば、お前の
「ああ……ボクの個能は、【
勇気を与える……か。
まるで、我を封印した、どこぞの男のようだな。
「それで、他にはどんな力があるのだ?」
「……以上です」
「……なに?」
以上? 以上と言ったか?
「なんらかの強化がされるとかは?」
「いえ、全く無いです」
「そうか、それは…………まあ、よく頑張ったな」
攻撃手段もなく、自身への精神面以外の強化もない能力……。
なるほど、出会った時に、ゴブリン相手に怯えていたのはそういうことか。
「……そういえば、クリスよ。貴様の戦闘スタイルだが――」
「グレイの兄貴! そろそろ、俺たちも模擬戦やろうぜ!」
「ん? ああ、いいだろう」
まあ、クリスの件は後でいいだろう。
まずは、クロマとの模擬戦……ケイネス以降、初の現代人との戦闘だ。
(さあ、楽しもうじゃないか)
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