第8話 我、2日目にして
「起立、礼」
日直の号令とともに、生徒たちが一斉に駆け出す。
その目は血走っており、なにかに掻き立たれているようであった。
「な、なんだ! 敵襲か?」
「あぁ、あれは購買に行く組ですね」
「購買?」
「パンとかの軽食を、安く売ってくれてるところですよ。……すぐ売り切れになってしまうんで、昼休みになった瞬間に走り出さないと、お昼ご飯抜きになっちゃうんで、みんな必死なんですよ」
なるほど、簡易的な商店ということか。
ん? お昼ご飯抜き?
「クリスよ! 我たちも急がねば! クソ………出遅れてしまった!!」
「ああ、それなら大丈夫ですよ」
急ぎ購買に向かおうとする我を、クリスが制止する。
「ボク、お弁当作ってきたんです。これ、魔王さんの分も」
「お弁当?」
「編入したばかりの魔王さんに、いきなり購買での争いは酷かな……って思って、用意させてもらいました!」
なるほど、我を慮っての行動か……だが。
「いや、昨日から世話になりっぱなしだ。これ以上手間をかけさせるわけにはいかん……。やはり、我は購買で――」
「え……でも、魔王さんってお金持っているんですか?」
「――うぐっ!」
そ、そうだった……。
よく考えれば、我はこの時代の金銭を持っていない。購買に行ったところで、何も買えないではないか……。
……昨日のメテオドレイクの素材、今から学院長に返してもらえるか……?
「ほら、やっぱり無いじゃないですか」
「うぐぐ…………世話になる」
「いいですよ、どうせ魔王さんが無一文って思ってましたし……それに、いつもお弁当作ってるので、1人分も2人分も変わんないです」
……相変わらず、変なところで堂々としている女だ。だが――
「――それでこそ、新生魔王軍の、第1の臣下だな」
「……え、ボクって臣下だったんですか?」
「…………え?」
い、今、なんと言った?
「え、わ、我に忠誠を誓ったのでは……」
「え? いやいや、そんなこと一回も言ってないですよ?」
「じゃ、じゃあ、我に色々と尽くしてくれるのは……」
「出会った時に助けて貰いましたし、恩返しです」
そ、そんな……結成したばかりの新生魔王軍が、いきなり崩壊……だと……?
我が首をうなだれ、落ち込んでいると、やれやれと言った顔で、クリスが右手を差し出す。
「わかりましたよ……。ボクでよければ、魔王さん臣下になりますよ」
「お、おお!! それでこそだ! クリスよ!!」
崩壊からの再結成
「なにはともあれ、これで新生魔王軍の真の結成だ! これからも、我のもとで大いに活躍すると良い!!」
「もう……魔王さんってば、調子いいんだから」
「そうと決まれば、決起集会として、
「そんな大したものじゃないんですが……ま、お腹も空きましたし、早く食べちゃいましょうか」
おお、肉が多いな! 我好みではないか……では、早速いただきま――
「うぉぉぉぉ!? クリスちゃんの手作り弁当だとぉぉぉぉ!?」
「む……誰だ貴様。せっかくの昼食時に」
ようやく食事にありつけると思ったところに、突然、乱入者が現れた。
乱入者の方に顔を向けると、茶髪の青年が、口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。
「まじかぁぁぁ! こんなん付き合ってる確定じゃねえかよぉぉ!!」
「付き合ってないよ! もう、冷やかさないでよ、クロマ君!」
「クロマ? それが貴様の名か?」
男……クロマは、待っていましたと言わんばかりに、親指を自分の方へ向け、名乗りを上げる。
「おうよ! 俺の名前はクロマ•ロック! 逆から読んでもクロマ•ロック!! なかなか、シャレの効いた名前だろ!?」
「…………いや、逆から読んだら、クッロ•マロクにならないか?」
「ギクゥ!! さっそくバレちまったか!?」
いちいちオーバーなやつだな……。
「魔王さん、彼はクロマ君。見ての通り、クラス1番のお調子者です」
「お調子……ああ、あの
「おぉぉい!! 浮いてたってなんだ!? ……え、俺浮いてんの? マジで?」
たしか、今朝の我の自己紹介の時もリアクションが特段大きかったな。
クロマは、ショックを受け、少しイジけたように縮こまっている。
「えぇぇ……俺、クラスのリーダー的ポジションだと思ってたのに……」
「ま、まあ、人気はありますよ」
「え、マジ!?」
「女子以外からは」
一度復活したところを、再び地の底に叩きつける……、なかなか酷なことをするな。
「まあ、なんだ。ファイトだぞ」
「あざっす……編入生」
涙を拭きつつ、クロマはスッと立ち上がる。
「そういや、編入生、朝のとき、なんかオモロいこと言ってなかったか?」
「オモロいこと?」
「そうそう、魔王軍がなんとか〜ってやつ」
ああ、そのことか……。我の宣言って、オモロいこと、に部類されるのか?
「アレってなに? ギャグ?」
「ギャグではない。言葉通り、我は新生魔王軍を作る。そのために、まずは人員を集めるのだ」
「新生魔王軍……。それ、めっちゃオモロそうじゃん!」
机に勢いよく手を置き、目を輝かせるクロマ。
「それ、俺も立候補していいやつ!?」
「……え、クロマ君も魔王軍入るの?」
「ほぉ、自ら志願するとは、なかなか見所があるではないか」
いささか、その場の雰囲気だけで言っている感もあるが……まあ、そこはよしとしてやろう。
「え、正気……? 正直、あまり良いものではなさそうだし、やめといたら……?」
「大丈夫! 俺の座右の銘は『面白いことにはとことん乗れ』だからな!」
「いい言葉だな、我も…………待て、クリスよ、今なんか変なこと――」
「それじゃあ、なんにしても、新しいメンバーが増えたことだし、乾杯でもしますか? ジュースですけど」
……まあ、いいだろう。
「それでは、新生魔王軍、第2の臣下クロマ•ロックの加入を祝して……乾杯!」
「かんぱーい」
「乾杯!! いぇぇぇい!!」
まあ、少し変わったやつだが……魔王軍が増えたのは喜ばしいことだ。
復活2日目にして臣下が2人……これは、復興も早くできそうだな。
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