第7話 我、学生になる
「えー、今日からこのクラスに、新しい生徒が加わわります」
「マジかよ! 男子? それとも女子!?」
「男子です」
「まじかぁぁぁ! 女子じゃねえのかよぉぉぉ!!」
男子生徒の、欲望丸出しの叫びに、男子たちは笑い、女子たちはちょっと引いている……。
かくゆうボクも、苦笑しつつ、心は期待に胸弾ませている。
(今日から、あの人が来るんだもんな……)
「それでは、編入生、入りたまえ」
*
「ブァッハッハッハッ!! まさか、本当に今日中に持ってくるとはなぁ!!」
「フン、当然のことだ」
日が沈み、日付が超える少し前。
約束通り、ドラゴンのツノを持ってきた我を見て、高笑いを上げる学院長。
「だが、随分とギリギリだったな? あと5分もすれば日付が超えていたぞ?」
「……まあ、色々あってな」
帰る途中、疲労の限界がきたクリスを背負っていたもあって、思ったよりもギリギリになってしまった。
……まあ、今日は1日中歩き回っていたらしいからな。魔王城で我と出会い、王都に戻り、廃鉱山へ行き……仕方あるまい。
「だが、約束のものは持ってきたのだ、文句はあるまい」
「あぁ……だが、私はツノだけでいいと書いていたのに、よくもまあ――」
学院長は、呆れた顔で、窓の外にある『ソレ』を見つめる。
「――ドラゴンの死体を、丸ごと持ってくるなんてな」
「なに、ギリギリにつきそうだとは思っていたからな、サービスだと思え」
「サービスと来たか……」
ツノが思ったよりも大きかったので、収納魔法――
「ちなみに、これらはどうするのだね? 傷はついてるが、それでも一級品のものだ。装飾品にするもよし、金品に変えるもよしだぞ」
「そんなものに興味はない。貴様にくれてやる」
元より、試験のために採ってきたものでしかない。
「それはありがたい。研究室に回すなどして、丁重に取り扱おう」
「それよりも、だ。これで、編入試験は合格で良いのだろう?」
「もちろんだ。文句ひとつなく合格だよ」
よし、これで、ようやくこの世界のことを学べるな。
「それで、約束していた褒美の件だが……」
「ん? ああ、そんなことも言っておったな」
「まず、前提として、我が学院のクラスシステムを伝えておこう」
学院長の説明はこうであった。
学院にはクラス分けがあり、入学時点で成績が低かったものが入るCクラス。
そこからBクラス、Aクラスと成績が上がっていき、最上位の、学院有数の実力者が入流ことを許される特別クラス……Sクラスが存在する。
Sクラスに入ると、様々な恩恵が手に入り、その中でも上位のものは、卒業後には、王宮入りすることや、貴族入りする権利まで与えられることもあるらしい。
「本来、編入生がいきなりSクラスに入ることはないが……。特例として、君をSクラスに招待しよう」
「ほう? 我に相応しい舞台だな」
「それでは、この編入生の登録書類に――」
学院長が説明を続ける中、ふと、ある考えが浮かぶ。
「学院長よ。そのSクラスに入れるということは、どのクラスに入ることも可能なのか?」
「うん? ……まあ、そうだな。クラスごとに実力を分けている以上、最上位のクラスに入る実力を持っている君からしたら、どのクラスに入ることも可能だろう」
「そうか、ならば――」
*
「編入生であり、魔王でもあるグレイ•サタルキスである!! 気軽に名を呼ぶことを許可しよう!!」
「…………魔王?」
「魔王って……?」
我の明朗快活な自己紹介に、教室内にどよめきが起きる。
……おかしいな、ハキハキとした、好青年風でいってみたんだがな。
「ふふっ、魔王さん、相変わらずですね」
ザワザワとしている教室の後方に、見覚えのある顔が、こちらに小さく手を振っている。
「おお! クリスよ、今日からクラスメイトであるな!」
「え、クリスちゃん、友達なの?」
「も、もしかして、あいつ、クリスちゃんの彼氏か!? チックショー! 俺だけが魅力に気付いてると思ってたのに!!」
「はぁ!? 俺の方が前から気付いてたし!!」
我が学院長に願った内容。
それは、クリスと同じクラスに入れてもらうことであった。
――いいのかね? 彼女はCクラス……。1番下のクラスだぞ?
――よい、我の恩人がいるというだけだ充分だ。それに……
(1番下から這い上がる、というのは久しい感覚だからな)
「貴様たちに、最初にひとつ、言っておくことがある」
「お? なんだ〜? 面白いのを期待してるぜー! 編入生!」
我の言葉を聞き、男子生徒がはやし立てる。
我が、昨日1日、この世界を経験した上で、決めた……この世界での、新たな目標。
「宣言しよう! 我は新生魔王軍を結成する!! その礎として、まずは貴様らを、我が配下として迎え入れよう!!」
我の宣言に、教室が再びザワめく。
「ま、魔王軍……?」
「え、配下? 俺たちが?」
「何言ってんだ……?」
「ははっ! 編入生マジかぁぁ! 超ウケるんですけど!」
驚く者、冗談と思い込む者、呆れる者。
様々な反応で溢れかえっているが……1人だけ、困ったような笑顔でこちらを見ている女子生徒がいる。
「もう……今度は一体、何をする気ですか? 魔王さん」
見ておれ、クリスよ。
この時代での臣下第一号であるお前には、特等席で、面白いものを魅せてみよう。
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