第6話 我、竜と戦う



「ま、魔王さ〜ん。置いてかないでくださいよ〜」


「……クリスよ。ここまで案内してくれたのは嬉しいが……。このペースだと、今日中に試験をクリアするのが難しくなってくるぞ」



 試験内容を確認した我たちは、王都を出てすぐの、廃鉱山地帯を進んでいた。



「す、すみません。頑張ります!」


「……さっきも言ったが、無理に着いてこなくて良いのだぞ? これは、あくまで我の試験なのだからな」



 ドラゴンのツノの入手といっても、まず、この時代のどこにドラゴンがいるかすらわからない。

 我が悩んでいるところで、クリスがある情報をくれた。


――そういえば、最近、王都の近くの廃鉱山でドラゴンを見た……という噂を聞いたことがあります。


 ただの噂でしかないが、居場所もわからないものを闇雲に探すよりもマシ、ということで廃鉱山を探索することとなったのだ。



「で、でも、こんな危険なことをする魔王さんを、見過ごせないですし……」


「自ら口にしているだろう? 我は魔王だ。そんな心配などは必要ないぞ」


「……それに、魔王さん、ちょっと方向音痴じゃないですか?」



 む、我が方向音痴だと?



「無礼なやつめ、一体我のどこが……」


「いや、王都出た時も、東に向かえっていってるのに、真っ直ぐに西に歩き始めたじゃないですか?」


「うぐっ……」



 痛いところを突く……。

 我は、基本的には魔王城に陣取り、戦場へ出る時も、配下たちに先導をさせていたのもあり、あまり我単体でどこかへ向かうことがなかった。

 まさか、その弊害が千年後に響くとは……。



「そんな状態の人を、流石に1人で出歩かせるわけには……」


「わ、我は子供ではないのだぞ!?」


「いや、今どき、子供でもあんな真反対に行けませんって……」



 ぐぬぬ……クリスめ、気弱そうに見えたが、なかなか言うではないか。



「……いいだろう。だが、ゆめゆめ忘れるな、これはあくまで我の試験だ。案内以上の手出しは無用だぞ」


「あはは……ボクにそんな力ないですよ……」


「……それにしても、ドラゴンなど、一向に見当たらないぞ。もう山頂も近いのではないか?」



 日も傾き始めた、王都に戻る時間も考えると、そろそろ見つけないとマズいかもな。



「早くしないと、我、学院に通えないぞ」


「もぉ……魔王さんが、今日中で〜なんて言うからですよ? 余計なこと言わなければ、1週間あったんじゃないですか」


「バカもの! 魔王である我が、その辺の者どもと同じ条件で良いわけがないであろう!」



 王たる者、民草の先をいかねばならぬ。

 たかが試験であるが、たかが試験であるがゆえに、我は自らにハンデを課すべきだ。



「へぇ……大変なんですね、魔王って」


「ああ、だが、その重荷を背負ってこその、誇りある生き方だ」


「……なんか、かっこいいで――きゃぁ!?」



 突如、地面が揺れ始める。

 激しい揺れで、クリスは立っていることもおぼつかない様子で、その場に倒れ込みそうになる。



「大丈夫か、ほら、我の肩に掴まるといい」


「あ、ありがとうございます……、で、でも、この揺れって一体……」


「どうやら、もう歩き回る必要がなくなったようだ」



 クリスを支え、鉱山の頂上付近を見上げると、巨大な影が見える。

 あれが、この揺れの正体だろうな。



「あ、あれは……ド、ドド、ドラゴン!?」


「ああ、あの見た目……メテオドレイクだな」



 千年前にも存在した竜種だな。

 鉱物を食すのを好み、体内の炉で溶かし栄養に変え、肉体の強度を増し、成長する……ドワーフ泣かせのやつだ。



「め、メテオドレイクって……たしか、上位種のドラゴンですよね!? に、逃げましょう!」


「バカもの、何のためにここに来たと思っておる!」



 獲物がわざわざ自ら歩いてきたのだ、これ以上のチャンスはあるまい。



「ギャォォォォ!!!!」



 メテオドレイクの咆哮が響く。

 その響きだけで、辺りの脆い岩がひび割れていく。



「ひぃぃぃぃ!?」


「ふむ、見たところ、この個体はまだ成体になりたての……ひよっこだな」


「ど、どこがですか!? あ、あんなのと戦ったら、命がいくつあっても足りませんよ!!?」



 泣きそうな顔になったクリスが、我の体にしがみつく。



「ええい、鬱陶しい! 我は今からあのトカゲと戦うのだ、クリスはその辺に隠れておれ!」


「む、むむむ、無理です! 腰が抜けて動けないです!!」


「はぁ!? ならここで待っていろ、我は行く!」


「いやですっ!! 魔王さんの側が1番安全そうじゃないですか!」



 我とクリスが言い争っていると、それに気付いたメテオドレイクが、魔力を貯め、攻撃の準備を始める。



「む、ブレスが来るぞっ!」


「ひぃぃぃぃ!? し、死んじゃうぅぅぅぅぅ!!!」


「グゥゥゥゥゥゥゥ……グガァァァァァァァ!!!!」



 メテオドレイクの口から、勢いよくブレスが放たれる。

 体内の炉から生み出された炎に、消化しかかっている鉱石のつぶてが織り交ぜられたそれは、辺りの岩盤を削りながら、瞬く間に我たちの眼前へ迫る。



「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


「ええい! 案ずるなと言っておるであろう!! ――飛翔ウィングッ!」


「え、え? えぇぇぇぇぇぇ!!?」



 慌てるクリスを抱き抱え、浮遊する魔法により宙へ飛び立つ。

 飛翔した我たちの真下を、ブレスが通過する。



「ひぃぃぃ、ぎ、ギリギリじゃないですか!?」


「誰のせいだと思っておる! 我だけであれば、こんな大袈裟に避ける必要もなかったのだぞ!」


「グギャァァァァァァァ!!!」



 宙を浮く我たちに苛立ったのか、再びブレスの準備をするメテオドレイク。

 フン、この我が、2度も打たせると思うか?



「悪いが、さっさと終わらせてもらうぞ。――業風テンペスト



 メテオドレイクの足元に、小さい竜巻が発生する。

 竜巻は、徐々に勢いを増し、数秒もしないうちに、メテオドレイクを飲み込むまでに巨大化していった。



「グガ、グルルルルッ!?」



 異変に気づいたメテオドレイクが、竜巻から脱出しようとするが、もう遅い。



「ググ、グギャァァァァァァ!!!?」



 竜巻は、鋭い風の刃となり、メテオドレイクの頑強な皮膚を切り裂く。



「な、なんで、あの岩みたいな皮膚が切り裂かれてるんですか!?」


「当たり前だ。我の風に、切り裂けぬものはない」



 話している間にも、メテオドレイクの体はみるみるうちに切り裂かれていく。



「……そうだ。ツノを持って帰らねばいけぬのだった」



 業風テンペストの勢いを調整し、一時的に、メテオドレイクを解放する。



「グルルルル……」



 解放されたメテオドレイクは、目を血走らせ、我を睨みつける。

 この報い、必ず受けさせてやる……といった様子だな。



「グォォォォォォォォ!!!」


「だが、その復讐は果たせそうにないな」


「グォ――」



 風を一点に集中させ、巨大な不可視の刃を作り上げ、メテオドレイクの首を目掛け、横薙ぎに振るう。

 切り落とされた首は、大きな音を立て、地面へと落ちていく。



「……す、すごい! 本当に勝っちゃいました!!」


「当たり前だ。あの程度、我が苦戦するような相手ではない」




 まあ、なんにしても、これで試験はクリアだな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る