第3話 我、現代人と戦う
魔王城を出て、数刻ほど歩き続けたころ、ようやく、クリスの言う王都へと辿り着いた。
「おぉ、おぉぉ! おおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「どうですか? ここが……王都レクシスです!」
人、人、人ッ!
物凄い数の人たちが、屋台や露店で賑わい、活気にあふれている。
人間だけではない、見渡すと、数は多くはないが、魔人や獣人も笑顔で混ざっている。
「本当に……共存しているのだな。血が流れていない」
「魔王さんの時代、どれだけ物騒なんですか……」
戦争もない時代と、戦争の最盛期の時代……まあ、別の世界と言っても過言ではないな。
平和な街並みに驚いていると、腹の虫が鳴り始める。
「むぅ、腹が減ってきたな」
「まあ、結構歩きましたからね……そこの露店で何か食べますか?」
「うむ! あの香ばしい匂いのするものを所望する!」
入ってすぐにあった、肉を焼いている店を指差す。
「ああ、焼き鳥かぁ。いいですね! おじちゃん、焼き鳥2つお願いします」
「あいよ!」
クリスが店員に金を渡し、焼き鳥を両手に握って戻ってくる。
その香ばしい香りに、思わずヨダレが出そうになる。
「はい、魔王さんもどうぞ」
「うむ! ……んん!! 美味い!!」
なんだこの味は! 今まで食べたことないぞ!!
「……さっきも思いましたけど、魔王さんって、すごく美味しそうに食べますよね」
「当たり前であろう! こんな美味なるもの、我の時代にはなかったぞ!」
「そうなんですか? 古城でたべてたのも、念の為に持ち歩いていた非常食で、味付けも薄かったのに……」
なんと、あれが非常食だと?
それに味が薄いとは……現代の者たちは、贅沢なのだな。
「特に、この焼き鳥というものの味は格別だな。どんな塩を使っているのだ?」
「塩……? いえ、それは塩じゃなくて、ただのタレだと思いますけど」
「タレ? なんだそれは」
ふむ……クリスの話によると、この時代には、様々な調味料が存在するようだ。
我の時代は、戦争のせいもあり、味付けにこだわってなどいられなかったから、塩以外の味を知らなかったが……いい時代だな!
「というか、非常食だったのか。我が食べてしまって良かったのか?」
「ああ、いえ、結局長居しないですんだので、全然大丈夫ですよ」
「む? そういえば、クリスはどうして、我の城にいたのだ?」
人の気配がすると思って、体を引きずってクリスの元へ辿り着いたが……あの時は空腹状態で、あまりかんがる余裕がなかったな。
「あ、え〜と……それは……」
「ん? んん? おやぁ〜? クリスちゃんじゃないかぁ!」
「……っ!」
クリスが言い淀んでいるところに、通りかかった男がクリスの名を呼び、近づいて来た。
なんだ、クリスの友人か?
「おいおいクリスちゃぁん? ちゃんと命令通り、お宝の一つでも持ってきたのかぁい?」
「あ、いや……」
「ん〜? どうやら手ぶらな感じだし……まさか、この私に逆らったのかな〜?」
……どうやら、友達、という雰囲気ではないな。
「おい、貴様。クリスとどういう関係かは知らんが、嫌がっているだろう、離れろ」
「んん? なんだい君は、君こそ誰だい?」
「ま、魔王さん、ボクのことはいいですから……」
慌てた様子でクリスが仲裁に入ろうとする。
だが、男はそれを無視し、我のことをジロジロと見たまま話を続ける。
「まさかぁ、この私の命令を無視して、その彼氏くんと遊んでたのかなぁ?」
「か、彼氏じゃないです!」
「まぁいい、落ちこぼれの君が、私の命令に逆らった罰を与えてあげないとねぇ?」
男は、クリス胸ぐらを掴もうと手を伸ばそうとするが、それを許すわけにはいかない。
男の手を掴み、少し力を込める。
「やめろ」
「っ! なんだい君は? これは私と彼女の問題だよ、君は関係ないだろぅ?」
「いや、クリスは我の恩人だ。関係はある」
男が、鋭い目付きで我を睨む。
「それじゃあ、君が代わりに、私の遊び相手になってくれるのかい?」
「あぁ、いいだろう。我が貴様の相手をする」
「ま、魔王さん! や、やめましょう! ケイネスはそんじょそこらの人じゃ――」
クリスの静止を遮り、笑いかけてやる。
「ククク、そんじょそこらの人じゃ? ……我は魔王だぞ?」
「け、けど……」
「あ〜、もういいかな? ちょっと、そこの路地まで付き合ってよ」
男――ケイネスは、人気のない路地の方を指差す。
いいだろう。現代でも、この魔王グレイが健在であることを知らしめるのも一興だ。
*
「さぁ、かかっておいで? 一発目は譲ってあげるよ」
「魔王さん、気をつけてください。ケイネスは、かなりの実力者です。学院でも、一年生ではトップクラスです」
学院……そうか、やつは学生なのか。
若いとは思ったが、まだまだ子供だな……。
「ふむ、人の子よ。それは我のセリフだ。先手を打つことを許可する」
「あぁ? ……せっかく、人が好意で言ったのに、君、ムカつくねぇ?」
「なに、先人からの
第一、人間ごときでは我の一撃は耐えれない。
ここは、少し可愛がってやるとしよう。
「……あっそ。じゃ、一発で終わんないでよ、ね!!」
ケイオスが振りかぶり、勢いよく拳をぶつけて来る。
「硬っ……!?」
「クク、そうであろうな」
我の顔面を殴ったケイネスだが、逆に拳を痛めた様子で後ずさる。
人間ごときの拳では、触れた瞬間に使い物にならなくなってしまうぞ?
(……と、言いたいところなんだがな)
ケイネスを拳を見ても、赤くなってはいるものの、継戦は難しくなさそうだ。
……よく考えれば、魔王城から王都までの道のり、本来の我ならば、あの程度で腹が減るわけはない。
封印の影響で、体がまだ本調子に戻っていないのか。
「さて、次はこちらから行かせてもらうぞ」
「……まあいいさ。でも、君、もう何もできないよぉ?」
「なに? うぉぉ!?」
ケイネスに近づこうと足を進めようとしたが……地面が、『なくなった』?
我の体は、踏み場を無くし、体が落下していく。
「な、なんだ、これは?」
気付くと、地面に落下したはずの我が、『壁から落ちて』いた。
混乱しているのも束の間。ケイネスの追撃が我を襲う。
「おらっ!!」
「むっ……!」
バランスを崩したところに、顔面に拳を喰らい、よろけて壁に背を預けようとしたが、再び壁が消え……気付くと、我の体は上空にあり、地面へと向かい落下していた。
「まだまだいくよぉ!!」
「っ!!」
落下し、地面に着いたはずの我が、今度は壁から現れ、混乱しているところに、みぞおちに回し蹴りを受けてしまう。
やっと、追撃の嵐が止み、ようやく、大地を踏みしめることができた。
これは……空間魔法の一種か? だが、あれは高度な魔法……人間の若造に、可能だとは思い得ない。
「なんなのだ。貴様の力は――」
「はっ、なんだい? 君……その程度の力で私に挑んできたのかい?」
「――面白いじゃないか」
両足に魔力を込め、爆発的な勢いをつけ、ケイネスの眼前へと迫る。
「なっ!?」
「戦闘中にそんな余裕そうにするとは、相手を誰だと思っておる?」
「――くっ!! 【
我の拳が当たる寸前、ケイネスが消えた。
空振ったことで崩れた体勢を立て直し、辺りを見渡すと、少し離れたところにケイネスが立っていた。
「な、なんなんだよ君! まだやるっていうのかい!?」
「なに、戦いは始まったばかりであろう?」
面白い……普通、魔法には発動前の『魔力の流れ』が見えるが……やつの技には、ソレが見えない。
なんらかの隠蔽工作でもしているのか?
「さて、貴様の魔法……どれほどのものか見せてもらおうかぁ!!」
「はぁ? 意味がわかんないけど……君の本気も、そろそろ見せて欲しいものだな」
「我の……? クク、いいだろう。面白いものを見せてもらった礼だ。その一端くらいは味合わせてやる」
右手に魔力を集中させる。
さぁ、これを相手に、貴様はどう対処する?
「――
「貰った!! 【
ケイネスの方へ向けたはずの獄炎が、『我の背後』から現れ、我の体を包み込む。
「ぐぅぅ!? あ、熱いっ!!?」
いつも敵を焼き尽くしていたはずの炎が、我が肉体をも灰と化そうとする。
まさか、我の魔法までもを返してくるとはな……!
「ヒ、ヒヒ、ヒャハハハ!! なんだぁ!? あれだけ大口を叩いておいて、そんなもんかぁ!?」
自らの炎に焼かれている我は、さぞ滑稽に見えるだろうな。だが――
「なっ!?」
地獄の炎を纏ったまま歩き出した我を見て、ケイネスが目を見開く。
「ま、まだ動けるのかい!?」
「ククク……フハハハハ!! 面白いっ! 面白いなぁ!? 現代人!!」
「チッ……! もういい、飽きたよっ!! 【入り口は出口、出口は入り
我の拳が届くか届かないかというところで、ケイネスが消えた。
「クリス、今日のところは見逃しあげるよ。……けど、そのバカを私にぶつけたことはムカつくから、覚えておくことだねぇ!!」
声の方を向くと、ケイネスは路地から表通りに去るところだった。
(面白魔法を逃すのはもったいないが……まぁ、いいだろう)
「――
魔法を解除し、炎を霧散させる。
「ま、魔王さん! 大丈夫ですか!?」
「なに、案ずることはない。少し火傷しただけだ、どうせすぐ治る」
そういえば、と思い出し、先ほどの疑問をクリスにぶつける。
「……ケイネスというやつが使っていた力。あれは一体どういう魔法なんだ……? 我が封印される前は、あんな魔法見たことないぞ」
見たところ、あれは空間操作系の魔法……しかし、人間であんな芸当ができるとは、やはり思えん。
なにかしらの補助か、トリックがあると睨んでいるんだが……。
「あ、あの……すみません。質問を質問で返すようで悪いんですけど……」
「む、なんだ。言ってみよ」
すると、言いづらそうにしていたクリスが、困った顔で口を開く。
「魔法って、なんですか?」
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