一日目(2)
「ここから宿まで少しかかるんだ。お互い
男はひどく落ち着かない様子だった。
「
「リアンです」
「そして私はエルちゃんでっす! りっくんと一緒に旅してますっ。好きな果物はもも! 缶詰でもOK! よろしくぅ」
「ははっ。
ドルフは
でも。この調子が到着までずっと続くのだろうか。わざわざ親切を買って出てくれた人を
「で、だ。リアン君はどうしてこの町に来たのかな?」
「えっと。それは──」
「いやいやいや待ってくれよ。これはクイズだよリアン君。僕が回答者で、君は質問者。回答が出揃う前に答えを明かされちゃあ僕の立つ瀬がなくなってしまうだろう?」
ギブアップだ。会話は
二階建ての住宅が
まるで市販の積み木を
「
「旅行ですよ。一番最初のが正解です」
とりあえずこの辺でブレーキをかけておく。勝手に暴走した
「別に挙げた候補すべてを回答にするつもりはなかったんだけどな」少し残念そうに呟く。「ふうん。実は一番意外な選択肢が正解だったなんて。この世界と一緒だね。『最も
「アーキユリアの『
そう。あの樹の下で。幼い頃の思い出。いまだに鮮明なものとして思い起こすことが出来る。
「りっくんが私に告白した日だねっ」
違う。
あれは、お前と俺が友達になった日だ──。
レドガーさんは興奮したように「やっぱり知ってたんだね。そうじゃないかと思っていたんだ」と言ってこちらを向いた。操り人形のように胴をひねり腕を大きく広げる。はずみで
「僕は魔術についてさっぱりなんだけどね。あれは学術書というよりは実用書だと思ってるんだ。生きていく上で指針になってくれる考え方がいくつも載ってる。いやあ。僕に魔術の才があればなあ。もっと深く読み込めるのに」
言う通り確かに、レドガーさんには全くと言っていいほど才能がなかった。ぱっと見ても魔力の絶対量が圧倒的に足りない。魔術のレベルは術者のもつ魔力量に
「ふふ。僕ばっかり喋ってしまって悪いね」レドガーさんは歩調を緩めた。
「人と話すのは久々でね。ついテンションが上がってしまったよ」
「むしろ案内までしてもらってるのにお礼一つできなくて、こっちが申し訳ないです」
「そこは気にしなくても、ちゃんとお礼は貰っているつもりだよ」
住宅街を抜けて何か裏道めいた小道を進む。小道を覆い隠すように木が乱立してまるでホテルまで直通のトンネルのようになっていた。空はもう夜闇に
「新鮮な言葉は相手を刺激し自らをより深く理解するきっかけになってくれる。これは引用じゃない。僕の
僕みたいに暇を持て余してる奴は特にね、とレドガーさんは
何か
「お。そろそろ時間切れみたいだ。ほら。見えてきたよ」
レドガーさんが指をさしたその先には、今までは目にしなかった高さの建物があった。
ぼんやりと暗闇に浮かび上がった外観は、少し前の時代からずっとそのホテルが営業していたことを感じさせる
「わあっ。なんかお城みたいだよ。偉い人が泊まるホテルなのかな? もしかしてベッドがひらひらしたレースのやつかもしれないねっ。りっくん」
それは
「ふふ。この町に来てから四階建てなんて初めて見ただろう? ここは景観を保護するための条例がとても厳しいんだ。ほんとはどこも二階建てじゃなきゃダメなんだけど、あのホテルはその条例が出来る前に建てられた代物でね。それに三日月の外側に近いから上からの眺めも特に
あの綺麗なすり鉢にはそんな理由があったのかと妙に納得してしまった。
歴史の
「ここまでくればもう僕は必要ないかな。君との時間はとても楽しかったよ。ありがとう。
レドガーさんは俺の言葉を待たないうちに深い闇に消えていった。最後にきちんと感謝を伝えたかったけれどその言葉は月明かりの中で軽く
届いた気はしなかった。
重いホテルの扉を押し開き、フロントへ向かう。
「いらっしゃいませ。ご予約はされていますか?」
「いや、してないんですけど──予約なしでも入れますか?」
「現在空いているお部屋がダブルかスイートのみとなっております。恐れ入りますが何名様でのご利用でしょうか」
「一名です」
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