第14話 ヤマモモの約束
そんな都合の良い人が現実にいるわけもなし。きっとこの花壇が、まるで夢のような美しさで、この少女がかなりかっこいい登場を演出したせいだ。結果、彼女の登場はかなり残念なものになったのだけれど。
「私には、そんな青春みたいな悩みはありません」
強く言い返すと、少女はふーん、と興味なんてなさそうにヤマモモの実をかじる。
「君はさ、一人で抱え込んじゃえば全部解決! って思ってるんじゃない?」
図星を突かれて、何も言えず、ヤマモモの実を抱きしめる。
こういう話は何度も聞いた。
――話してくれないとわからないよ。
――一緒に考えるから。
そうやって話して、何か変わったことなんて一度もない。解決しないのに悩みを愚痴って、相手は嫌な思いをするだけだ。
「どうせ抱え込むのなら、誰にも見つからないように完璧に隠さないと。そのほうが面白いし。それに、誰も見ていないからって気を抜くと見つかるよ。私みたいに鋭い人には特にね」
「聞かないんですか?」
私は思わず言ってしまった。これでは自分からは言わないけれど、相手から『悩みがあるなら話して』と言ってほしい面倒くさい人のようだ。
「興味もないのに、何を聞くの?」
しばらく沈黙が落ちる。
私は居心地が悪いのに、横の少女は鼻歌を歌いながらヤマモモを磨いている。
「安心してよ。君がここに来た以上、そんなヤな顔で帰さないから」
「何を根拠に……」
「大丈夫。私、遊びの天才だから」
そう言って、六個のヤマモモの実を押し付けて歩いてどこかへ行ってしまった。
天然なのか、天才なのか。私の家族の分のヤマモモの実を残して去った少女。
お土産ができた、そう思って帰ろうとしたところで、ユカリ先輩とケイ先輩に捕まり、今に至った。
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