第7話 四人目・アイドル四季
俺が声をかける前に、暗い赤髪の王子様が現れた。手を振り上げた男の手を掴んでいる。この状況だから王子様に見えた、のではなく服装が王子様なのだ。
「邪魔すんな……って、お前どっかでーー」
怖いものを見る目で、関わらないように避けていた女の子たちが騒ぎ出す。
「ちょっと! アイドルの四季君じゃない!?」
「王子コスかっこいい〜!」
女の子の声にアイドルの四季はにこやかに手を振る。が、すぐに手をあげようとした男を睨んだ。
「女の子に手をあげるとか、男としてどうなの?」
赤いマントにエポーレットのついた、紫の軍服。
アイドル四季といえば、最近流行りのソロアイドルだ。コマーシャルからお笑い番組まで。ユーモアもあり、芸人とも上手く絡む。にも関わらずアイドルのかっこよさを失わない完璧な芸能人だ。彼もこの学校だったのか。一つ上の年齢なのは知っていた。確かにこの学校にも芸能科はあった気がする。
王子様のコスプレなのか。さすがは芸能科。華やかさのレベルが高い。このクラスはかなり本格的だ。
紫は古来より王族にのみ許される高貴な色だ。さらに、おとぎ話に出てくる王子様の服は主に軍服を派手にカスタマイズしたものである。エポーレットとは、肩にあるファサファサした、タワシみたいな物のことだ。
アイドル四季の服に紫を用いり、イギリスの軍服をベースに装飾したこの衣装。かなりクオリティが高い。
そんなことを考えているうちに、女の子が集まりだした。
「何の集まり?」
「アイドルの四季君が女の子をかばってるんだって。王子様のコスプレして」
「何それ、めっちゃかっこいい! 可愛い系の顔で性格は紳士とかヤバい」
「てか、女子一人を囲って声かけるとか、ウケる」
「どこの少女漫画だよ。現実にあるんだ、そんなこと」
女の子がアイドル四季を褒め称える裏で、手をあげた男を罵る声も上がってきた。波紋は確実に広がりをみせて、近くの出し物の生徒や、実行委員、生徒会まで出て来た。
手をあげた男は、引くに引けなくなっている。唇をワナワナと震わせた。
「は、恥をかかせやがって!」
声は震えていた。顔も真っ赤だ。捨て台詞なのかと思ったが、今度はアイドル四季に手を振り上げた。もう自暴自棄になっている。妙にプライドの高い男だ。
アイドル四季は避けようとはしない。後ろの美少女に当たることを案じているのだろう。自身の売り物に傷がつくかもしれないというのに最後まで女の子を庇うとは、男の俺から見てもかっこいい。
「そこまでにしたらどうですか」
満を持して、俺が間に入った。ここはアイドル四季に花を持たせるべきだったのかもしれない。しかし、止められる位置にいた俺が止めないで、アイドルの顔に傷ができたら後味が悪い。
「っち。おいお前ら! 少しはーー」
何を言いかけたのか。右手はアイドル四季に、左手は俺に掴まれた男は振り返った。
「さっきまでここにいたお仲間なら、ひと足先に逃げましたよ。これ以上なにかをするつもりなら、迷惑行為でそろそろ警備員に連れて行かれますけど、大丈夫ですか?」
いつの間に現れたのか。ケイちゃん先輩が声をかけてきた。先ほどは俺と受付にいた。さらに俺とは反対方向に向かった気がしたのだが。それほど時間は経ってはいないのに、もうここに駆けつけるほど話が広がっていたのだろうか。恐ろしい男――先輩だ。
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