第4話 二人目・ケイちゃん先輩

「え〜と、橋谷中学の……?」

ケイちゃんはユカリ先輩がしゅんとして仕事に戻るのを見届けると、俺に視線を向ける。さりげなく腕を引いて受付の奥へ押し込まれた。

ユカリ先輩はケイちゃんの登場で、ようやく俺の手を離した。しかし、今も仕事をしながらこちらをチラチラと見ている。やりづらい。

「桧山洸と言います、先輩」

緊張して名乗ると、ケイちゃんは穏やかに呟く。

「名門の私立橋谷中学の桧山というと、一代で元の十二倍の資産を築いた桧山浩大の長男かな」

俺は複雑な心境だ。苦い顔で肯定した。

「よくご存知ですね」

「桧山さんのご長男は優秀だと有名だからね。そうだ、優秀な君に頼みたいことがあるんだ」

先ほどまでは爽やかな印象だったケイちゃんは、どこか仄暗い雰囲気で俺を見る。

身長的には俺より五センチくらい高そうだから、見る、というよりも見下ろすが近いかもしれない。俺は百七十四センチ。まだ伸びる、と信じたい。

「もしかして……」

思考を会話の内容に引き戻して、察した。

「さすが優秀だね。その通り。ユーリを探してほしい」

初対面で情報も無いのに、かなり無理のあるお願いだ。

「ケイ、先輩が探した方が情報も多いし、早いんじゃないですか?」

「私! 私がユーリを探します!」

若宮学園の文化祭は毎年レベルが高いと有名だ。生徒と学校から配られる招待カードと、受験生が見学に来る時、学校がやり取りをしてもらえる、見学カードのどちらかがないと入場はできない。けれど、自治体に配られる招待カードもあるため、結局的に来場者は毎年かなりの人数になるのだという。

その情報は確かなもののようで、ユカリ先輩は長蛇の列をさばきながら大声で俺とケイちゃんの会話に混ざる。

変人、という印象だったユカリ先輩は、意外と仕事ができるようだ。変人と仕事ができないことにつながりは無さそうだが、イメージ的な話である。変人というより、アホの子、というのだろうか。

「ユカリはここにいた方が良いと思うよ。ユーリにちゃんと頑張ったって報告できたほうがいいんじゃない? ユカリが仕事を放ったら、ユーリが怒られるかもよ」

「う……」

ケイちゃんの言葉を聞いてから、ユカリ先輩は会話に混ざってこなくなった。少しだけ落ち込んでいるように見えなくもないが、真剣に仕事をしている。やはり黒髪美人は真面目なのかもしれない。偏見ではあるが。

「まずは一年二組にミハラって男子生徒がいるんだけど、彼ならユーリと同じ部活だからなにか知っているかもしれない。行ってみたらどうかな」

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