第3話 一人目・黒髪美人実行委員

――俺とユーリちゃんって、大して年齢は変わらない気がするけど。

汚れた顔も、少しだけよれたパーカーも、今を全力で楽しんでいる様子も。青春を感じさせる爽やかさだった。

声をかける前に、ユーリちゃんはどこかへ消えていた。

――あのユーリちゃんが、運命の出会い?

あまりに鮮烈な印象のユーリちゃんにそんな思いが浮かんだ。けれど頭を振った。

今は文化祭を楽しんで、進路を決めなくてはいけない。

それでもユーリちゃんの爽やかな笑顔が、頭から離れなかった。


入場口には、文化祭実行委員のプレートを付けた、大人しい印象の美人が座っている。

「若宮祭へようこそ! 我が校の青春の一ページに、あなたも参加していってください! ここにお名前と招待カードをご提示ください」

黒髪をハーフアップでまとめている文化祭実行委員。髪をまとめているバレッタに見覚えがある。少しバレッタを眺めていると、黒髪美人実行委員が小首を傾げる。

不審に思われないように、急いで名前を書いた。招待カードの代わりに、橋谷中学の教師が準備してくれた見学カードを渡す。

「橋谷中学の桧山、洸さんですね。ようこそ若宮祭へーー」

黒髪美人実行委員が定型文をつらつらと述べながらパンフレットを渡してくれる、が。俺がパンフレットを受け取る前に、黒髪美人実行委員は固まった。真面目で融通の効かないタイプに見える黒髪美人実行委員は、目をまんまるにして立ち上がった。

「ユーリに会ったのですか!?」

「次の入場者様はこちらで受付けまーす」

興奮する黒髪美人実行委員が機能を停止したことを察したのか、横で作業をしていた他の実行委員が声をかける。

「ユーリ、というと、ショートボブでふわふわした髪の女の子ですか?」

黒髪美人実行委員は俺の手を取ってうるうるとした瞳で訴える。

「ユーリは私に実行委員の代理を頼んでどこかへ行ってしまったの。何か悪い予感がするから捜しているのだけど見つからなくて……。その制服の胸ポケットに付いているヘアピン、私がユーリにお揃いでプレゼントした物なの」

――――。

一分ほど経ったが、黒髪美人実行委員代理は長々と、息継ぎもせず、ユーリちゃんについて話している。

俺はかなり早い段階で話を聞く気がなくなり、ぼんやりとユーリちゃんが残したヘアピンを眺めている。

――さっき、どこかで見たと思ったのはこのヘアピンだったのか。いつの間にこんなところに付けたのだろう。

「ユカリ。そろそろ、その後輩を解放してあげなよ」

今度は黒髪美人実行委員代理――ユカリ先輩と親しげなイケメンがやって来た。

親しげなイケメンは暗めな茶髪でセンター分けの爽やかな人だ。制服の右腕には生徒会の腕章が着いている。ユーリちゃんを必死に追いかけていた人の上司的な人か。

「ケイちゃん! ユーリの目撃情報を見つけたわ! この橋谷中学の子も……」

「ユカリ、ユーリが好きなのは結構だけど、迷惑をかけるのはいただけないよ」

興奮気味なユカリ先輩を穏やかに、そして爽やかにたしなめる。ケイちゃんは、ユカリ先輩の扱いをよく心得ているようだ。

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