第36話あのぉ、ギャルだなんて聞いてないんだけども?
『ごめん、もう少し待って欲しいっ!」
コーディネートするために決めた集合場所で20分、月見の部屋までに20分。
「遅いですね」
そこには俺より先に苺谷がいた。
先……というか、前の集合場所にいなかったから、おそらく最初からここで待っていたか。
てっきり俺と違って、見本の意味も込めて私服で来るかと思っていたけど制服なんだな。
あくまでメインは月見で、自分のセンスどうこう出す気はない訳だ。
「下手なりに頑張ってんだろ、全力なんて言うから」
「じぁ、なんて言うんですか? 全力を見ないと本番相手にされるかも分かりませんよ?」
しかし、それにしては額に汗が浮かんでいて、息が上がっているような気がする。
こいつも平然な顔して責めてるけど、遅刻しそうになったのか?
「妥協できるレベルでとか伝えたなら言い訳できただろ『手抜きしすぎちゃったっ! てへっ』って」
「それは……そうかもしれませんね」
スマホを眺めながら壁に寄りかかり、足をつけ、落ち着かない様子で蹴っていた苺谷の隣に並ぶ。
隠れて覗き込むと、電子書籍アプリを開いていたらしく、ズラーっと本のタイトルが並んでいた。
特段変なものを見ているわけでもないし、足も落ち着いている。
考えすぎたか?
「大丈夫か?」
それでも一応の確認してみると、動いていた指が止まり、俯いていた苺谷の顔が上がって目が合う。
「何がですか? 女の子のスマホを覗き込む癖、無くしたほうがいいですよ。私は完璧だから別に構わないですけど」
そして意味が分からないとばかりに聞き返し、言い訳だと思われたのか苺谷は注意してきた。
見えやすいようにスマホを近づけ、好みや個人的な趣味もあるだろうに、スライドまで。
個人的なアカウントは分けているタイプか。
「しょうがないな、そこまで言うなら——ありがとうございます」
薄目呆れた顔し、スマホを引っ込めた苺谷に爆速でお礼を言う。
「なんか……ヒロインとか言ってた初日と違くないか?」
「はいっ、見て欲しいんですっ!
なんて媚びるのも違いますからねぇ」
その効果もあって苺谷はスマホを見せ、丁寧にスライドまでしてくれる。
「でも……もしぃ、そっちが好きなら、先輩だけ……特別にぃ、媚びも売りますよぉ?」
そして思い出したかのように、恥ずかしげにした。
わぁ、ギャルゲーなら2パターンの性格分岐になりそうな質問だ。
だけど、あいにくとここは現実。
共感はしないけど、目的のために頑張っている姿を見るのもいいし。
表裏なくありのままで対応されるのは、俺の目指していた青春って感じがするし、良い。
本人がしたいまま、強制することなんかしたくない。強制は……嫌いだ。
「どっちでも良い」
「だから先輩はモテないんですよ。ぐだぐだ言ってないで好きだからそのままで! とか言うんです」
それにしても凄いな、服装にデートスポット、髪型、ネイル、とにかく色々な本を買っている。
「聞いてます? 聞いてないですね」
それも全てが最新、だというんだから苺谷のモテたい熱意が伝わってくる。
「女の子なんだし、デートスポットの本まで買わなくていいんじゃないか?」
苺谷は俺の発言を冗談と思ったようで聞き流す。
「は? いつの時代の話をしているんですか。男の娘ブームがあってから率先して引き連れなきゃ、女の子は怠惰と思われるじゃないですか」
しかし、何度か俺の方へ視線をよこし、揶揄ったわけでもない理解すると説明してくれた。
そうか……思えば、一時期SNSでビフォーアフターの動画やスカートの可愛い男がお風呂で増えたこともあったな。
そこが常識の転換機でもあったのね。
「お……おま……たせ」
か細い声に「ようやく来た、待ちました——」と苺谷はスマホを仕舞い。
声が途切れたので隣を見ると顔を上げたまま固り、微動だにしてなかった。
「おいっ、顔に出ているぞ。いくらメイクと服装が下手くそだからって絶句することないだろ」
肘で小突き、正気に戻そうとしたが苺谷は何も言うことも動くこともなく。
ただただ視覚を確かめるように、瞼を何回も閉じるだけだった。
あの苺谷が……ここまで取り乱すなんてな。
本気出そうとしすぎて血気良く見えるように天狗とか、緑色を使いすぎてゴブリンにでもなっているんだろうか。
これじゃあまりにも可哀想だから平然を装って、頑張りを褒めてやろう。
ゆっくりと失礼な苺谷の背中から顔を出し、
「——っ」
絶句した。
「お、可笑しいかなっ?! 精一杯、まだ仲良かった小・中学生の頃に戻してみたんだけどッ!!」
目の前の人物から、確かに月見の声がした。
金色に煌めくウェーブのかかった長髪をサイドテール型に留め。
その髪を恥ずかしそうにくるくると回す指には、夜空の月をイメージした施されていて引き立てていた。
長いまつ毛は、パッチリとした目の印象を与えるほどしっかりメイクがされており。
服装は胸元を大きく開け、必要あるかも分からない上着の袖を腰に巻きつかせていた。
そう、端的に言えば……そこにいたのは。
トイレで便所飯を食べてそうで、虐められてそうで、髪の毛ボサボサで、図書館で本を読む陰湿な感じの子ではなく。
「ギャル……っぇ、ギャル?」
陽キャの中の陽キャ、見た目だけでスクールカースト上位に入るであろうギャル様がいた。
っえ……。
俺たち……月見を……あの、洗っても臭くて、芋臭い月見をモテさせようとか思って待っていたよね?
——なんか、出てきたのバチクソ金髪キャピキャピなギャルなんですけどーーっ!
明らかに陰キャな俺より上どころか、苺谷が霞むレベルが美少女出てきてるんですけどーーっ!!
っえ?
というか小・中学生の頃って言った?
言ったよね?
ってことは、黒髪になって臭くなったのは距離が離れていた訳だよな。
あぁんのぉ……幼馴染ども、再開した時に少しも変わってないって言ったくないか?
思い出補正がかかってるとしても、別人レベルじゃねぇか、よく気付いたなッ?!
絶対、目腐ってるから眼科行ったほうがいい、誰だ、こいつ。
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