第30話客観的事実として二人が言うのだから間違いない
「プライド捨てて、美味しいもの食べられるなら安いもんだ。お腹減っているだろ?」
「はぁ、まぁ、それは……そうですけど」
話しても仕方ないと諦めがついたのか、苺谷の視線が暖かく、柔らかくなった気がした。
「すっーーげぇ!」
「ぅわぁぁぁあっ」
赤く塗られた壁に虎や龍の柄が描かれ、中華鍋が吊るされており、空にはシャンデリアのようなキラキラした照明器具。
回転テーブルが何個も置かれ、生徒たちとウェイターがごった返す1階。
それらを見下ろせるよう、吹き抜けになっている豪華な2階。
「お席はこちらになります」
まるで初めて東京に来た子供のように上を見上げ、キョロキョロしてはしゃぐ俺と月見。
「うぅーーー……ま、水を刺すのもアレですし、私は気遣いができるタイプですから」
温度差が酷い苺谷は早々に席へ座り、少し恥ずかしそうに俯いていた。
それを察してか、月見も落ち着かなきゃっと苺谷の隣へと座る。
「これ、これが噂の回転する奴か」
だが、初めて見たようなものばかりで、まだ興奮が収まらない俺は回転テーブルを掴み。
少しずつ動かし、動かし、どんどんと速度を早め——
「せーん、ぱい? そろそろ落ち着きましょ? はい、ここ座ってください」
どれぐらいまで早く回るんだ、そう思っていた腕を握られ。
目だけ笑っていない苺谷から、隣に座るように促される。
「いや……俺は正面の方に座るよ。こんな席が何個もあるわけだし」
「だめです、どうやら先輩はいくつかの事項で、著しく……それはそれは著しくっ! IQが低くなる特性がある気がするので」
バランスが悪くなると思って、まだ3席ぐらい空いてる方に移ろうした。
けれど、苺谷が腕を握る力が強くなる。
「ほら、ちゃんと座ってください。私が先輩をお世話してあげますから」
ウェイターからメニューを受け取り、ウキウキで月見が眺める横で。
管理したい苺谷と自由に食べたい俺の無言のバトルが始まる。
「わ、わかった、わかった」
絶対に譲る気がない、その意思がバンバンと伝わり。結局、俺が折れる形になった。
なぜだか分からないけど、苺谷の警戒リストに入れられているな。
回転テーブルなら、爪楊枝やらお茶の入ったポットやら倒れる寸前で止めようとしたのに。
「苺谷さん何を食べたほうがいいと思う? 中華って色んな料理を頼んで、分け合うんだよね」
「そうですね、とりあえず一人一人好きな料理でいいんじゃないですか? どれを選ぶのか、実力を見してください」
メニューを見せ合い月見と苺谷がきゃっきゃ言いながら決め合う。
「じゃ、じゃ、この
「焼き小籠包、ですか? へぇ、美味しそうですね」
少し手持ち無沙汰になったので、再び回転テーブルを回す。
が、苺谷は会話しながらも器用に回り始めたのに気づいたのか、指で掴んで止められる。
「それじゃ先輩は何にします?」
俺も子供じゃない、ここは苺谷の気持ちを尊重してあげようと諦めるとメニューが目の前に差し出される。
まじか、ちゃんと俺にも聞いてくれるのか?
それもメニューだけパッと投げ渡すわけじゃなくて、二人で覗き込む奴。
っくぅ…………チョロいって言われたけど、ボッチには嫌でも「優しいな」とか思って効くシチュエーションだよ。
それなら俺も思い切って食べたいものを選ぼうかな。
上から下を眺め、気になるものがないと言う前にペラリと捲られる。
そして一枚、また一枚と見終わるたびにメニューが進む。
「お前……凄いな」
「ぇ、急に褒めてどうしたんですか?」
顔を上げると苺谷のバッチリした目と合う。
「いや、気遣いの達人というか……観察力か? 一瞬自分がめくっている、そう錯覚するほどタイミングがいい」
凄いなぁ、人間付き合いの上手さがここまでくると能力だ。苺谷は当然、とでも胸を張るだろうけど。
水餃子に紅焼豚か……日本料理店でも食べれなくはないから違うな。
このページに食べたい料理はないな。
次のページが見たい、そう思って苺谷がめくってくれるのを待った。
けれど、今度はしばらく待ってもページが捲られる気配がなかった。
「ん……どうした?」
手が止まっている動かない、そのことに気がついた俺が顔を上げる。
すると苺谷の頬は少し赤めていて、見られているや否、顔を左手で隠そうとした。
これは、もしかしなくても、
「お前、ナチュラルな動作褒められると凄く照れるタイプなのか?」
「っえ?! 私も見たいです」
月見が立ち上がり、俺の方に回って苺谷の顔を覗き込み。
彼女は両腕で顔を隠し始めた。
「照れてないです、ただ褒められるとは思ってなかったのでびっくりしただけです」
「うわっ、やっぱり夜桜さんも凄い! 苺谷さんが照れてるっ!!」
「照れてないです、先輩も否定しないならもう二度とDクラスの食事会場に連れてきませんよ」
パッと伸ばした腕で押さえ、月見と苺谷の距離を離そうとする。
しかし、腕は空振り、月見がなぜか俺の肩を掴んできた。
「「照れてないのに可哀想
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