第29話入ろう!
「うぁー、やっぱり苺谷さん凄い」
隣にいた月見はそんな苺谷に尊敬な眼差しを向けて、拍手し。
苺谷はそんな彼女を見て、なんとかしろっとばかりに居心地の悪そうな顔で俺へ要求してきた。
「なー、凄い演技だ」
入れない以上、ここで苺谷を捕まえられなかったら困る。
だから俺も全力で純粋無垢な眼差しを向け、月見と一緒にぱちぱちっと拍手した。
「じゃ、じゃぁ、この子達と約束があるのでここでお別れですね」
「あっそ、好きにしたら良い」
俺がやる気ない、そう理解した苺谷はピクピクっと頬を引き攣らせ、別れを告げ。
男の方は何事もなかったように、中華店の中へと入っていく。
「それで2人揃ってなんの用事ですかっ、邪魔しに来たんですか?」
ぶんぶん、と手を振って見送る苺谷は姿が見えなくなるや否、恨めしげに俺らを見た。
「私たちはただ応援しようと、ね?」
「な」
月見から悪意なき目で同調を求められ、つい同意してしまう。
まじか……あれ嫌がらせで拍手してなかったんだ。モテないどころか、そりゃ倍率0.1ぐらいに嫌われるよ。
「いぃや……あれで盛り上げようとしたなら、下手くそにもほどが……」
「それより良かったのか、狙ってたんじゃないのか」
ま、悪臭を放っていた女の子に言ってもしょうがないか。そう諦めた目をした苺谷。
だが、聞き返すとどの口が言っているんだとばかりに目を細めて睨みつけられた。
あー……俺だけは見透かされてる。
ひどいっ、僕だって純粋無垢に足引っ張って有難迷惑をするんだぞっ!!
「良いですよ。あの人、なんか駄目だなって感じがしましたもん」
呆気なく離れてたしな、なんて思っていると後ろに腕を組み、不貞腐れている苺谷がこれを見てくる。
「Cクラスの人って自意識過剰がすっごいんですよね……はーぁ、まだ先輩の方がチョロそう」
「おいっ」
背伸びをした苺谷は疲れたように階段を上がり、スタッフは何も言わずに「いらっしゃいませ」っと頭を下げた。
くっそ……俺らの時と違って、偉くペコペコしてるじゃねぇか。あの店員。
「どうしたんですか、話あるなら中でしましょ。もうお腹ペコペコなんですよ」
いつまでも動かない俺たちに、不思議そうな顔で苺谷は手招きをしてくる。
「いや、悪いけどDランクから無料で、俺たちは有料で入れないって断られてる」
「はぁ……ちゃんと確認もしないで来たんですか。で、誰に断られたんです?」
呆れている苺谷が聞いてくるので、俺たちは頭を下げている隣のスタッフを指差す。
苺谷は「それなら話が早い」とばかりに横を見た。
「へぇーぇ、ここって
「いぇ、そのようなサービスは……ただご友人が居るとはおっしゃらなかったものでして」
苺谷が含みのあるもの言いに、露骨に狼狽えるスタッフ。
ご友人? もしかして知り合いとかなら一緒に行けるシステムなのか。
「それなら良いですよね? 私の友達です」
「はい、勿論でございます。大変申し訳ございませんでした」
苺谷が手招きをするので、恐る恐る俺たちが近づく。
すると俺たちにも頭を下げ、スタッフは深々と90度の最敬礼で謝ってきた。
この学園なら、悪態をついたスタッフから守るシチュエーションもサービス、もあるかと思ったが本当に性格の悪い奴だったのか。
「あの、苺谷さんありがとうございますっ!」
「ふふん、一人で食べるのもあれでしたけど、もっと感謝してください」
隣へ追いついて感謝する月見に、苺谷は気持ちよさそうに受け入れ。
「ほら、先輩も何か言うことないですか?」
それだけじゃ足りないのか、くいくいっと手招きしてお代わりを俺に要求してきた。
「虎の威を借る狐も気分は良いな、くせになりそう」
なので目を逸らし、思ったことを言う。
別に苺谷が特別なにか、凄いことしたわけでもなかったのに、よくそんな恩着せがましいこと出来るもんだ。
「せーん、ぱい? そんなヒモ男みたいなコメント、私が求めてると思いました? 今から追い出しても——」
「最高だっ! 1日あったばかりの俺を嘘でも友達なんかと言ってくれたことには感謝してるし、まじ最高っ!!」
ピクピクと頬を引き攣らせ、出口を指差した苺谷に俺は速攻で土下座をした。
けれど、期限は治るどころか苺谷はさらに引き攣らせ始めた。
「あれだったら足でもなんでも舐めます、こいつなんかよりよっぽど感謝していますっ! 食べさせてくださいッ!!」
「きゃッ、ちょっ——きゅ、急にどうしたんですか?! 足に抱き付かないでくださいッ!」
歩いている途中の苺谷に抱きついたので、転びそうになった彼女は月見に支えられる。
「あぁ……あの、夜桜さん本格的な中華食べるの楽しみにしてたから、きっと照れ臭かったんだね」
「いや、いやいや、いくらなんでも豹変しすぎですって!! 銭湯の時でもそうだけど、急に素直になるとキモっ」
月見が生暖かい目でほんわか見ているのに対して、苺谷は俺を指差して罵倒する。
「んーもぅ! 転ぶ、転びますから、離れてくださいっ。冗談です、冗談ですから連れて行きます」
苺谷の言質を取った事もあり、すぐに立ち上がってネクタイを締める。
そしてちょうど先ほど謝ってきたスタッフが、哀れな目をするので「言質は取ったよな」と確認する。
「あっ、はい、問題ありません……あれでしたら私がお支払いしても」
「俺もプライドがあるんだ、そんな情けはいらない」
呆然としたまま、何を言うわけでもなく、立ち止まった二人を追い越す。
「どうした? 早く食べに行こう」
いつまで経っても足音がしない。
なので、今度は俺の方が催促すると苺谷が首を振った。
「先輩……そんなネクタイ締めて、雰囲気で流そうたって無理ですよ。プライドないんですか?」
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