第25話ちゅぴちゅぱ

「それじゃ頑張って起きてることだ——」

「一つ聞いても良いですか」


 終わりそうな流れに、目立つのを承知で声を上げる。

 ここまでも何回か、誰かが会話しようと叫んでいたけど反応はなかった。

 これを逃したら、次はいつ出てくるかも分かったもんじゃない。


「ふむ、一つだけ答えたら終わりだ」


 幸いなことに不服そうながら許可を貰え、俺は考える。

 ここで一番聞くべき内容、朝飯や夕食の献立か? それともお小遣いの量?

 違うな、一番考えるべきは『自分から動かない生徒に対する罰』も兼ねたレクリエーションなら、動いた生徒に対する緩和もないと可笑しいこと。


「誰が2時間寝たか……それはどうやって測っているんですか?」


 一つの疑問が浮かび、声にする。

 常識的に考えて、一人一人の生徒をモニタリング出来るわけがない……ここに何かしらの緩和処置があるのか?

 もし、もし突く場所を間違えたのだとしたら……意味深に納得した風を装ってメンツ保って、大人しく我慢しよっ。

 

イチ人間が行う動作を、睡眠時パラメーターと照らし合わせて『睡眠』という状況をAIに学習させて自動で測定している」


 言うことは言った、と電源はすぐさま切られ。再び、静寂に包まれる。


「っち、クソッタレっ!! いいさ、こんなとこ——」

「言っとくがカップル歴もないくせ、倍率が低い奴はコミュニケーション能力が低いと見なされる。

 おまけに退学した記録も残ったそんな奴が入れるところ、

 そんなのは土木関係か、プログラマーなんて耳障りの良い言葉を並べるも土木同様なIT下請けが関の山だ」


 金髪ツーブロが悪態をつこうとした矢先、予見したかのように言葉が並び立てられ、黙ってしまう。

 AI、なるほど……それも一人の人間と。


「なぁ、今から恥ずかしいお願いをするから聞いてくれないか」

「え…………だ、だめっ!」


 何を勘違いしたのか、胸元を隠し、スカートを太ももへ手繰り寄せ、丸っこくなる月見。


「幼馴染の男が好きなことぐらいは分かる、性的な意図はない」

「——すっ、っえッ?! ちが、いや……なっ、なんで分かったのっ?!」


 その顔は心底びっくりし、どんどん赤くなっていく。

 まさか……あれでバレないと思っていたのか?

『からかう』より『好きな人を当てて倍率下げて、お金を貰う』人間が増えたから、客観的観点を得る機会が少ないとはいえ、そこまでとは思わなかった。


「きっと苺谷も気づいているぞ」

「っへぁッ?! ほ、本当にッ?!!」


 自分のほっぺをもちもちと触り、顔を隠し始める。

 恥ずかしいのは分かるけど……話が一向に進まない。言うべきじゃなかったな。


「そろそろ本題に入っても良いか?」

「っえ、う……うん、変なことじゃないなら、するよ」


 月美はゴクリっと鳴らし、充血し始めた目で見据えてくる。

 夜遅くまでお風呂に入っていた影響で、彼女の節々から眠さが出ている。

 このままじゃ、間違いなく退学だろう。


「自分から言っといて、なんだけど……変じゃないか」


 しばらく後、ピクピクと頬を引き攣らせた俺は胡座あぐらをかき。

 シャツの隙間からお腹へ吹き込んでくる息を、我慢していた。


「すごっ……運動部だった?」


 膝枕された月見は、話を聞いてないようで俺シャツ越しにお腹へ指を当ててくる。

 あれかな……壁に押し付けたとき、胸を押し上げたから仕返しなんだろうか。


「いや……帰宅部だよ、ただ一刻も早く帰りたいから走ってただけ」

「そう、なんだ」


 恐る恐る触っていた指を離し、月見が頭を腹部へ近づけ。

 自分のシャツがマスクになったぐらい、吐息が貫通してくる。


「——っ、おまっ」


 とっさに離れようとすると、月見が俺の腰に抱きつき、意地でも離さないとばかりに接触してきた。


「一人の状況を学習したAIなら、二人で膝枕して念の為、お腹の方へ顔を隠したら大丈ふ」


 モゴモゴとお腹に直接、というかジトォっと唾液がシャツに滲みながら声を出され。


「そう言ったから、念には念を入れてギリギリまで……顔を隠したほうが………………」


 声のボリュームが少しずつ小さくなり、すぅ、すぅ、と小さな寝息が聞こえる。

 試しに肩を指で突き、顔に手を当てた。



 

 

『——ブゥぅぅぅぅっ!!』

「ちゅぅ、じゅぷ…………っ?」


 終了の合図と共に、ビクッと起き上がった月見は口元を拭き。

 腹部はおろか、胸まで唾液塗れになって、死んでる目で仰向けになった俺を、ぽわぽわな眼差しで見下ろす。


「あの…………その……なにしてるの?」


 状況が飲み込めていない月見の視線は、徐々に先ほどまで吸っていた俺のニップルへ向かう。

 なぜ医療用語かって? 恥ずかしいからに決まっている。 

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